愛おしい者たち 〜見た目〜

あるところに、たくさんの動物が住む素敵な森がありました。


犬も猫も、象も馬も・・・どんな動物も楽しく暮らしていました。もちろん、うさぎも。


真っ白なうさぎの群れの中に一匹の真っ黒な醜いうさぎがいました。


そのうさぎには名前がなく、家族もいませんでした(家族だと名乗り出た者がいなかっただけかも知れませんが)ので守ってくれる者もいません。黒い姿は目立ってしまいます。


黒うさぎは他のうさぎからいじめられるようになりました。


黒うさぎは毎晩湖に自分の黒い顔を映し、涙を流しました。


「僕は綺麗にならなきゃいけないんだ。この黒い姿をどうにかしないと」


黒うさぎは考えました。どうすれば自分は綺麗になれるのだろうと。


 その時影から鋭い牙を持った動物が現れて、こう言いました。


「話は聞いたよ、かわいそうなうさぎさん。僕が君の姿を、黒じゃない別の色にしてあげよう」


うさぎは大喜びで頼みました。


そして・・・影から飛び出してきた動物の牙に襲われ、大怪我を負ってしまいました。


かろうじて一命を取り留めた黒うさぎは、翌日、他のうさぎから気味悪がられ、軽蔑されました。


「厄介ごとを持ち込まれるのはごめんだよ」

「黒い姿をしているから、自分の責任だよ」


そんな心ない言葉が黒うさぎを苦しめました。


そして年老いた意地悪なうさぎが最後にこう言ったのです。


「黒いうさぎは生まれながらに邪悪な心を持っている。だから忌み嫌われるし、襲われるんだ」


みんな、全ての原因は黒うさぎにあるのだと言うのです。


黒うさぎは辛くて悲しくてポロポロ涙をこぼしました。


「僕は悪いことなんて何一つしていない。見た目ってそんなに大事ですか。僕が黒く生まれたのは、僕の責任なんですか」


他のうさぎたちは、何も言うことができませんでした。


黒うさぎは群れを追放されました。そしてその日から黒うさぎの心は変わってしまいました。心の中が真っ黒になってしまったのです。


それからというもの、黒うさぎは自分より小さくて弱いものをいじめるようになり、白い生き物のことを憎むようになりました。


やがて同じように嫌われて群れを追放された者たちが、黒うさぎの後ろについてくるようになり、森の中に美しくない者たちの、5匹の集団ができました。


彼らは復讐をしたいと思っていました。自分を傷つけた者たちに。そして、自分を生んだ世界に。


ただ、黒うさぎは、この仲間たちと一緒にいる時間が非常に楽しいものだと気づきました。


片足をなくしているミーアキャットも、背が曲がっているサルも、全身の毛が禿げている犬も、まるまるとし過ぎていて飛べなくなってしまったカラスも、みんな愛おしく思いました。


確かに世間一般に言う「美しい」とは異なっているかも知れません。


しかしそれ以上に、黒うさぎは仲間達の胸の内について考え、共感し、好きだと感じていました。


ミーアキャットには、責任感が強いけれど少し気まぐれという面白いところがありました。


サルは横暴で暴れん坊でしたが、夜になると泣いてしまったり、変な寝言を言ったりする、可愛げのあるところがありました。


犬は頭が良く冷たい性格でしたが、本当は面倒見がよく、昔は優しかったのだということがわかりました。


カラスは基本的に陽気で、飛べないのに魚をとるのはうまいという、ヘンテコな特技がありました。


彼らはいつの間にか、自分たちが美しくなくてよかったと思い始めました。


だってもし美しかったら、あの群れに居続けていて、見た目で判断する術しか知らなかったかもしれません。


そしてこの仲間たちとも会えなかった。


彼らは、いつしか復讐という意思を忘れていきました。本当に意味がないということがわかったのです。


それよりもこの仲間たちと、悪いことではなくて普通の暮らしをしたいと思いました。


仲間外れにされ、たくさん傷ついてきた彼らには最後に平和で幸せな日々が与えられたのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る