第3話

『俺達今日から友達だな』


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「ラックも学園に?」

「おう。ということはセラもか?」

「ええ。私結構田舎出身だったから不安だけど、ラックがいるなら安心ね」

「ダウト」


 短い付き合いだが分かる。


「セラの毛の生えた心臓なら大丈夫だ」

「喧嘩売ってる?」

「2cで売ってるけど買う?」

「返品するわ」


 あの日は結局近くの宿に泊まった。


 俺は金欠なのでしょうがなく、本当にしょうがなく


『同じ部屋で』


 と言ったのだが


『部屋は一つ。それと豚小屋ありますか?』


 と、まさかセラが豚小屋に泊まろうなんて思ってもおらず、わざわざ二つ分の部屋を借りた。


 そして翌日、二人で学園へと向かってるにが今の状況だ。


「それにしてもセラは戦えないのに一人で向かうなんて不用心だな」

「しょうがないでしょ。私もお金があるわけじゃないし、それにいざとなったら勝てると思ってたのよ」

「そりゃまた豪胆だな」

「……反省してるわ」


 どこかしょげた様子は大変可愛らしくあるが、どこか似合わない。


「ふっ、まぁ今はこのラック様が守ってやるから安心しな」

「いつあんたに襲われそうか心配なんだけど?」

「おい!!」


 さすがに人を襲うことはもうしねぇよ!!


「でも不思議ね。私自体は強くないのは確かだけど、あなた相当強いでしょ?なんで学園に通うの?」


 正直に言うべきか。


 だけど確か師匠は


『あまりわしの名は出さないで欲しい』


 と言っていた。


 多分師匠の可愛さと強さなら国中で人気であり、その弟子である俺がモテモテになるのを避けているのだろう。


 全く師匠は昔から子供なんだからな。


「ま、俺にも色々と事情があるんだ。それに今からセラは魔法を学ぶんだ。弱いのは当たり前だろ?」

「そうね。せめて自衛出来る程度には頑張らないと」

「よ!!その意気だ!!」

「ありがとう」

「よ!!美人、天才、器量よし!!」

「もう!!同じこと2回言ってるし、それに私が賢いかなんて知らないでしょ」


 とか言ってるが、少し嬉しそうだ。


 ここは追い討ちをかけて


「よ!!馬鹿力!!」

「あ?」


 ◇◆◇◆


「意外と近かったわね」

「そうですね」


 最初は俺も100キロは遠いと思っていたが、セラと話をしながらだと一瞬って感じだった。


「退屈な旅と思ってたけど、楽しかったわね」

「俺もだ。ありがとなセラ。誘拐されてくれて」

「なんとも返事に困る言葉ね」


 でもそうね


「不幸中の幸いって言葉があるけど、幸せの方が大きければそれは確かにいいことかもね」

「なんか」


 俺にはセラには一生勝てないんだろうと思った。


「どうしたの?」

「いや。可愛いなと思って」

「そう」


 師匠ならこれで顔を赤くするが、やはりセラには効かないな。


「何だかラックが口説き文句を言う時って薄っぺらいのよね」

「そうか?」

「ええ。でも、きっとその師匠の相手の時は本当だったんでしょうね」


 ??


 バカな俺にはよく分からないな。


「ほらラック、見えてきたわ」

「お、あれか」


 小さな峠を越えると、そこには


「大きいわね」

「ああ」


 一面に広がる大きな壁と、その向こう側に見える大きな城。


 それは一見フィクションかと疑うが、異世界だと思うと納得とワクワクが止まらない。


「これが都市、アインスパか」


 なんて言えばいいのか、口にするのが難しいが


「ワクワクしちまう」


 よし


「これが俺の伝説への第一歩だ」


 そうして踏み出した足は


「アイテ」


 盛大に挫き


「うあbshkq↑shんすかbs」


 そのまま下り坂を転げ落ちていった。


「バカなの?」


 セラはゴミを見るような目で歩き出した。


 ◇◆◇◆


 門は厳重そうだったが、思ったより簡単に通れた。


 それだけの自信があるのか、それとも平和ボケしているのかは俺の知るところではない。


「セラも遠くから来たってことは寮生活なのか?」

「ええ。出来れば個室がいいわ」

「分かる」


 そして俺らは新しい風景に心を奪われながらも、とりあえず目的の学園に着いた。


「学生さんですか?」

「え、はい」


 すると声を掛けられる。


「すみませんが、学園に入るのには手続きが必要でして」

「あ、そうなんですね」


 学園については師匠からちょっとしか聞けなかったしな。


 まぁ怒らせた俺が悪いんだけど。


「まずはお名前をお願いします」


 声を掛けた女性はフードを被り、怪しい雰囲気をプンプン醸し出している。


 だけど取り押さえられていないということは正式に雇われた人なんだろう。


「セラさんですね」

「ええ」


 まずはセラが名前や出身地などを書き出す。


「次にこれに触れてもらえますか?」

「これは?」

「まさかそれは!!」


 そこにあったのは水晶玉。


 これは絶対に


「魔力を測るやつですね!!」

「そ、そうですね。なんかテンション高いなぁ」

「ウヒョオオオオオオオ!!」


 こういうの待ってたんだよ!!


 ここで俺は魔力が反応しないんだ。


 そして皆に馬鹿にされるも、実は俺の魔力が桁違いすぎて測定不能的なパターンだな!!


「測定不能ですね」

「壊れてるの?」

「いえ。セラさんの魔力が桁違いなだけです」

「そうなの?実感がないわ」

「これは凄いことですよ。賢者だって夢じゃない程です」

「賢者か。それなら確かに凄いかも」


 おっと?


 何か変なこと起きてない?


 主人公イベント全部持っていった俺の友人と、賢者レベル、つまり師匠レベルの魔力を持った人間に対して平然としてる受付嬢。


 そもそもこの人から声掛けるまで俺気付けなかったんだよな。


「よし、難しいこと考えるのやめよう」

「次の方どうぞ」

「オッス、お願いしやす」


 まずは俺の出身は……


「何だろ?」


 そういえばあそこ森ってこと以外知らないな。


「森!?だからラックって常識も知能もないの?」

「うっせ!!まるで人を猿みたいに言うな!!」

「でも会ってすぐに口説く人は猿と同じじゃない?」

「クソ!!負けた!!」

「へぇ、森ですか」


 なんだよ。


 受付嬢さんも俺に文句あるのかよ。


 そして俺は名前の欄にラックと書く。


「ラックさんですね」

「はい」

「あなたがラックさんで間違いないですか?」

「?、ええ」

「そうですか」


 受付嬢の顔は見えないが、多分ニッコニコの笑顔だと思う。


 声が完全に楽しそうだもん。


「それではこれに触れて下さい」

「来たか」


 見せてやるぜ!!俺の最強の


「1000ですね。平均より高いですよ」

「そっすか」


 べ、別に期待してなかったし!!


 魔力普通でも俺強いし!!


「ドンマイ」

「うえーん」


 セラに慰められながら受付嬢さんにとりあえず寮の場所を聞き、向かった。


「あの子が例の神童か。シャーロット」


 ◇◆◇◆


「ご希望は?」

「女子寮で」

「色々危険なので一人部屋にしますねぇ」


 そんなわけで俺は一人部屋になった。


 元々一人部屋希望だったが、危険とは如何なものだろうか。


「ここか」


 俺は目的の部屋につく。


「444号室。うん、この最悪の番号で間違いないな」


 明らからに他の部屋と隔離された部屋の扉を開ける。


「……普通だな」


 中は思っていたよりも普通だった。


 開けた瞬間人が死んでるとか、突然化け物に襲われるとか心配したが、どうやら杞憂だったようだ。


「幽霊とかは出ないよな」


 別に怖くないが、独り言を挟みながら荷物を部屋に置いていく。


 と言っても、俺の持ってきたのはお金と毛布、着替えにそれを仕舞う棚くらいだ。


 森での生活は魔法を学ぶか師匠で遊ぶかの二つしかなかったため、それ以外の道具は俺にとって重石だ。


 だけど一つだけ


「よし」


 俺は一つの箱を棚に飾る。


「少し疲れたな」


 俺の好きなことの一つは睡眠である。


 つまり寝るか


 そうして俺は次の日になるまで目を覚さなかった。


「んあ?」


 朝起きるとそこには


「よく寝たな」


 何もなかった。


 ただ強いて言うのであれば


「あれ?そういえば今日試験日じゃね?」


 俺が寝坊したことくらいだろうか。



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目立ちたい俺は、チート能力で無双しようとするも目立てない @NEET0Tk

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