第78駅 心配事 ~セントラルシティ・コールマウンテン間~

 現在、僕達はサバンナ以南を目指し、グラニット号で移動している。

 そして、僕の人生で初めての経験を行おうと、バスローブ姿で待機していた。


「夜になりました。いよいよですね」


「う、うん……」


 そう。今からまさに、初めての子作りを行おうとしていた。


「エディは明日なのだー。今から楽しみなのだー!」


 ちなみに、子作りする相手はアンとエディで、交代で行う事になっている。

 そして体調不良なんかが無い限り、必ず次の日は前の日に相手をしなかった方と子作りをすることになっていた。

 そのため、レトロスイートカーの客室でコネクティングルームになっているときは一つをリビング、もう一つを寝室にすることが通例なんだけど、今回は両方寝室になっている。片方を子作り用の部屋、もう片方を睡眠用の部屋にしている。


「……あの、トシノリさん。どこか浮かない顔をしていらっしゃいますけど……」


「きんちょうとはちがうなー」


 ……うん。やっぱりこの二人には気付かれちゃったみたい。確かにアンとエディの言うとおり、僕にはある不安があった。


「あのさ。僕がこの世界に来た理由は話したでしょ? 親に殺されたって。簡単に言うと、僕の子供に対しても同じ事をやってしまうんじゃ無いかって思って、怖いんだ」


 この世界に来て物理的に親から離れたおかげで冷静に考え直す余裕が出来て気付いたことだけど、多分僕の親に悪気は無かったと思う。単純に『子供の教育に熱心な親』だと本人も思い込んでたんじゃないかな。

 でも、やり方が一般社会では許されないものだった。それに親は一度も気付くこと無く、僕を殺す結末になった気がする。

 例えるなら、子供のことを思う一流の『エンジン』に、入ってはいけない道に入ってしまう欠陥品の『ハンドル』を持った車。これが僕の親の例え。


 そして、もしかしたら僕も欠陥品のハンドルを持っているのでは無いか? 無自覚に自分の子供を追い詰めてしまわないか?

 そんなことを考えると、子供を作るのが怖くなってしまう。


「私は、短い間ですけどいろいろな貴族を見てきました。確かに、トシノリさんの親のように教育が行き過ぎて子供を追い詰めてしまったり、壊してしまった貴族もいました。特に、特技や技能で貴族になった家に多かったですね。

 ですけど、心配しないでください。もしトシノリさんが子供を追い詰めようとしたら、身体を張ってでも止めますから」


「エディも、トシノリをぶっとばしてでも止めてやるのだー!!」


「みんな……」


 アンとエディの言葉で、不安を完全に払拭できたわけでは無いけど、安心は出来た。

 そしてエディが隣の部屋に移ると、流れるように僕はアンに身を委ねた。




 次の日の夜。


「――はじめてのことで少々怖かったので、ベッドに座ったままお互いに抱きしめて子作りしたんです」


「ほうほう。それで、やってみてどうだったのだー?」


「最初は痛かったですけど、徐々に痛みとはまた違う感覚が――」


 エディはアンに、子作りの時の体験を聞いていた。

 ただ、僕は子作りの事を赤裸々に話されて恥ずかしいんだけど――身内だからいいのかな?


「では、私はもう夜遅いので先に休ませていただきますが、お二人はゆっくりお楽しみください」


 そう言って、アンは隣の部屋に向かった。


「それじゃあトシノリ、早速子作りするのだー!」


「いいけど……四つん這い?」


「ママはこうやって子作りしていたのだー」


 ああ、動物の交尾でよく見られる姿勢かな。

 アンとの経験を元に少し考えてみたけど、まぁ人間でも出来なくはないかな。


「それじゃ、いくよ……」


 そして僕は、エディに体重を預けた。




 その翌日。

 僕はアンが寝ていた部屋で寝込んでいた。寝室になっていた部屋を戻さず、そのまま寝室の状態にしていた。


「なんで一晩で三回も子作りしたんですか!?」


「でもー、ママはもっとたくさん交尾していたぞー?」


「トラと人間は違います!」


 実は昨夜、僕はエディから何回も求められていた。

 僕はなんとか頑張ったけど、三回目で限界を迎えてしまった。

 そのとき思い出したんだけど、トラは二日間で百回以上交尾するらしい。エディはママの交尾を見たと言っていたし、トラの感覚で子作りしようとしたんだと思う。


「とにかく、今後は人間の限界を考えた子作りをしてくださいね」


「ふぁーい……」


 アンにこってり叱られたのか、この日以降エディは何回も求めてこなくなった。

 ただ、僕はこの日からしばらく倦怠感が続き、子作りどころではなかった。




 そんな忘れられない夜を過ごしながら旅を続け、ついにユーカリバシンの西に位置する、海に接した聖樹の領域に到着した。


「海の他は木ばかりですね」


「ここ、あんまりおもしろいモノがないのだー。樹液はちょっとかわってるけど……。ほら、あそこなのだー」


 エディが指さした先には、自然に樹液が漏れ出た木があった。

 僕はどこか見覚えがあると思って、近づいて触ってみた。


「これ、ゴムじゃないか!」


「ゴム……ってなんなのだ?」


「前にいた世界では、重要な工業製品だったんだよ。弾力があって、伸縮性があって、水や電気を通さない。混ぜ物によって性質を変えられるんだ。

 で、そのゴムの原料が、このゴムの木の樹液なんだよ」


「なるほど……。トシノリさんのお話を聞く限り、馬車の車輪や雨具に使用できますね。もっと使い道はありそうですが、そういうのはリットリナさんにお任せした方がいいですね」


 僕は聖樹の根元に駅を呼び出した後、ゴムのジャングルという意味で『ラバージャングル』とこの領域に命名した。


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