最終話 あたし、記録回復魔法陣を使う!
「よしっ、戻れた!」
ネオは、初めて
髪を整え、おばさんの元へ会いに行く。
◯
「こらっ! また遅刻かい! と言いたいところだけど」
「久しぶり!」
「久しくなんかないよ! そんなことより、これから行く洞窟に竜が棲みついているんだ」
「あたし、魔法使いだから、ちょっと行ってくるね!」
「こらっ! あれ? そうだよ、行ってくるんだよ」
ネオは駆け足で竜のいた洞窟に向かう。右手に松明、左手に杖を持ち、眠る竜と対面する。
そしてあのときと同じように杖を高く構え。
「えぃっ!」
洞窟の天井に電撃をぶつける。バラバラと崩れ落ちる石たちも電撃で操り、竜とネオ自身に当たらないよう気をつける。やがて、小さな空が見えてきた。
その空をどんどん広げていく。竜は異変に気づいて伏せたまま目を開ける。
「これでどうだ! あたし、竜と戦わない!
「何をやっている」
その声にネオが振り向くと、キィトのイメージ映像で見せてもらった、二人の大人がいた。
「お父さん、お母さん?」
「そうだ。お前の父だ。で、何をやっている」
「あたしね、代償を払わなくて済むように、
「ふっ。それは無理だ。すでにお前は
「でも、こうしてお父さん、お母さんに会えたし。死に戻ったりしなければ、代償を払わずに済むってことじゃない?」
「それはほんの
「そうね。今からあなたに大事な話をするわよ。だから、この場の時を止める」
母親がそう言うと、わかりづらいが、石は転がるのをやめ、竜は目を開けたまま、瞬きをしなくなった。しかし三人の会話だけはできる。
「それで私たちね、あなたに託したの。その竜を倒すことを」
「えっ、どういうこと」
「竜は我々を倒す力を持つんだよ。だから倒さねばならない」
鼻にズレたメガネを直しながら父親が冷徹に言う。そのフォローをするように母親が続ける。
「その竜は私たちがここに封印したの。いつかあなたが倒せるようにね」
「でも封印したなら、それでもういいんじゃ? わざわざ倒さなくても」
「ふふ。いったいお前がどう育ったのか知らないが、我々を滅ぼす竜を、滅ぼさないでおく必要はあるか。それは平和ボケというものだ」
「私たち命を賭けて、竜を追い詰めて、あなたに託したの。わかってくれるよね」
「うぅん、わからなくもないけど」
(あたしだって強さを手に入れたからって一回倒しちゃったし……)
そう思いながらも、ネオは反論する。
「だけど、この竜に一方的に襲われたことはまだないし。今からわざわざ代償払って孤独になってまで戦うことないんじゃないかな」
そう告げるとネオの父親は薄く笑みを浮かべ、胸の辺りに持ち上げた小振りの杖で、もう片方の手のひらを軽く叩く。
「ふふっ。お前は優しい子だね。それならこの竜のことはさておいて、三人でハッピーエンドに向かおうか」
「う、うん」
「そうはいかない!」
その瞬間、母は時を動かし、父は竜に娘の魔法より強力そうな雷撃を竜のツノにぶつける。
「竜によって、どれだけの親族や仲間が消されてきたか! 僕の
「そう、私たちじゃ倒せない。あなたが
雷撃を受けて怯む竜が、そのときチラッとネオを見た。目を合わせたネオは、次の瞬きの間、とっさに自身の過去の心境や今の心境と向き合う。
いっそ安らかに眠りたかった日々。あきらめずに挑む力をもらえた魔法。その相手をしてくれた竜。急な旅立ちを許してくれたおばさん。調子に乗るあたしの鏡になってくれたオル。命を奪う悲しいイメージを見せてくれたキィト。
閉じた目を開いたネオは、後ろで必死に戦う両親の方に振り向き、言い放つ。
「あたし、
ネオはその場に
「そうだ! それを使うんだ」
「わかってくれたのね!?」
「じゃあね、お父さん。お母さん。あたし、竜は倒さない!」
強く叫ぶと、両親の二人はその場から消えた。ネオの叫びと
ネオは魔法陣の中にヘナヘナと座り込む。竜を背に、独り言を呟く。
「あぁ、やっちゃった。上書きしちゃった。ねぇ竜、あたしもう、キミを倒す気力ない。このままここでやられることを繰り返すか、いっそ
ネオの目から涙がこぼれ、魔法陣に落ちる。竜はそれを見届けると、ネオにしっぽを向ける。妙に静かな空気にネオも振り向き、その様子に気づく。
「あれ」
竜は背中に乗れとでも言わんばかりにしゃがんで待つ。竜はネオが洞窟に開けた空を見ている。
「竜!」
ネオは地に横たわる松明を吹き消し、地に突き刺した杖を頼りに立ち上がり、竜の元へ駆け出す。これまでにないほど、勢いよく大きく跳ね上がる。
◯
これで、
自らを最強と名乗る少女に対抗し、仲を深め、そして別れた魔法使いも。ネオの大事な時に気づき、物語に関わった、時を駆ける魔法使いも。白い服を土で汚した、口の悪いおばさんも。その日、竜の背に乗る魔法少女を空に見た。
この物語のことは、今ここに記録される。
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