第10話 友達

 

 「うっ」 



どのくらい経ったのだろうか。まだ、ぼーっとする頭に気合いを入れて、あたりを確認する。


 どうやらベッドの方に移動させられたようだ。時計を見る限りはそんなに時間は経っていないか。  


 「夏樹せーんぱーい、起きたんですか? 寝てる間に移動させて貰いました。重たいのに頑張ったんですよ、私」


 どうやら夢ではなかったようだ。俺の服も脱がされているが、楓もバスタオルしか巻いていない。シャワーでも浴びてきたのだろうか、こんな状況なのになんだかいい匂いがする。 


 「こんなことやめろって」


 「うるさいですねー、まだそんなこと言ってるんですか?」


 暗がりでもわかるくらいに楓が近づいてくる。


 「一回じゃ心配だから、何回も何回もしましょうね。私、頑張りますから」


 くそっ、客観的には羨ましいシチュエーションだが、俺には麗華ちゃんが居るんだ。こんな時は近所のおばさんのことを考えて、戦闘モードにしないように。


 「あっ、元気になってる! 嬉しいです!」


 ごめんよ、麗華ちゃんー!!


 「くっ殺せ! 身体は征服されても俺の心は麗華ちゃんのものだ!」


 「え?よくわかんないこと言わないでください。まぁ、まずは身体さえなんとかすれば心だっていつかは……」


 まさか、伝説のセリフを俺が言う時がくるとは……


 「じゃあ先輩、頂きますね? こんな形になっちゃったけど本当に大好きなんですよ?」


 楓の手が俺に触れようと伸びてくる。


 本当にもうダメなのか……




 ピンポーン ピンポーン ピンポーン


 

 楓の手が止まり、苛立ちが隠せないのか舌打ちをしている。


 「こんな時に誰ですか。 まだ親が帰ってくる時間じゃないし……」


 今がチャンスだ。ありったけ大きな声で助けを呼ぶ。


 「助けてくれ!!!監禁されてっふがっ」


 楓の何かで口を塞がれた。何これ? 天国!? じゃなかった! これで、伝わっただろうか。


 「キスをしたくて、口を塞いでなかったのが裏目に出てしまいました。もう時間もないので乱暴になっちゃうかもしれないけど、ごめんなさい」


 あぁ、もう天井のシミでも数えることしか出来ないのか……


 「それじゃ、夏樹先輩、いただきますね」


 ファーストキスは麗華ちゃんが良かったなぁ






 突如、何かを割ったような、バンっという音がベランダの方から聞こえた。


 「きゃっ! なに?!」


 楓が驚いてベランダを確認しようと起き上がる。


 「離れててくださいね!!」


 次の瞬間、窓ガラスが激しい音と共に飛び散る。そして割れた窓から鍵を開けて中へ飛び込んでくる。


 「夏樹先輩! 無事ですか!? ってなんてハレンチな!!!」


 麗華ちゃんがそこには立っていた。


 「麗華ちゃん、ありがとう! でも見ないでー!!」


 「わかってますよ! 穢らわしい!!」


 そんなこと言いつつチラチラこっちを見てるのは丸わかりだ。


 「また、あなたなの? あなたはもう救われたんだから良いじゃない! 少しくらい分けてくれたって良いじゃない!!」


 「竹村さんがなんのことを言っているかわかりませんが、それはできません」


 「あぁもう! 大体、どうやってベランダから入ってきたのよ!」


 「警察に確認をしたらストーカーの被害相談なんてされていないことがわかったので、私は竹村さんが嘘をついている、つまりストーカーを新たに作り上げている可能性を考えました。そこで、ストーカーを作り上げる理由はなんだろうと。この事件をきっかけに変わったことは何かと考えた結果、私達と一緒に居る時間が増えていました。むしろ、竹村さんから積極的に干渉してきましたよね? 更に、一緒に帰った、夏樹先輩に連絡がつかないので駆けつけたわけです」


 「それだけで? あなたおかしいわよ!」


 「あなたに言われたくはないですが、強いて言うならば女の感です。竹村さんの夏樹先輩を見る目は時折、怖いものがあったので」


 ジャリジャリとガラスを踏み締めて近づいてくる。


 「ちなみにうちの母はここらへんでは顔が広いんです。だから大家さんに連絡を取って隣の空き部屋の鍵を借りて、ベランダから侵入したわけです。こういうマンションでは緊急用にベランダの仕切りが壊せるようになってますから」


 麗華ちゃんは楓に一歩一歩近づいていく。


 「竹村さんもう辞めましょう? 今ならまだ引き返せるんだから」


 「うぅーー! なんでよ、あと少しだったのに……親にもバレちゃうし、私捕まっちゃうのかな? それに夏樹先輩に嫌われちゃったよ」


 力なく床に座り込んでいるがここからではよく見えない。


 「そんなことないわよ。こんなに可愛い子に迫られたんだもの、むしろラッキーくらいに思ってるわよ。夏樹先輩はケダモノだから」


 くっ、否定しきれない!!


 「それにね、完璧な人なんて居ないのよ。みんな見えないところで、もがいたり、諦めたり、失敗したり。それを認めたくないから誰かを攻撃したり。完璧な人しか認めないなんて何様なのよ。だから、竹村さんも大丈夫、大丈夫だから。だから夏樹先輩のことも許してあげて? 夏樹先輩だって完璧ではないのよ?」


 優しく言い聞かせるように楓に言い聞かせている。


 説得が効いたのか、諦めたのかは分からないが、ゆっくりと楓は立ち上がると俺の拘束を外していく。


 「あのさ……楓、お前のこと守ってあげられなくてごめんな? 次は必ず駆けつけるからさ」


 楓が胸に飛び込んでくる。小さな身体が震えているのが伝わってくる。


 「遅すぎですよ!! 次は約束ですからね!!」


 涙を流してなんとか声を紡いでいる。


 やりすぎだとは思うが、彼女にとってはそれだけ辛い出来事だったのだろう。イジメはイジメられた本人にしか、真の意味で理解することはできないのだろう。 


 「あ、あと麗華もごめんね……私、2人のこと応援してるから」


 「な、な、な、何のことですか!?!? ……ふぅ、それに当然よ。だって友達じゃないの、私達」


 「友達……そうだったね、初めてできたからわからなかったよ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ」


 大きな涙をこぼしながら泣いている楓を麗華ちゃんが抱きしめる。


 落ち着いたところで3人で後片付けをすることにした。


 窓ガラスは麗華ちゃんが弁償すると言っていたが、楓が自分のバイト代で払うといい、その方針となった。


 しばらくすると両親が帰ってきた。だいぶ内容は濁して事情を説明することになった。楓は父親に一度叩かれたかが、いじめから救ってあげられなかったことを泣きながら謝られていた。俺にも謝罪をされたが、むしろ良い思いをさせて貰えたので心苦しかった。 


 

 麗華ちゃんが無事でよかった。




 さて、次は俺が身体を張る番だ。


 


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎



ありがとうございました!


次回で第一章は終わりの予定です!


もう少しお付き合いお願い致します!


いぬお

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