聞こえない君と聞けなくなった僕

@kanzakiyato

聞こえない君と聞けなくなった僕

ある日の昼休み、変な音色が聞こえてきた。

聞こえてきた音色を頼りに僕は足を動かした。

行き着いた場所は音楽室だった。


一年生だろうか。

ピアノを弾いているが、何を弾いているのかわからないぐらい

ぐちゃぐちゃな音色だった。


僕は興味本位に肩を優しく叩いた。

男の子はびっくりした様子でこっちを見た。

すると男の子はメモを取り出し、何かを書き始めた。


しばらくして男の子がメモを渡してきた。

そこに書いてあったのは


『変な音色ですみません。僕、耳が聞こえないんです。』


その言葉にびっくりする僕を他所に、笑顔で礼をしてその場を去った。


それから毎日、僕は音楽室へ足を運んだ。

耳が聞こえないから話す時は筆談で会話をする。

会話の内容はいつもくだらなく、他愛もない話だった。


今日も他愛のない話かと思えば、恋愛相談の話だった。


一応先輩だから相談には乗る。でも真剣には聞いていなかった。

あの日、音楽室から聞こえてきた音色のように。聞いてて不快だったから。


もうやめてくれ。聞きたくない。

君が僕以外の誰かのものになるなんて。そんなの嫌だ。


でも、今の僕の気持ちを君に伝えれば、きっと君は驚いてしまう。

だから今はまだ伝えないでおこう。


でも君は一年生で僕は三年生。こうやって君と会えるのも後少し。

もう少ししてしまえば、僕は卒業してしまうし、いつ伝えようか。


『先輩?聞いてますか?』

「え、あぁ。聞いてるよ。でも、やめとけよ。そんな奴。」

『そう、ですよね。相談に乗ってくれてありがとございました。』


そう焦りながらも、また明日、また明日と先延ばしにしてしまう。


いつもと同じ時間に音楽室へ行く。

明日で卒業してしまうから、今日こそ伝えよう。

ドアの前で固く決意しドアを開ける。

しかし、そこに君の姿はなく、代わりに花が置いてあった。

お世辞にも花束とは言えないが三本の赤いバラが綺麗にラッピングされていた。三本しかなくても、君からの贈り物、という事実だけで、

それだけでも僕は嬉しかった。


花束の中に、小さなメモを見つけた。その内容に僕は膝から崩れ落ちた。


『先輩へ

 一日早いですが卒業おめでとうございます。

 先輩と過ごした日はすごく楽しかったです。

 こんな僕と一緒にいてくれてありがとうございまいした。』


心の底から沸々と湧き上がる様々な感情と共に、僕の目からは涙が溢れた。

こんなことになるなら、振られてもいいから、

君が好きだと、君以外考えられないと、もっと早く伝えておけばよかった。

でも、今更後悔したって君に会えないし、この声は届かない。


そよそよと風が吹き、春の匂いが僕の鼻をくすぐる。

そういえば、君と初めて会った日も、今日みたいに優しい春の匂いがした。

教室の窓からは、春の訪れを感じさせる暖かな風と、

泣いている僕を慰めるかのように、満開の桜が、ひらひらと僕の頬を撫でた。

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