目立ちたい俺は、チート能力で無双しようとするも目立てない
@NEET0Tk
第1話
転生系を見てよく思うことがある。
平穏に暮らしたいから目立つたくないだの、自分のことを雑魚だと思ってまたなんかやっちゃうアホだの、意味が分からない。
男ならやはり、目立ってなんぼ。
無双し、嫌な敵を豪快に薙ぎ倒し、そして可愛い女の子と毎日誰もが羨む幸せ生活を送る。
そんな単純で当たり前なことこそが、真の幸せと言えるのではないだろうか。
「つまり?」
「チート能力を下さい」
土下座の安売りで有名な俺の渾身のスタイルで臨む。
「チート能力ね」
「何卒よしなに!!」
俺の前でどうしようかと悩んでいるのは、自称女神を名乗るヤバい
「あ?」
めちゃくちゃ美人のお姉さん。
「まぁ人間如きの矮小な侮辱など女神である私が気にするなどありえませんが、言葉には気をつけろよ」
「はいぃ、すみません」
でも言葉に気をつけようにもあなた俺の心読んじゃうじゃん。
どうしようもないよ俺。
もういっそ反逆しようかな?
「陰キャ、オタク、年齢=彼女なしのバカ、この役満を揃えたあなたが私に勝てると?」
確かに勉強はいつも赤点ギリギリだし、彼女が出来たことないのは事実だが、オタクと陰キャは蔑称の言葉じゃないだろ。
さすがに頭に来た俺は狼煙を上げ、遂に自称女神に反撃を
「足を舐めればチート能力あげますよ」
「仰せの通りに」
やったぜ!!
美人の足を舐めればチートが貰えるってそれなんてご褒美?
「気持ち悪い。まるでこの世の醜悪を集めた塊のような男ですね」
「f◯ck」
「ですが、私も約束は守りましょう」
「え?本当に舐めればいいの?」
「それはもういいです」
自称女神はタブレットみたいなのを取り出し、何か操作を始める。
「へぇ、神様でも電子機器なんだ」
「あなたにはそう見えるんですね。これは私達の世界での万能ツールで、その人にとって最も最適な見た目や形に変化するんです。だからあなたにとって一番利便性のある姿に見えてるんですよ」
「すげー」
なんか分からんが凄いことだけ伝わった。
それから最も最適とか見た目や形が同じ意味なのも伝わった。
「チート能力を与えるのは今時レギュレーション違反でダメなのですが」
「何レギュレーション違反って。転生って神様の間だとゲームか何かなの?」
「チート能力を持っている人の元に送ることは可能です」
つまり自称が言いたいことは
「俺がチート能力を授かるわけか」
「才能やら努力やらは必要ですが、まぁあなた次第ですね」
そして俺の体が光出す。
「どうしても私に会いたくなったら教会に来て下さい」
「そしたらまた会えるとか?」
「いえ、ただ滑稽だなってここから見てます」
「死ね」
そして俺の意識は徐々に薄れ
「程々に頑張って下さいね」
あなたの次の人生こそは幸あれ。
◇◆◇◆
とある森の中。
「なんじゃ」
緑一色の森の中、そのプラチナブロンドの髪はどこか神秘的な雰囲気がある。
「こんな森の中に捨て子とは、なんとも世知辛い世の中になったの」
どこか年寄りくさい口調とは相反し、幼い見た目とゴシック服を着た少女は赤子を抱き抱える。
「随分と大人しいの。それに、何だか嬉しそうじゃ」
少女は赤子を抱え、森の中に帰って行った。
◇◆◇◆
それから16年。
「はよ起きろ」
「んあ?」
朝の光が俺の眼球を焼き焦がそうと飛び込んでくる。
「あー、あと五時間」
「寝すぎじゃアホ」
「ぐへぇえええ」
ベットからゴロゴロと転げ落とされる。
俺の目には金色の髪を持つ少女が俺を見下ろしていた。
「おはよう師匠。今日も可愛いね」
「わしは将来お前がナンパ師にならないか心配じゃぞ」
「大丈夫。俺は可愛い女の子しか口説かないから」
「今の話のどこに大丈夫な要素があったんじゃ?」
ふざけてないで起きろと軽くビンタを受ける。
「はいはい起きますよっと」
重い体を起こす。
「……随分と大きくなったの」
「師匠が小さいだけでしょ」
俺の身長は175センチくらい。
別に高身長ってわけじゃないが、師匠は背が140くらいから止まってるから小さく見える。
「ふむ、やはり可愛い」
「はいはい」
最初は俺の発言に動揺していた師匠も、今となっては慣れて雑な対応を取る。
だが俺は知っている。
この人見知りロリババアは可愛いと言われてちょっと内心喜んでいるのを。
「朝ごはん出来てるぞ」
「お!!師匠のご飯はいつまで経っても美味いからな」
「褒めても何も出んぞ」
全てが植物で出来た家だが、リビングという概念は存在する。
テーブルの上にはホカホカとパンらしきものがある。
この世界では別の呼び方らしいが、パンにしか見えない俺はこれの名称をパンとして世界に広げる所存だ。
「いただきます」
「律儀じゃの」
出来たてのパンに齧り付く。
最初はジャムの甘さが口の中に包み、それと同時に焼きたてのパン特有の香ばしい匂いが口から鼻へと押し寄せてくる。
俺の拙い文章力でこれを伝えるとすれば
「美味い!!」
「それはよかった」
そうして気品よく食べる師匠の前でただひたすらにパンを食べ尽くす。
そして
「ご馳走様」
「お粗末様」
「皿は俺が洗うよ」
「そうか」
師匠の皿を受け取り、食器を洗う。
「ラック。今日は何の日か覚えておるか?」
「俺と師匠の結婚記念日?」
「違う」
「あ、これは未来の話か」
「……そうじゃなく、今日はお前の誕生日じゃ」
「あー、そういえば」
俺の誕生日は師匠に拾われたあの日と決まった。
師匠は俺が転生者だと言うことは知らないが、それでも俺が多分特殊な出立ちであることは察しているのだろう。
だから俺は子供としてではなく、師弟関係としての生活を送っている。
「あの時から数えて16年だな」
「そうじゃ」
「もしかしてこの世界では16が成人とか?つまり俺と師匠がやっと結婚できるのか」
「この世界での成人は18じゃ。お前は魔法のことばかりで常識が身についておらんの」
「そっちの方が主人公っぽいだろ?」
「ただ単に勉強がめんどいだけじゃろ」
さすが師匠。
相変わらず俺のこと分かってるな。
だけど
「別にこのままでいいだろ?」
俺は今の生活に十分過ぎる程満足している。
確かに娯楽は少ないが、魔法を毎日鍛えながらこんな可愛い少女?と共に暮らせる。
前世では考えられない程幸せなことだ。
「一度外に出てくれんか?」
「ん?いいけど」
俺は最後の食器を洗い、師匠の小さな、それでも大きな後ろ姿について行く。
「どこまで行くんだ?」
「もう少し自由に動ける場所までじゃよ」
森の家を出て、俺と師匠は森の奥に進んで行く。
道中に他の生物の気配はない。
師匠が俺が感知する前に処理しているのだろう。
「そろそろいいかの」
「随分開けた場所だな」
深い森の奥、映画のような淡い光だけが今の俺達を照らしていた。
「わしは全力でいく」
「死んじゃうよ俺」
「大丈夫じゃよ。死んでも生き返らせる」
「それ禁術だよね?」
そして合図も無しに戦闘が始まった。
だがその姿はただ二人の姿が見つめ合っているだけ。
「師匠ヤバいわこれ」
「軽口を叩ける暇があるなら大丈夫じゃよ」
俺と師匠が使っているのは闇魔法。
基本的な能力は目眩しや敵の動きを遅くするなどだが、俺や師匠レベルともなれば闇魔法は他の魔法の追随を許さない程の強力なものになる。
師匠はただ一本の影を俺に伸ばそうとしている。
闇魔法によりそれは物体化し、何もしなければ俺に突き刺さるであろう。
だから俺はその魔法を無効化する魔法を発動する。
だが師匠がその魔法を無効化する魔法を無効化する魔法を発動している。
サービス終了しそうなカードゲームの効果のようだが、闇魔法はそんな理不尽と地味さを兼ね備えた最強の魔法である。
そんな闇魔法の頂きに立つ存在が、今俺の命を取ろうとその膨大な力を俺にぶつけてくる。
一瞬でも魔法の発動、操作をミスれば俺は終わりだろう。
「師匠ヤバい!!マジ無理!!ホント限界!!」
師匠はまだまだ余裕そうだが、俺はもうだいぶ前から白旗を上げている。
師匠が本気で俺を殺そうと思えば瞬殺しているだろうし、恐らく目的は
「もういいじゃろ」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
集中力を解いた俺はやっとの思いで呼吸をする。
「で?急になんで俺の力を試そうと?」
「気付いておったのか」
「そりゃ付き合い長いし」
地面にへたり込んでいる俺に、師匠が飲み水をくれる。
「お前はまだ若い」
「師匠も見た目と精神年齢は若いよ?」
「それじゃとわしがただの子供みたいではないか」
「え?違ったの?」
バシンと頭を叩かれる。
「親父にもぶたれたこと……あったわ。てか俺父親いなかった」
「16歳の誕生日に魔法学園に通う」
師匠は一枚の紙を取り出す。
「国の法律じゃ」
「大丈夫だよ師匠。法律なんて破ってなんぼ」
「ダメじゃこいつ。はやくなんとかしないと」
師匠は大きくため息を吐き
「お前がわしを慕っていることは知っている」
「慕ってるってか愛だよね最早。愛してる結婚しよ」
「まぁわしもそれなりの歳じゃ。別に結婚しても構わん」
「じゃあ師弟関係から始め……え!!」
今まで流されてきたけどまさか本気で受け取るなんて。
「冗談じゃったのか?」
「いやいやマジマジ!!結婚すんの?」
「条件がある」
師匠は先程の紙を見せる。
「この国での結婚は18での学園の卒業。じゃからなお前は学園に通ってもらう」
「え、別にそんな形式だったものいらないでしょ」
「わしもそう思うが、それはあくまでついでじゃ」
「じゃあ本当の理由があると?」
「そうじゃ」
なんだろ
「前にも話したと思うが、わしは闇を司る六賢者の一人」
「あー、なんかそんなこと言ってたね」
「そしてわしは約束してしまったんじゃ」
もし弟子が出来たら、学園に連れて来い
「この前手紙でちょっと話したら連れて来いとなってな」
「へー」
師匠、俺のこと手紙でなんて書いたんだろ。
イケメンの弟子が出来て毎日ハッピー過ぎ、とかかな?
「しかも偶然他の連中の弟子とお前が同い年くらいらしくてな」
「ホントにすごい偶然だな」
自称の策略を感じるな。
「じゃから、どうか行ってくれると助かる」
「師匠に恥をかかせないってのならやぶさかじゃないが」
なんと言いますか
「離れるのか」
「嫌か?」
「まぁ」
「そういう素直なところは好きじゃよ」
「大好き過ぎて惚れたなんてそんなぁ」
「そういうところは嫌いじゃ」
いつもならここで冷たい目線が返ってくるのだが
「お前には育ての親として、師弟として、そして大切な者として、普通の幸せに触れて欲しい」
すると師匠は少し顔を赤くし
「もし……それでもまだ、お前が学園を卒業した後でもわしを好きだと言ってるくれるなら」
少女のような目で
「結婚しよう」
その姿はあまりに美しく
「シャーロット」
俺はついその目に吸い込まれ
「この世界って一夫多妻だよね?」
つい本音を白状してしまった。
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