第79駅 対帝国戦線の現状 ~セントラルシティ~

 ラバージャングルの探索を終えセントラルシティに帰ってきてから数日後。スエノブ皇国から外務奉行の藤田さんが訪れた。


「久しぶりにグラニット王国を訪れましたが、かなり様変わりしましたなぁ。昨日はセントラル駅のステーションホテルに泊まりましたが、あそこまで贅を尽くしたホテルは世界中のどこにもありますまい」


「ありがとうございます。僕のスキルレベルが上がったことでホテルを作れるようになったんです」


「それは重畳。――そろそろ本題に入りますが、よい知らせと少々厄介な知らせが一つずつございます」


 ん? よい知らせはともかく、『少々厄介な知らせ』? 悪い知らせでは無く?

 とりあえず、話を聞いてみよう。


「では、よい知らせからで」


「かしこまりました。バルツァー帝国との講話が破綻し、とうとう本格的にバルツァー帝国、それも元から帝国領だった土地へ攻撃を開始する事になりました。それに伴い、メイデン共和国と我がスエノブ皇国も、海上戦力を使った圧力をかける戦略を変更し、本格的に侵攻を開始しました。

 当初はかなりの苦戦が予想されましたが――意外とあっさりと侵攻が成功しました」


「え!? あっさりと侵攻が成功?」


 確か、元から帝国領だった土地への侵攻は、かなりの苦戦が予想されるって話だったけど……。


「これは実際に侵攻してみて判明した事ですがな、実は帝国内の貴族や組織同士は仲が悪く、援軍を出し渋る事例が多いそうで」


「……もしかして、予算でしょうか?」


「さすがアン王女、お気づきになられましたか」


 どうやらアンはカラクリに気付いたみたい。

 そしてアンは、僕に帝国内の事情について説明してくれた。


「帝国は、侵略した土地から略奪したり搾取した財産で福祉の財源にしています。では、どのようにその財源を民へ配っているのでしょう?」


「どのようにって、帝国から直接民へ配っているんじゃ……?」


「それでは、いくら役人を雇ってもキリが無いですよ。おそらく、何らかの予算という形で貴族や帝国の直轄地へ交付し、それから民へ財産を配っているのです」


 そこまで聞いて、なんとなく帝国の実情がわかってきた。


「もしかして、予算の取り合い?」


「おそらく、そうでしょう。援軍を出し渋ったというのも、予算を取り合うライバルが減ってラッキー程度に思っているんじゃないでしょうか。それに、外国から侵略される危機にあると帝国へ訴えれば、その分予算を上乗せされるかもしれませんし」


 さらに、とんでもないことが藤田さんの口から飛び出した。


「それとですな、どうやら貴族や帝国直轄地の役人の連中、福祉費を十分に民へ配給しているわけではないそうですぞ」


「は……?」


「さすがに福祉費の全てを横領しているわけではないようですが、民が困窮しないギリギリの額を給付して、後は別の予算に回すのならばかわいい方。最悪、私費に流す連中もいるのだとか」


 全ての貴族や役人がそうではないですが、と藤田さんは付け加えたけど、僕は開いた口が塞がらなかった。

 まさか民のために奪った財産を使っているはずなのに、大半が貴族や役人のポケットに入っているなんて……。

 さすがに民が困窮してしまうと帝国の理念に反するので問題になるだろうけど、福祉財源のほとんどが別の用途で使われていたなんて思ってもみなかった。


「そういう事情もありましたので、予想よりも民衆の抵抗運動が少ない――いや、ほとんど無いと言っても良く。占領統治も円滑に進んでいるそうですな」


 つまり、いい知らせとは知られざる帝国内の事情のおかげで、想定よりもスムーズに侵攻や統治が上手くいっている、ということだった。


「続いて厄介な知らせですな。現在我がスエノブ皇国軍は、バルツァー帝国東部にある『シェンカー』という街を占領しております。

 この街は主要な街道が多く集まっている帝国東部の流通の要であり、商業が非常に発達した街なのですがな」


「その街が、何か?」


「この街は商人の力が非常に強く、事実上街を差配しているのも商人でしてな。その街を差配している商人というのが『ラインゴルト家』というシェンカー一の商人でして。

 で、このラインゴルト家なのですが……どうもエディさんの本当の出生地なのではという話が出ておりましてな」


「エディの!?」


 この話にはかなり驚いた。確かに、エディは元々南部大陸へ転移魔法を使って捨てられたという話は聞いていたけど、まさか元々の家族が見つかるなんて……。

 そして当のエディ本人だけど、明らかに動揺している。


「そしてラインゴルト家は、どうやらグラニット王国やグラニット王家についてある程度知っているようでしてな。商人特有の強大な情報網によるものでしょうな。

 それでラインゴルト家から『グラニット王国国王の婚約者であるエディ様は、我がラインゴルト家の娘である可能性が高い。合わせてくれないか』と要請が来ておりまして……」


「虫のいい話ですね。そもそも、どうやって親子関係を証明する気なのでしょうか」


 アンの言うとおり、そもそもラインゴルト家がエディを捨てたのに、今更会いたいなんて虫がよすぎる。

 商人の家という話だし、グラニット王家との結びつきを利用しようという魂胆が丸見えだし。

 まぁでも、一つだけ言えるのは。


「親子関係については心配いらないよ、アン。医療車の設備を使えば親子関係を証明できるし。もっとも、その前に確認したいんだけど――」


 そして僕は、エディを見つめた。


「エディはどうしたい? 本当の生まれ故郷かもしれない街と家族を見に行きたいか、それとも嘘だと思って断るか」


「エディは、エディは――」


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