第7話 両手に花

 不安もあったのだろう、直接話したいらしく、2人で楓の家に行くことになった。


 放課後になり、2人で楓の家へと向かう。家は住宅街にあるマンションの一室で、8階建ての5階だそうだ。


 「ここが竹村さんのお家だそうです」


 「じゃぁ押すね」


 呼び鈴の後に、チェーンを外す音がして扉が開く。


 「夏樹先輩、この前はありがとうございました。麗華もごめんね」

 

 そう言って中に招き入れてくれた。なんだか以前より元気がないように感じる。


 リビングのテーブルに座ると楓がゆっくりと説明をしてくれた。


 警察署から帰ってきて、部屋のカーテンを閉めようと窓に近づくと、髪の長い女が道路からこっちをじっと見ていたとのこと。


 警察に相談しても、もう犯人は捕まったから安心してくださいの一点張りであまり相手にしてもらえなかったとのこと。


 「うーん、後で父にも報告してみますけど、今度は女性ですか……」


 「うーんありがたいけど、それは遠慮しておこうかな、友達のお父さんにそんなに迷惑かけられないし」


 「と、友達! うーん……〕


 考えこむような姿勢で唸っている麗華ちゃんも可愛くて仕方ないが、憔悴している楓が心配だ。


 「そうか、ご両親は?」


 「伝えてはあるんだけど、仕事が忙しいみたいでなかなか。前に体調崩した時にいっぱい、お仕事休んじゃったみたいで」


 大人って大変だなぁ、本当は娘のそばに居たいだろうに……


 「それじゃ難しそうだね。バイトはどうするの?」


 「しばらくバイトはお休みにしようかなって思ってます。お金も結構貯められたし」


 なるほど、その方が良いだろう。


 「一応、夜の家の周りの見回りは警察が頻度を増やしてくれるそうなんです。だけど、相手が人間だってわかってからは日中の間も怖くて…そこで相談なんですが……私をオカルト同好会に入れてくれませんか?」


 「え?!」

 「なっ!!」

 

 「なんとかお願いします!」


 俺の方に身を乗り出して、目を潤ませながらじっとこっちを見つめてくる。


 チラッと、隣を見ると麗華ちゃんが口を開けて驚いたままフリーズしている。


 「同好会としては大歓迎だけど、それで部活を決めて大丈夫?」


 「私、怖がりだけどオカルト大好きだし! それに今からグループが出来あがってるところに入るってのはちょっと抵抗があって……それに夏樹先輩は忘れてるかもしれないけど、一度私たち、会ったことがあるんですよ?」


 なんだって? こんな可愛い子、忘れることあるかな……?


 「ごめん、こんなに可愛い子を忘れるなんて、俺もまだまだだなぁ」


 「やっぱり覚えてないんだ」


 「え?」


 楓なら笑って返してくれるだろうと、ふざけたつもりが、一瞬目つきが変わった気がした。

  

 フリーズしていた麗華ちゃんがワタワタと再起動を始める。


 「こんな同好会やめておきなさい! こんな人しかいないような同好会よ! 同じ空間で息を吸うだけで、そ、その……孕まされるかもしれないわ!!」


 酷い言われようだが、そんなことどうでも良いくらい、涙目になって必死に懇願する麗華ちゃんめちゃ可愛い!


 「もうそんなわけないじゃん、麗華ってば必死すぎ」


 「だ、だ、誰が必死なもんですか!!」


 いつもの楓の表情だ。さっきのは何だったんだろう。


 「まぁ心細いのはわかるし、その……ボッチなんだろ?」


 「うっ、そんなんだけど、ボッチ言うなぁ」


 「ボッチ……」


 麗華ちゃんは、コミュニケーション能力の欠如から、教室で浮いてしまっている自分と重ね合わせているようだ。


 「じゃあ仮入部って事で、しばらく様子をみようか」


 「ま、まぁ夏樹先輩がそう言うなら、しょうがないですね」

 

 「やったー! これからよろしくお願いしますね、せーんぱい!」


 満点の笑顔ではしゃいでいる。


 やっぱり楓は笑ってる方がいいな。


 「麗華も改めてよろしくね」


 麗華ちゃんの手を握り、ニコニコとしている。

 

 「えぇ、でも竹村さん少し痛いわ」


 麗華ちゃんが本当に痛いのか、顔をしかめている。


 「あ、ごめーん、はしゃいじゃってさ! さっそく明日、皆んなで出かけようよー! 映画とかさ!」


 「良いねー!!」


 両手に花……麗華ちゃんには悪いがやはり男なら一度は憧れるもの。それに麗華ちゃんと映画館に行ってみたいというのもある。


 「夏樹先輩、下心が丸見えで気持ち悪いです。それは部活とは関係ないじゃないですか」


 「それを言われちゃうと弱るなぁ」


 「ちょうど、ホラー映画やってますし、それで良いんじゃないですか?」


 「それだー! 楓は天才か」


 「そうでもあるかもー」


 「全く、この2人は……」


 その後、麗華ちゃんも渋々納得し、金曜日の放課後、集まることになった。


 そして、3人での同好会をこなしながら、いよいよ金曜日となった。あれから、例の女の人は出ていないとのこと。あれだけの事件だったんだ、恐怖心からくる勘違いだったのだろうか。

 

 集合場所である校門へ移動すると、すでに2人が待っていた。


 「ごめん、待ったかな。友達がなかなかしつこくてさ」


 「こんにちはー、私たちも今、きたところですよ。それにしても、夏樹先輩、モテモテですねー」


 楓が肘でつついてくる。どうして女の子はこんなに良い香りがするんだ。何を食べてるんだ!?


 「そんな関係じゃないって」

 

 「またまたー」


 「コホンッ、2人とも早くいきましょうか」


 麗華ちゃんがソワソワしている。ホラー映画苦手なのに大丈夫かなぁ。でも、確かにこんなに可愛い子、2人と居るせいか周りの視線も気になってきた。


 「じゃあ、行こうか」


 最寄りの駅へと歩みを進める。 

 

 今思えば、この時に、もうちょっと今の状況について、真剣に考えておくべきだったのだろう。  






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


貴重なお時間をありがとうございます。


ここまで、お付き合いいただけるなんて感動です。


両手に花、羨ましいですね。


もしよかったら、コメントや評価をお願い致します。


いぬお

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