第80駅 スエノブ皇国外遊 ~ツカサ・クウジュ間~

 しばらく悩んだ後、エディは実の両親かもしれない人物に会いに行くことに決めた。

 エディ曰く『モヤモヤするよりは、白黒ハッキリしたほうがいいのだー!!』とのこと。


 そういうわけで数日間準備した後、エディの実の両親かもしれない人物がいるというシェンカーの街へ向けて出発した。

 ただ、そこへ行くにはメイデン共和国からスエノブ皇国に一度向かい、そこから北西へ向けて海を渡るルートしかないらしい。


 まずはメイデン共和国に入国。そこで挨拶がてらショウザン代表やトウ外交部長官らと会談し、さらに北上した。

 メイデン共和国を出発して丸一日海の上で過ごした後、ついに到着した。


「ここがスエノブ皇国かー」


「私、スエノブ皇国に来るのは初めてなんです」


「いままで行ったくにとは、ぜんぜんちがうのだー」


 僕達は、スエノブ皇国南部にある港町の駅で下車していた。

 この駅、デザインは和洋折衷……というより、和二割、洋八割といった雰囲気の建物だった。


「ようこそ皆様、スエノブ皇国へ。こちらは我が国の南の玄関口に設けられた駅『ツカサ湊駅』でございます」


「ツカサ港駅……。藤田さん、もしかしてこの駅って……」


「陛下のお察しの通り、グラニット王国へ技術を学びに向かった者が設計しました」


 以前メイデン共和国で会議を行ったとき、魔力鉄道を各国で運用出来る体制を整えるため、各国から魔力鉄道について学ぶ人員を受け入れることを表明していた。

 そういった人員の中に建築を学んでいる人もいて、このツカサ港駅はグラニット王国で建築を学んだ人が設計したらしい。


 ちなみに、建築を教えていたのはリットリナさんの幼馴染みのマリーノさんも含まれていたはずだけど、なんだかどことなくマリーノさんの作風っぽいんだよね……。

 もしかして、マリーノさんに教わった人が設計していたりして。


 この日はツカサ港駅付近の旅館に泊まり、翌日出発することになった。




 翌日。


「この部屋、すごく豪華だね」


「トレビシック王国やスタッキーニ王国で見られるデザインですね」


「でも、フシギなところもあるのだー」


 現在、グラニット号の出発準備が整うまでツカサ港駅で待機している。

 実はツカサ港駅には、様々な業界の要人が利用する貴賓室が存在している。一応僕達も要人ではあるので、貴賓室で待機させてもらっているんだ。

 この部屋は洋風の豪華な部屋なんだけど、所々和風っぽいデザインが取り入れられている。そこが、エディの言う『フシギなところ』なんだろうな。


「皆様、準備が整いましたのでご乗車願います」


「わかったよ、トム。じゃあみんな、行こうか」


 トムが乗車案内を伝えたので、僕達はグラニット号に乗車。そのままスエノブ皇国の首都を目指した。




 ツカサ港駅を出発してから一日後。


「皆様。こちらが、我がスエノブ皇国の首都『クウジュ』にございます」


 僕達はスエノブ皇国の首都、クウジュに到着した。

 クウジュは江戸時代の江戸の街のような町並みで、中心には和風の巨大な城が鎮座している。


「木でできた建物はグラニット王国にもあったけど、ぜんぜんちがうなー」


「私は絵で見たことがありますけど、やはり故郷とは雰囲気がまるで違いますね。城の様式もトレビシック王国やスタッキーニ王国とは異なりますし」


「僕は時代劇の世界に来た感じだね。文化的に百年以上前の僕の故郷に似ているらしいし。ただ、気になるのは……」


 このクウジュにある駅、『クウジュ駅』のこと。

 このクウジュ駅、前の世界で復元された東京駅みたいなデザインで、和の意匠しかない街に突如として洋風の建物が現れたというような、ものすごく不思議な感覚にとらわれてしまう。


「まぁ、ツカサ港駅と同じく、グラニット王国へ技術を学んだ者が設計した建物ですからな。ただ、建物の意匠に関して予想よりも不評の声は聞かれないそうですが。

 ささ、こちらに駕籠を待たせております故。このまま城へ向かいましょう」


 藤田さんに案内された先には、ものすごく贅沢な装飾を施された駕籠だった。これ、高貴な人が乗るための駕籠なんじゃ……。

 アンとエディは人力で担がれる乗り物の存在に面食らっていたけど、グラニット王国ではまず体験できない乗り物だったから、駕籠に乗っているときは普通に楽しんでいたみたい。




「この国はつい最近まで外国との交流を閉ざしておりましてな。しかしバルツァー帝国の侵略活動が活発になり、スエノブ皇国だけでは守り切れないと徐々に判明しました。

 そこで外国との交流を再開すると同時に、当国の頂点たる将軍と同等の人物をお招くする可能性を考慮し、そのための来賓応接室を設けております」


 城の廊下を歩きながら、藤田さんがそう説明した。


「到着致しました。こちらです」


「見事な庭の目の前なんですね」


「石とじゃりばっかりなのだー」


 エディの言うとおり、この庭は岩と砂利、それと何本かの木のみで構成されていた。

 しかも砂利で模様が描かれているし、これって絶対アレだよね。


「『枯山水』と申します。岩と砂利で水と小島を表現しているのです」


「私、本で読んだことあります。ブラックさんが見たら、驚くでしょうね」


 庭に関する話をそこそこに、僕達は来賓応接室へ入室した。非常に豪華でありながら、どの位置も上座や下座をハッキリさせないような、『この場にいる者は皆対等』とでも主張する作りになっていた。

 この部屋で待っていたのは……。


「久しいな、グラニット国王」


「堤将軍。メイデン共和国での会談以来ですね」


 挨拶をそこそこに、僕達と堤将軍は世間話から土産話、最近合った出来事を話し、大飯盛り上がった。


「ところで、此度は我が軍が占領したシェンカーへ行くのだったな。エディ嬢の両親を名乗る人物へ会いに」


「ホントかどうかわからないけど、とにかくハッキリさせたいのだー!!」


「本人がこう言っていますので。幸い、僕達には親子関係を科学的に証明する手立てを手に入れていますから」


「そうか。そこまで言うのであれば引き留めできないな」


 ただ、と堤将軍は付け加えた。


「親子の間に愛があるのは事実だ。だが、中には愛が歪んでいたり、愛を持たない者も存在する。ゆめゆめ、それを忘れるな」


「それはもう……身を以て理解していますよ」


 僕の親とか、正に愛が歪んでいた人間だし。

 そして僕の返答に何かを感じたのか、堤将軍はそれ以上追求してこなかった。

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