第2話
二度と帰ってくんなこの馬鹿弟子!!
師匠との別れは随分とあっさりだった。
いや確かに師匠が好きなのは本当だけど、せっかく学園行くなら俺も彼女欲しいし。
それにああ言えば
「寂しくないだろ」
あの人年の割に子供だからなぁ。
しんみりした空気よりあっちの方が俺ららしいよ。
そんな感じで森を抜け、俺が魔法学園へと向かっている。
ちなみに徒歩だ。
俺は魔法以外の勉強をしてこなかったので情勢には疎いが、昔師匠が
『車?そんなもの知らんがわし達なら魔法でピュピューと行った方が速いじゃろ』
と言っていた。
車がないという非現実間と魔法の移動なんて夢のない話だなと思う自分はかなり異世界に染まって来ているのだろう。
それにしても
「旅を楽しもうと思ったが」
持っている地図を取り出す。
「遠くね?」
多分俺のいた森がここだとすれば、学園までは
「100キロ……」
うーん、軽く走れば数十分で着く距離とはいえ、歩くとなると遠いな。
「どうしよっかな、せっかく外に出たんだから楽しみたい気持ちもあるしな」
そんなことを考えていると
「あれ?」
人が歩いていた。
「珍しい」
もう森の中にはいないとはいえ、あそこの近くに人がいるなんて珍しいな。
「そうだ!!」
俺は魔法を使い
「失礼」
歩いている男の影の中に忍び込む。
対戦相手が師匠しかいない俺としては比較が難しいが、この程度の魔法を見抜けないようじゃこいつのレベルはお粗末なのだろうな。
「さて、旅は道連れ世は情け。あんたの人生をちょっとだけ覗かせてもらうよ」
人としてどうかと思われそうだが、この世界は弱肉強食。
強い奴が強いのがルールだ?
「チッ!!なんで俺がこんなことしないといけないんだ」
忍び込んだ男はなんかイライラしていた。
まるでヤンキーのように猫背の状態でブツブツと文句を言いながらどこかに歩いて行く。
「あー、なんかいい感じに目的地に向かってるし、このまま昼寝でもするか」
アクションが起きそうなのはまだまだ先の気がしたので、俺は暫く眠ることにした。
◇◆◇◆
「起きろ」
「あ、はい……あれ?」
バレて起こされたかと思ったがそうではないらしい。
今の俺には男の後ろ姿と、その隣にもう一人男っぽい背丈をした奴が見える。
「私、お金なら持ってないわよ」
男の前から女性の声。
「こっちは依頼されたもんでな。お前が金を持ってようがどうだろうが関係ないんだ」
「怪我一つ負わせるな…か。こんな内容が無ければこんな上玉今すぐ食っちまいたいのに」
「こんなことしてただで済むと思わないでよね」
うーむ。
寝ぼけて良く聞き取れないが、どうやら俺の宿主はどうやら人攫いをしているようだ。
最近は平和過ぎて忘れていたが、やっぱり人間は人間か。
あぁ師匠。
なんだか既に俺がホームシックになりそうだよ。
「それにしても顔がいいとはいえ、こんな餓鬼にあんな桁の額をつける奴がいるなんてな」
「あれだけの金が有れば一生どころか孫子の代までお釣りが出るぜ」
「まぁどうせ俺らが末代だろうけどな」
男達は楽しそうに笑いだし、酒を飲み始めた。
俺は別にヒーローではないため、助けてやる義理も凝らしめてやる理由もない。
俺の人生設計図は師匠に褒められるか美少女に好かれる、そしてみんなにチヤホヤされることが資本だしな。
まぁ暇だし助けてやるのもありか。
時計の長い方の針が一周した頃
酒に飲まれた男達は寝静まる。
俺や師匠レベルの闇魔法使いであれば正面戦闘でも負ける気はしないが、主な戦闘方法は暗殺が向いている。
だからか闇魔法は人気がないと師匠は嘆いていた。
その姿がいじらしくて頭を撫でようと思ったが怒られた。
まぁ昔のことは置いといて
「どっこいしょういち」
影から出る。
寝過ぎも相まって体が硬い。
ググーと体を伸ばしていると
「……」
「……」
目が合う。
攫われた女性、基少女の姿を視認する。
「え、あ、あの……」
全力コミュ症を発揮する。
「結婚前提でお付き合いします?」
「え、ごめんなさい」
振られた。
やはり顔か?
師匠の家には鏡がないため自分の顔が分からないんだよな。
師匠が言うには
『わしは好み』
と言っていたのであの時はそれで十分だったが、今の状況的に言えば俺の顔は独特なのかもしてない。
「じゃあ友達からとか……」
「それならいいけど」
急に現れた俺に臆せもせず、女の子は淡々と会話を始める。
てか地味に俺生まれて初めて友達出来た。
「なんか捕まった理由とかあるの?」
「私にだって分からないわよ。とりあえず助けてくれると嬉しいのだけど」
「あ、めんご」
プレイ中の縄を解く。
「……なんか変なこと考えてなかった?」
「いや。いたって健全だ」
エロいことを考えることは人間の本能だし健全だな。
「とりあえず逃げましょ」
「え?」
俺は少し戸惑う。
「殺さないの?」
「へ?」
少女はポカンと口を開ける。
「えっと……確かにそいつらは悪人だけど、殺すまでは」
「そうか?この後の君の末路は知らないけど、人攫いまでさせた君の扱いがまともじゃないことは目に見えて分かると思うけど」
「……」
自分のもしもの未来を想像したのか、少し顔が青ざめる。
「大丈夫大丈夫。普通は殺しなんて慣れないよな」
俺はそこいらの無知っ子主人公達とは違うんだ。
「俺が殺しとくから先に外出てていいよ」
気遣い&共感。
女の子を落とす時はとりあえず頷けばいいという前世の知識を活かしたやり方だ。
ちなみに師匠には
『人を舐めるな』
と怒られた。
その後師匠って人間?って言ったらもっと怒られた。
「いいの。私がいいと言ったのだから、それ以上あなたが関わることはないわ」
何かを察したような顔をし、少女は真っ直ぐ俺を見ながら答える。
「そうか」
俺の友達←(ここ重要)の願いとあれば俺も快く引き受けよう。
「ま、いつか友達の垣根なんて飛び越えるけどね!!」
「それはないわ」
そして俺と少女はまるで我が家にいるような足取りで外に出る。
「空気が美味しいわ」
「空気って味するか?」
「そういうのは雰囲気よ。風流の分からない男ね」
「面目ない」
やっぱりこの子は肝が据わってるな。
さっきまで誘拐されてたとは思えない様子だ。
「名前」
「ん?」
「あなたの名前は?」
「あ、えっと、S」
「S?変な名前ね」
「嘘嘘。ちょっとスパイ映画を見過ぎてな」
「映画?は知らないけど、私も小さな頃は憧れたわ」
「……俺の名前だったな。俺の名前はラック」
「私の名前はセラ」
先程までは小屋の中にいて気付かなかったが、この子
「とんでもねぇ美少女じゃねーか!!」
「なによ。不細工とでも思ってたの?」
いや別に顔とかは関係なしに、普通に仲良くなろうとは思ってたが
「く!!落ち着け俺!!ここで取り乱せば年齢=彼女なしであることがバレてしまう!!」
「相当混乱してるわね」
月明かりに照らされた紅い髪が、風に吹かれる様は
「美しい」
「聞き慣れた言葉ね」
「可愛い」
「それも聞いた」
「エロい」
「……それはどういう意味?」
「あと短気そう」
ポキポキと指を鳴らすセラ。
「もう一回言ってくれる?」
「あ、正解だーー」
そして俺の初めての友人が出来た。
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