第一話 火の神様邸ご訪問!
「ふんふふんふっふふふふ〜ん♪」
日本の朝。それは天界の朝でもある。
神にも生活リズムというものは存在し、特別な神を除いてほとんどの神たちは朝になると活動をし始める。
「ふわ〜ぁ…むむむ…ねみゅいー…」
神も天界で、地上にはおりていないにしろ、この世に顕在している。故にどうしても人間や他の生物に引っ張られてしまう。朝に弱い神や、寝ることが好きになる神だっている。夜に寝る神だっているし、寝ない神だっている。そういう神はなかなか起きることが出来ないし起きてもくれない。
だからしっかり皆が目覚めるように…
「ん〜…っ!さてさっそく…いってみよ〜♪」
『彼女』は今日も
『おっはよ〜!!!天界のみんなぁ〜!!おきてま〜すか〜!!』
朝日が昇り始め天界が朝の光に包まれる。それと同じく、彼女の声も天界に響き渡る。
『むむむ〜?もしかして今日も寝てなかったカミさまがいるのかな?ちゃんとしっかり寝なきゃだめだよ〜?』
どこからか聞こえてくる無邪気な声に反応して、至るところの神々が目を覚まし始める。
『さ〜て!今日も一日がんばってこ〜ぜ!そうちょう六時天界放送、『あまのはしだて!』通称あまはし!すた〜と〜!』
これが天界の神々の暗黙の了解の一つ。毎朝、丁度この時間に起きる。
徹夜していた者は、一区切りつけて三十分の放送に聞き入る。
天界放送の放送の中でも、視聴率(?)毎日90%以上を誇る大人気番組のDJ。
『…いや〜いい曲だねぇ…久しぶりに流したよ!ニンゲンの曲!回り回って、和なのがいいよね!っということで!ここまでボクの放送きいてくれたみんなありがと〜!天界放送あまはし!さいごの曲は『ミリオン桜』で!DJ『イッちゃん』がお送りしました!それじゃあみんな!今日も一日ふぁいと、お〜!』
これが、彼女の…『イチ』の一日の始まりである。
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『イチ』。
八百万の神が生まれた後、ひょっこりとどこからか出てきた小さな人間の女の子。
この天界に来た頃には人間の手のひらでも覆い隠せるような小ささであったが五十年もすれば、すくすくと成長し、人間並みの姿になった。
腰までかかる雪のように白い髪と、パッチリとした蒼い海を思わせる大きな青い瞳。口は少しおちょぼ口で、表情の起伏が激しく、いつもコロコロと面白いように顔を変えている。
なんとも可愛らしい子だ…我らのように可愛らしく、美しい人間はそうはいない…神々はそう口々に言い合っている。
だが、なぜか何十年経っても整った容姿は変わらずに、老ける様子がない。普通、人間だったらとっくに死んで輪廻の輪に加わるはずである。
あまり細かいことは気にしない神でも、流石におかしいと思い始めイチをよくよく調べてみた。
すると、イチはまだ微力ではあるものの、神の力を受け持つもの…八百万の神の一員であるということが明らかになった。
それからというもの、イチは天界に住む神の一員として、不慣れながらも仕事に勤しむこととなった。
人間であり、神でもある。
イチの根底にあった、その◆◆◆。
『
それが、今のイチの職務である。
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「おはようございます!カグツチさま!」
「おう!おはよう!今日も早いのぅイチ!」
朝の十一時。日も昇ってきて、神々もいつものようにせわしなく務めを果たしている時刻。
イチは、大きな屋敷の前を訪れていた。
「今日の天界放送も素晴らしいものであったぞ!」
そう言って、イチの頭をワシャワシャとぶっきらぼうに撫でる無精髭の男。
『
日本を創生したと言われているイザナミ様とイザナギ様から生まれ出た、火の神。
名前にもある通り火を司る神であり、その火はイザナミ様にやけどをさせるほど。
人間界では火を扱うものから特に崇拝されているとともに、火に関するもの、例えば火事なんかのときには祀られることが多い。
「えへへ…ありがとうございます!」
天界では『愛宕消防団』という消防隊の隊長を務めており、どこか天界で火の手が上がったらすぐに駆けつけ、火をあっという間に鎮静してくれる。
また「家内安全」のご利益を受けられる神様でもあるため、安住を求めて神が集まり、カクヅチが住んでいるここは、『商』の都で一番大きな都市と言われるほど街が発展している。
おかげでカグツチの家とその周辺は、まるで戦国時代の城下町のようになっている。
「本当におおきいおやしきですねぇ…うらやましいです…」
「いやいや…家が大きいと困ることも多い。というか儂、それほど大きな家は望んどらんのに…」
「いえいえ!きっと天界のみんなはカグツチさまにふさわしいようなおやしきをお望みなさっていたのでしょうから!しかも、カグツチさまって他のかみさまよりうんと大きいですからね!」
「だからといってココまで大きくすればいいというわけじゃないであろう…」
そう言って、カグツチは紅い無精髭を撫でる。
彼は、見た目からすればいい年の袴をきたおじさんである。しかし、燃えるように逆だった髪と、真っ直ぐイチを見つめるこれまた赤い瞳が、煌々と光り、只者ではないことが伺い知れる。
因みに、さっきの会話から読み取れる通りカグツチの家は邸というより城である。大きさは大体、県一個分くらい。邸の次元で言う大きさではないが。
「はてさて…放送を聴いていて思ったのだが…随分と言葉が流暢になったな…イチ?」
「はいっ!さすがに百年もすれば、いっぱんきょーよーも身につきますので!ココウン十年で、放送にも慣れましたし!」
「…ううっ…おじーちゃんとか言って抱きついていた頃のお前が懐かしいのぅ…こんなに立派になるとは…」
「ちょ、ちょっと!いつの話をしてるんですか!」
「あ、因みにその時の写真もあるぞ?見てみるか?ほれ、これはお前が夜に…」
「わーっ!わーっ!あーっ!」
両手で耳を塞いで聞こえないふりをするイチ。その顔は少しふてくされている。
それを見てカグツチはガハハと笑う。そして、優しくイチの頭を撫でる。
カグツチは、イチのことが可愛らしくて仕方がないようだ。
「ん゛ん゛っ!さて、カグツチさま。」
「おう、今日もよろしく頼むな。お前がいなければ儂はまともな生活ができん。」
「神さまなのにですか?」
「…返す言葉もない…なんとかしようと善処はしておるのじゃが。」
「はぁ…カグツチさまがボクにいらいをしなくなる日は来るのでしょうか…しょうじきしんぱいでなりません…」
「ふむ…そのうちに人間はすでに十回は死んで生まれ変わっておろうな!」
「…」
「…すまぬ」
肩をすくめるカグツチをジトーっと睨みつけるイチ。
「ま、それは置いといて…さっさとお仕事おわらせちゃいますね!カグツチさまもまだまだたくさんお仕事があるんでしょう?」
「お、応。まぁな…それではな、イチよ。さらb…」
「ちょーっとまってください!忙しいのはわかっていますけど…」
イチはカグツチを呼び止め、びしっと指さす。
「今日は、カグツチさまに手伝ってもらいます!」
「む…何故に?」
「あたりまえです!もうボクがこの天界に来てから二百年はたつんです!それなのに、カグツチさまもそうですけど、この天界中にいるかみさまたちは、全然なおそうとしてくれないじゃないですか!もうちょっと自立をしてください!」
「いや…じゃがしかし儂はこれから色々…」
「というわけで、少しでも頑張ってもらうために、ボクのお手伝い係をカグツチさまにやってもらいます!」
「ええ…普通に嫌なんじゃが…なんで儂が…」
「…イイデスネ?」
「…はい」
イチの凄みに耐えきれず、カグツチは更に肩を落とす。
周りから見ても、おじさんが小さい子供に叱られてしゅんとしている構図は滑稽である。
「では行きましょうか!とりあえず現場まであんないしてもらって…」
そう言って邸の扉まで歩き、戸に手を掛ける。
「あ…おい…」
ドドドドドドドドドガラガラドカドカズッシャーンゴロゴロゴロッ!!!!!!
「にゅおわわわあああああああああああああああああっ!?」
「…はぁ…」
カグツチは…掃除ができない神であった。
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イチのメモその169035:だいたいのかみさまは、
げんかんからおやしきにはいらないので
いろいろとちゅういすること
(とくにカグツチさま)
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日曜に予約投稿してたはずなのに…あれ…?
とにかく遅くなってすみません!
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