第9話 真実
麗華ちゃんとは分かれて楓と帰り道につく。
「夏樹先輩、今日はありがとうございました。久しぶりにこんなに楽しい時間を過ごせましたよ」
「それは良かった。俺も楽しかったよ」
美少女2人と映画なんてもう2度と無いかもしれないし。
「ホラー映画見た後って、夜とか怖くなりません?」
「たしかに、シャワーとか、鏡見るのが少し勇気いるかもしれないなぁ」
「そうなんですよ、今まさに私その状況なんです」
「まだ家に親は帰ってきてないの?」
「今日は残業で2人とも遅くなるって連絡があって……」
首が取れるんじゃ無いかってぐらいの勢いで頭を下げられる。
「少しだけ、少しだけうちに寄ってくれませんか!?」
「え!?」
なんてこった、麗華ちゃん一筋な俺としては、余計な誤解を与えないようにした方が良いのだろうが……よく見ると震えてるように見える……でも、なんだか麗華ちゃんの消えた、駅の方から視線を感じるような……
「わかったよ、でも1時間だけだからな」
「やったー!! 夏樹先輩最高ー!!」
「おいっ、あんまりくっつくと危ないぞ!」
なんだかさっきより視線がキツい気がする。ごめんよ、麗華ちゃん!!
〜〜〜〜〜〜〜
今日は夏樹先輩に恥ずかしいところをたくさん見られてしまった。幻滅されてないだろうか。でもデートみたいで嬉しかったなぁ。
そうだ、こんな素敵なイベントを企画してくれた竹村さんにお礼をしなくては。だ、だって友達って言ってくれたしね!
スマホを取り出してパパへと電話をかける。
「あ、パパ? お願いがあるんだけど、前のストーカー被害があった友達から、また相談来てないかな? その件についてなんだけど、パパの方からも言っておいてくれないかな? うん、ありがとうー!」
これで少しは安全になるだろう。
しばらくすると、パパから電話が来ていた。
「どうしたの? 犯人捕まったの?」
「そんな相談きてないらしいぞ? 勘違いじゃないか?」
〜〜〜〜〜〜〜
「じゃじゃーん、どうぞどうぞー!」
「お邪魔しまーす」
ガチャリ
楓は念のためドアロックをかけている。
カバンを置いて、リビングのソファに座らせてもらう。
「良かったら、お茶でもどうですか?」
「ありがとう。助かるよ」
喉が渇いていたので助かる。一気に喉へと流し込む。
「ぷはぁ、生き返るー!」
「夏樹先輩ってば、おじさんくさいですよ」
「ごめん、ごめん、それで何して時間潰そうか?」
「もう! 時間潰しなんて酷いですよ、こんなに可愛い後輩と2人きりなんですから」
ほっぺを膨らませて怒ったフリをするが全然怖くない。
「悪い悪い、そういえば昔会ったことあるって言ってたけど、その時の話を教えてくれないか?」
「良いですよ。でも、長くかかりそうだし先輩のスマホ充電しておきましょうか?」
「ん? スマホ? あ、ありがとう」
なんで急にスマホ? 最近、気を張ってて疲れてたせいか眠いし、ありがたく充電させてもらおう。
「充電してきましたよー。それで、夏樹先輩との出会いですよね?」
楓がソファの隣に座る。なんだか振り払う元気も無くなってきた。
「私が中学3年生の時に会ってるんですよ。その時は私、髪も黒くてメガネもかけて地味だったし、覚えてなくても無理ないですよね」
そうだったのか、ずいぶん今は垢抜けたんだな……
「麗華と同じ中学校に通ってたんですよ。クラスは違うし、母が再婚して、名字も変わったから麗華も気づかなかったみたいですけど」
なんで、それを早く言わなかったんだ……?
楓が更に近づいてきて顔を首元に埋めてくる。
「あぁ、やっぱりいい匂いだ」
だめだ、力が出ない……
「ごめんなさい、夏樹先輩。ついつい、興奮しちゃって。それでいつ会ったか、でしたっけ? 麗華を救うために、夏樹先輩が大暴れしてるのを私、偶然見かけたんです」
あの時、そばに居たのか。正直、周りを見てる余裕なんてなかったし、覚えてないわけだ。
「そ、それだけ?」
「それだけじゃないです!! あ、夏樹先輩ごめんなさい。大きな声出しちゃって。周りの人は危ない人だって言ってたけど、私には王子様に見えたんです。窮地からお姫様を救う王子様に」
今度は首筋を舌が這っているのか、暖かくてくすぐったい感覚に襲われる。でも、振り払う気力が湧いてこない。
「麗華が救われた後、次に狙われたのは私でした。私、待ってたんですよ?ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと夏樹先輩が助けに来てくれるのを」
まさか、あの後もいじめが続いていたなんて。
「知らなかったんだ」
「別に良いです。なんとかイジメできた子達の居ない遠くの高校に受かって、心機一転頑張ろうとイメチェンして、だけど体調崩して、もう学校に行く気なんて無かったんです。でも、両親がうるさいから、一度登校してみたんです。そのときたまたま見かけたんです。夏樹先輩が居るのを」
あの出来事から逃げようと引越してきた先で再び出会ってしまうとは。
遠くで携帯の呼び出し音がなる。
「運命だと思いました。一度諦めかけてた思いが爆発したんです」
「ストーカーは嘘だったのか?」
「病院のは偶然です。でもそれを利用することにしました。夏樹先輩は麗華にしか目がないから、そうやって大きなイベントでもないとダメかなって思って」
「じゃあ、女のストーカーは?」
「アレは嘘ですね。夏樹先輩をこうやって家に連れ込むための罠ですよ」
「こんなこといつまでも続かないぞ」
そうだ、両親だって帰ってくるはずだ。
「だから既成事実をつくるんです。赤ちゃん作りましょう? 夏樹先輩」
「ふ、ふざけるな! 命をなんだと思って」
「大事なんですよ!!! なによりも夏樹先輩が!!!!!」
だめだ、まともに考えられない…さっき飲んだお茶に何か入れられてたのだろう……
麗華ちゃん、ごめん……
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ここまで読んで頂きありがとうございます!
次回の更新は26日予定です
よろしくお願い致します。
いぬお
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