第3話 あたしが殺したわけないじゃん!

 ネオはオルと別れた後も、オルに言われた代償のことを考えていた。


 やられても時を戻し、記憶を引き継げる魔法。同じ魔法を持つ者には通用しなくても、かなりチートな魔法。


 そんな力を使うには代償を伴うかもしれない。そしてその代償はすでに払っている?


 ネオは親がいなく、おばさんに厳しくされ、疲れ果てていた。そのことがネオに強力な魔法をもたらしたのか? だとすれば、ネオはもうこれから代償を払うことはないはず。


 そして時は動き出す。


 あるときどこからともなく遭遇した。その男は。


「お前さん、待ちな」


 荒野で黒いハットを被った渋い声の男に呼び止められ、ネオは振り向く。


「えっ、何」

「おれは時を駆ける魔法使いだ」

「突然、何ですか。無闇な勝負ならもうしません」

「時を駆けるってのはつまりな、未来も過去も今もねぇ。そして大事なキーとなる時が見える」

「いや、全然何を言われているのか」

「お前さん、何か大事な時を持ってるな」

「時?」

「オレの名はキィト。何なら見せてやっていいぜ、お前にとって大事な時を」

「大事な時……」

「言わなくてもわかる。お前さんの心象風景を映すだけだ。それは未来か過去か今かわからねぇ。ただお前さんにとって大事な時」


 ネオに思い浮かぶのはやはり代償のことだった。両親がなぜいないのか。おばさんからは何も聞いていない。両親がいなくなった時の秘密を知れば、代償のことも何かわかるかもしれない。そもそも孤独にならなければ、記録回復魔法陣セーブポイントを使うこともなかった?


「じゃあキィト、お願い」

「任された、って」


 何だかまぶたが重くなり、目をつむると浮かんできた景色。そこはネオが旅立った場所。目の前に見えるのはおばさんじゃない。見知らぬ大人の二人。もしかして、父さん、母さん? ネオはそう考える。


 しかし次の瞬間。ネオは青ざめる。画面外から見えない何者かが魔法で二人を焼き払おうとしたのだ。しかも二人は赤子をかくまっている。


(あの赤子はきっと、あたしだ!)


 追撃があり、二人は赤子を地に手離し倒れる。倒れる前にネオは慌てて魔法陣を描いてこの時間を記録しようとしたが、これは意識的映像。手も杖も動かない。


「そんな……」

「どうだい、大事な時との出会いは」

「最悪」

「そうかい」

「これが代償なの? でも」

「でも?」

「あたし、ある意味あなたみたいに時を戻す魔法が使えるの。ただ、その代償を赤子のときに払ったなんて納得いかない」

「納得ねぇ」

「それに、あたしの父と母を殺したのは誰。犯人は、もしかして!」


 頭の中に意地悪なおばさんの姿が浮かんだ。が、その想像はすぐにかき消される。


「ふん、誰を思い浮かべたか知らないが、映像はお前さん視点だよ」


「え」


「お前さんの中にある、今か過去か未来か、わからない映像」

「そんな! あたしが殺したわけないじゃん! あたしは両親に守られていたのに!」


「まぁ慌てるな。映像はあくまでイメージ。完全に事実とは限らん」

「はぁ!?」

「暗示だよ。およそこういうことがあったっていう。オレの魔法は実際に時間を移動するのと似て非なるからな」


「じゃあ、あたし! あたしは記録回復魔法陣セーブポイントが使える。やられたとき、時を戻したことが何度もある。ねぇ、それを使って過去に行く方法はない?」


「そりゃあ、記録読込術ロードを使えばいい。本にでも書いてあっただろ? ただそれは過去に記録した時にしか行けねぇぜ」


「あ、そっかぁ。どうしよう」


「これじゃ、代償は払われたままかもな」


 キィトが何気なく呟いたその言葉に、ネオはピンときた。


「そうだ!」

「何だよ」

「ありがとう、キィト! あたし、過去に戻る! 代償を払う前に」

「なっ!? 赤子の頃に戻れるのかよ」

「そうじゃないよ。じゃあね!」


 その場に描いた記録回復魔法陣セーブポイントからネオは消えた。

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