第8話 休息

 無事に映画館へと着くことができた。日も明るいせいか、特にストーカーらしき女性は出てこなかったのは幸いだ。


 映画館が近づいてくると、キャラメルポップコーンの匂いがしてくる。


 「この匂い嗅ぐと、テンションあがってこない?」


 「あ、わかります!!」


 楓がピョンピョンと手を上げて跳ねている。


 「私、匂いフェチなんです。好きな匂い嗅ぐとついついテンションが上がっちゃうんです」


 「だよね、麗華ちゃんはどうかな?」


 「わ、わ、わ、私は怖がってなんかいません!」


 最近よく、ワタワタしてる麗華ちゃんをみてる気がするな。でも、昔みたいにツンツンしてるだけじゃなくて、よく表情が変わるようになったなぁ。


 「あははっ、麗華ってこんなに面白い子だったんだね。クラスにいるときと全然印象ちがうね」


 楓が腹を抱えて、ケラケラと笑っている。麗華ちゃんも、ムスッっと一瞬表情を変えるが、悪気のない一言なのだと気づいているのか、気にはしてない様子だ。


 麗華ちゃんはお姫様じゃなくて、ただの女の子なのだ。そんな当たり前のことを忘れていて、勝手に持ち上げられて。それに応えようと、必死に頑張った麗華ちゃんは……それよりも映画に集中しなくては。


 ポップコーンやジュースを買って席に着く。


 「夏樹先輩の下心を叶えてあげましょー」


 楓がそういって、俺の座席は真ん中ということになった。


 「なんかドキドキしますね」


 「俺は別の意味でドキドキだよ」


 「もう、夏樹先輩、それってセクハラですよ?」


 「えっ!? そうなの!?」


 楓から訴えられることはないだろうが、麗華ちゃんはありえそうだ。

 

 「もうダメです。おトイレいけなくなっちゃいます」


 なにかブツブツと言ってるけど、恐らく大丈夫だろう。


 「ひゃっ」


 シアターの中が暗くなり、映画が始まる。


 イマイチかな…


 内容はこっくりさんを題材にしたものだった。


 俺も昔、よくやったなぁ。麗華ちゃんの様子はどうかな。


 様子が気になって隣を確認すると両手で口を必死に押さえて、涙目になって耐えているところだった。


 「夏樹先輩」


 「ん? 楓も怖いのか?」


 楓が、こっそりと耳打ちをしてくる。


 「夏樹先輩って、やっぱり、いい匂いですよね」


 「え、映画に集中しなさい」


 「はーい」


 ホラー映画より、よっぽどドキドキしたよ。でも、やっぱりってことは本当に一度どこかで会ってるんだろうか?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 「もうダメです、皆んなお化けに見えます…」


 本当は暗くなる前に帰りたかったのだが、足元がおぼつかない麗華ちゃんを放ってはおけない。


 「ちょっとどこかに入ってご飯でも食べようか」


 「今日、親が仕事で遅くなるらしいから、私も賛成でーす」


 「皆さん、すいません。それじゃ、夕食はいらないと、母に連絡しますね」


 女の子とファミレスなんて初めてだから緊張してきたな。


 歩いて5分ほどでファミレスに到着した。


 「少し待つみたいだから、名前書いておきますね」


 楓がテキパキと表に記入にしばらく待つことになった。


 「竹村さまー、お席の準備ができました」


 「楓、呼ばれたぞ。麗華ちゃんも行こうか」


 呼びにきた店員さんが話しかけてくる。


 「高校生だからタバコは吸わない席でいいですよね? その制服、河合高校の制服かな?」


 「そうです、ピチピチのJKです」


 「いや、夏樹先輩は違うでしょ!」


 「全く…すいません。多分浮かれてるんだと思います」


 麗華ちゃんが代わりに謝ってくれている。


 「楓ちゃんと麗華ちゃんだっけ? 2人とも可愛いからお兄さんが浮足だっちゃうのもわかるなぁ」


 さっきの会話が聞こえていたのだろう。それにしても、やっぱり外でも2人の容姿はレベルが高いのであろう。


 「幸せだなぁ」


 「夏樹先輩、アホなこと言ってないで行きますよー」


 しばらくすると、麗華ちゃんも落ち着いてきたし、あたりが暗くなり始めたため帰ることとなった。


 3人とも最寄りの駅は同じため、電車で移動し駅に着く。


 「じゃぁ私は駅の近くなんで、夏樹先輩、竹村さんのこと、よろしくお願いしますね」


 本当は麗華ちゃんも送りたかったのだが、遅くなってしまうから良いと断られてしまったのだ。


 「良いのかなー、夏樹先輩独り占めー」


 「な、な、な、別に関係ないです!」


 2人とも仲良くなれたようで良かった。


 「今日は2人ともありがとうございました」


 「なんですか、改まって」


 「えへへ、私たちもう友達だね!」


 美少女2人が絡む様子はいつまでも見ていられるけど、気を引き締めなくては。


 頬を軽く叩き、気を引き締める。



✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

貴重なお時間をいただきありがとうございます。


夜にもう一話、投稿予定となっています。


もしよろしければ、コメントやレビューを頂けるととっても嬉しいです。


引き続きよろしくお願い致します。


いぬお

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