第2話 聖女と初めて会った日
「ユーリア。今日は君に紹介したい人がいるんだ」
私に与えられた寝室に訪れたミハイル様は、どこか表情が緊張しているようにも見えた。
いつも完璧に振る舞うミハイル様にしてみれば、不思議に思えた。
「はい。このままでも、よろしいでしょうか?」
ベッドから起き上がることができない私は、寝たままお客様をお迎えしなければならない。
「気にせず、楽にしていてほしい。ヴェロニカ、こっちへ」
ミハイル様の口から女性の名前が呼ばれて、胸騒ぎがしたのは一瞬のことだった。
ミハイル様が向けた視線の方向を見ると、部屋の扉の前に、今は控えめに立つ女性の姿があった。
そして、一目見て見惚れるほどの美貌の持ち主でもあった。
ミハイル様と同じ見事な金髪は腰まで届くほど長い。
常に病床にある私は、手入れが大変だからと肩よりも短くしているからその綺麗な長髪が羨ましくあった。
いけない。
僻みっぽくなってしまうのは、私の悪い所だ。
でも、ヴェロニカと呼ばれた女性がもつ金色の髪と宝石のような青い瞳は、どれもが羨むものだった。
同じように金髪に青い瞳を持つ端正な顔立ちのミハイル様と並んで立つ光景は、自然なもので、とてもお似合いで……
「彼女はヴェロニカ。学院に通う同級生でもある。彼女は少し前に学院に編入してきたのだけど、その理由が彼女が聖女だからというものなんだ」
「聖女……」
神殿に祀られている竜と戯れる聖女像があるけど、本当に聖女という存在が実在しているとは驚きだった。
聖女というのなら、彼女の美貌もより神秘的なものに見えてきた。
「ヴェロニカなら、ユーリア、君の病を治せる。だから、治療を彼女に任せてもらえないだろうか」
「はじめまして、ユーリアさん。治療は何回かに分ける必要があるけど、貴女は必ずよくなるわ。私に任せてもらえるかしら」
気さくな様子で話す彼女の印象は、密かに抱いた警戒心を溶かすものだった。
「はい。私には、他に治療法がありません。聖女の貴女が力になってくれるのなら、それ以上のことはありません」
「じゃあ、早速。貴女の手を握らせてね」
微笑んだヴェロニカさんは、ベッドの傍らに立つと、掛布の中にある私の手を握った。
その手はとても柔らかく、でも、とてもひんやりとしたものだったのをよく覚えている。
これが私と、聖女ヴェロニカとの邂逅だった。
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