第3話 私の国

 この国の名前は、ルニース王国。


 建国の祖である王家を中心とし、由緒ある貴族の家々が支えている。


 そしてさらには、聖竜が世界を守り、聖女が聖竜を守っていると言われている。


 それがこの世界を支える教えであって、聖竜と聖女を崇めることが聖教会の教えであり国教で、神殿が国を跨いでいくつも存在している。


 この国で見つかった聖女がこれから担っていく役割。

 

 私が住んでいる王都から離れた場所に、無の森と呼ばれている場所がある。


 いつから存在しているのかわからない、得体の知れない森だ。


 その向こう側には帝国が存在している。


 数代前までは帝国は領土を広げるために周辺国に侵攻し、次々と取り込んでいった。


 無の森自体は広大な面積がある。


 だから、ルニースは過去に侵略の憂き目に遭った事はない。


 無の森と呼ばれる場所は、今では多くの魔物が徘徊する場所と化しているけど、少し前は違ったそうだ。


 何とか森から魔物が這い出ないようにしている状況だから、今はその問題の方がより深刻なのかな。


 その国境沿いを守るのが、私の生家の役目でもある。


 ルニース王国が近い将来魔物の脅威に晒される時、その問題に真っ先に直面するのが私の家でもある。




「具合はどう?」


 私の手を取ったヴェロニカさんが声をかけてきた。


 彼女から注ぎ込まれる聖なる魔力は、瘴気に侵されていた私の体を少しずつ癒してくれている。


「随分と楽になりました」


 実際に、体を起き上がらせて室内を移動できる程度には状態が改善していた。


 今も、椅子に座った状態でヴェロニカさんと向かい合っている。


「貴女のおかげです。本当にありがとうございます」


「ミハイルの頼みだもの。それに、ミハイルの大切な貴女のことを助けられて、私も嬉しいわ」


 輝くような笑顔を見せてくれて、本当に感謝の念を抱いていたのに、少しだけ複雑な思いも私の中にはあった。


 ヴェロニカさんが、ずっとミハイル様の事を呼びすてにしているのが気になっていた。


 貴族の常識としてはあり得ない事だけど、彼女は平民出身で、つい最近、貴族の養子になったばかりだ。


 だから他意はないのだと思うし、もし、私が考えているようなことであっても、ずっと病床に伏していた私が何かを言える立場ではない。


 成り行きに任せるしかないのだと、そう思うしかなかった。

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