第4話 あの日のこと
「ミハイルって、とても魅力的な人ね」
治療を終えたヴェロニカさんの言葉が、私の胸にチクリと刺さった。
「学院に通い始めた時は不安でいっぱいで、その気持ちを紛らわせるために中庭で歌っていたの。それを偶然聞いたミハイルが、私を褒めてくれてね。初めて会った時は平民の男性の中には、あんなに上品な方はいないからとても驚いたの」
ヴェロニカさんは、ニッコリと笑いかけてくる。
「あ、でも心配しないでね。自分のことはちゃんと弁えているつもりだから。私、聖女だと認めてもらえて、たくさんの支援をいただいて感謝しているの。義父となった方にもよくしてもらえて。だから、これからたくさんの人のためになるような事をしていきたいの。それで、まずは貴女に元気になってもらえたらって」
その言葉には、何の悪意も含まれていない。
「貴女のおかげ」
「え?」
無意識のうちに俯きかけていて、再び顔を上げてヴェロニカさんを見た。
「私、教えてもらったの。ミハイルが助かったのは、貴女が身を挺して守ったおかげだって」
六年前のあの日のことだ。
何故か、国王陛下と当時11歳だったミハイル様は、辺境伯爵家の屋敷に滞在していた。
観光目的で遊びに来ていた他に、何か大きな理由があったはずだけど、霞がかかったように思い出せない。
ただ、国境の向こう側で何かが起きて、騎士団もたくさん国境沿いに待機していて、神殿騎士団まで集まってて、その神殿騎士団を見に行くために、ミハイル様がこっそりと屋敷を抜け出して……
それでそれを止めようとした私と、結局、国境沿いまで行ってしまって、そこで強い光を見たと思ったら、その次の瞬間には大きな爆発が起こって、悪しき魔力の塊である瘴気が噴出して、咄嗟にミハイル様を押し倒した私がそれを全身に浴びることになって。
その先の事も記憶が曖昧なのだけど、私の治療をするためには神殿に連れて行く必要があって、すぐさま王都まで運ばれて、その後はずっとお城で過ごすことになった。
家族とも離れなければならなくて寂しかったけど、王都に来た直後は命があるだけマシな状態だったんだ。
今思えば、騎士団や神殿騎士団が動いている状況下でうちの屋敷に遊びに来ていたのもおかしな状況だけど、今の今までそんな風に記憶していたから疑問にも思わなかった。
何か、違和感を覚える。
何か大切な事を忘れている。
「それじゃあ、また二日後に来るね」
考え込んでしまっていたから、一瞬だけ目の前のヴェロニカさんの存在を忘れていた。
「あ、ありがとうございました。またよろしくお願いします」
ヴェロニカさんは、悠然とした微笑みを私に向けてくる。
それはどこまでも人間離れした美しいもので、同時に、畏怖の念も感じていた。
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