第四話 お出かけの時間です!其の二

「ほい、ついたぞ!我らが自慢の『商』の街!其の中心部、少彦町!」

「…」

「うーむ!やはり今日もこの街は騒がしくてしょうがないのぉ!!!ま、その喧騒も、久方ぶりに耳にするとええんじゃがな!のうイチ!…イチ?」

「ううう…」

「?イチ?」

「オ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛〜!!!!!」

「のぉぉぉ?!い、イチ〜ッ!?」


今日もこの街は、騒がしい。


_____________________________________


ようやく酔いも収まり、落ち着いてきたイチにカグツチは申し訳無さそうに声をかける。


「ほ、本当に大丈夫なのか…?今日食べた朝飯を全て吐ききるかという勢いじゃったが…

「え、ええ、ら、らいじょうぶれふ…」


…どうやらイチはまったく落ち着いていないようだ。

カグツチはどうしたものかと顎に手を当てて考える。

すると…


「あららら…。コレはコレはカグツチはん。お久しぶりやないですか。」

「ぬ?おお!ここ何年か合わなかったが…やはり美しさは衰えんのぅ。キュウビ。」


キュウビは、カグツチに向かって、軽くお辞儀をする。

そのちょっとした動作だけでも、気品と、風格と、妖美さが伺える。


「ふふふ、これは嬉しゅうございますね…して要件のほどは?」

「ああいや別にコレといった目的は無いんじゃが…」

「…ああ、なるほど。この可愛らしい子供はんのためにでございますなぁ?」

「ははは…やはり流石は古典妖怪なだけはあるか。」


キュウビは、振り袖を後ろにやって、イチの身長の高さに目を合わせる。

どうやら、イチが神様であることも見抜いているようだ。

…イチの背が低すぎてキュウビもこれ以上は屈められないのはご愛嬌だ。


「よろしゅう。ウチはキュウビっちゅう者です。周りからは、この街を統治する長言われてます。」

「どうも…イチです。神様の…お手伝いさんをしています!」

「ふふ…素晴らしい仕事をなさってるんどすなぁ…うらやましゅうございます。」

「い、いやいや!私はそこまで凄いことをしているわけじゃ…」

「あのカグツチはんの屋敷を掃除してくれはってんの、あんた様って聞いとります。カグツチ様はほんに片付けゆうものが出来ひんお方で、この街になかなか訪れへんお人やのに、それだけは有名になってるお方なんどす。そんなカグツチ様だけでなく、ぎょうさんいらっしゃる神様のために働いていらっしゃるお方。一介の妖が、羨望しないのは無理な話にございますわ。」

「はわわ…」


キュウビは耳をピンと立てる。狐の耳はよく手入れされているようだ。

そんな彼女は、褒められすぎて顔を赤くして照れているイチを見てはにかみながら、問いかける。


「そんなあんた様でありますから…きっとお疲れのことでしょう?良かったら、ウチがぷろでゅーすしてる茶屋があるんどすえ、よって行きはります?」


願ってもいないようなキュウビの提案。

先程の表情はどこへやら。イチはニコニコしながら大きく返事をする。


「…!はい!是非お願いしますっ!」

「はい、良い返事どすなぁ。では参りましょか…」


そう言って、キュウビはイチに手を差し出す。

イチはこれまたニッコニコの顔で手をつなぐ。


後方腕組ヲタク状態であったカグヅチは、無言で後を追う。

その顔に笑みを浮かべながら、まるでイチの本当の父親かのようだ。


『…助かった。キュウビよ。』

『ぜんぜんいけますよ…フフフ。こんなめんこい子放っておくなんて、ウチの中の選択肢には無いんどす…あ、ゆうときますけど、この子ウチに見せてもうたさかいには週に必ず一度はココに来てもらわなあきまへんよ?ウチの事知ってはるアナタ様なら…分かるでなぁ?』

『ああ…勿論分かっとるよ。そうでなきゃこんな場所に連れてこん。いやはやしかし…時が経っても相変わらずじゃな。全く…この天界にいる奴等と来たら、どんな輩でも何かとややこしいを持っとるもんじゃ。』

『それは、あんさんも同じでしょうに…そうやなかったら、この街今頃消えてもうてますがな。』

『はっはは!違いない!』


…神も、妖もどちらも人成らざるもの。

必然的に人間から見たらおかしく見えるのは当然のこと。

そんなこと、天界に生活している者の中では一番の新参であるイチはつゆ知らず、キュウビの後を追うのであった。


「きゃお♪」


…あ、この子もいるんだった。たまには存在感出しなよ。

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