第77駅 前々から存在を明言されていた車両 ~セントラルシティ~

 レゾナンスバットを討伐し、無事にユーカリバシンとキニーネテラスに人員を送り込むことに成功した。

 任務を終えた僕達は、ひとまずセントラルシティへ帰還した。


「お帰りなさいませ、陛下」


「ただいま、ブルネルさん」


「この度のお仕事は、かなり大変だったようですね」


 リットリナさんへ通信を入れたからか、やっぱりブルネルさんにもレゾナンスバットの件は知らされていたらしい。


「とにかく、皆様がお無事でいられたことが何よりです。それに――エディ様は一段と明るくなられたようですね」


 そう。ブルネルさんの言うとおり、元から明るかったエディが、レゾナンスバットを倒してから一層明るくなったような気がする。

 自然の摂理や掟を大事にし、ママが殺されても『自然の摂理だから』と納得していた。


 けど、完全にレゾナンスバットを許すことは出来なかったみたい。

 心の中にいつまでも恨みが住み続け、この前レゾナンスバットを倒したことでようやくそれが晴れた。

 それが、より明るくなった理由だと思う。


「それはそうと、スキルレベルが八十に上がってさ。新しい車両が使えるようになったんだよ」


「それはおめでたいことですね。ですが、皆様長旅でお疲れでしょう。今日はじっくりお休みになり、明日、見学させていただきます」




 翌日。

 セントラルシティ駅のグラニット号が停車しているホームに集合した。


「はい。これが新型車両『医療車』だよ」


 グラニット号に連結されたその車両は、他の車両の1.5倍は長く、白の車体に赤い植物モチーフのラインが引かれた外見をしていた。


「あの、医療車って、以前トムさんがおっしゃっていた……」


「そうだよアン。ようやく使えるようになったんだ」


 以前、トムから特別に教えてもらっていた車両の存在があった。それがこの医療車。

 この車両が使えるようになったことで、もうそんなに経験値が貯まったのかと感慨深くなる。


 医療車の扉は、戸袋を持ったスライド式の自動ドアだった。デッキの扉は寝台車や一等客車と同じ、タッチ式の自動ドア。

 ただ、デッキや廊下は白を基調とした空間で、数人がけのソファや観葉植物が飾られた、病院の待合室に似た空間になっていた。


「ようこそ、皆さん」


「あ、トム。白衣を着ているんだ」


「はい。ボクはトム・スタッフズの一種『トム・ドクター』です。患者の診察や治療、手術などを行い、この医療車の設備を使いこなせる技術を持ったスタッフズです」


 どうやら医療車が使えるようになったことで、トム・スタッフズの種類がまた増えたらしい。


「トムを通じ、皆さんがご見学に来ることは知らされていました。ご案内しますので付いてきてください」


 そしてトム・ドクターに医療車を案内された。

 施設はかなり充実していて、診察室や薬剤室はもちろん、手術室、分娩室、入院室までも完備していた。


「この入院室ですが、ベッドは三床と少ない物の、特殊なパーテーションでベッド一つを区切ることで簡易的な集中治療室に改造することも可能です」


「多機能だね」


 これが本当に車両の中に収まるのかと驚いてしまう。

 規模は車両相応に小さいけど、機能だけで言えば総合病院にかなり近いと思う。


 一通り見学を終えたところで、アンが口を開いた。


「ところで、医療車が使えるようになったということは、子作りしていただけるんですよね?」


「あー、たしかそんな約束してたなー。エディ、トシノリと交尾するのがたのしみなのだー!」


 ……そうだった。アンと初めて会った時、アンは政治的な理由で僕と結婚と子作りをやろうとした。今となっては心の底から結婚したいし子供も作りたいと思っているけどね。

 ただ、そのときは医療に不安……というか全く医療行為を受けられる状態に無かったので、その体制が整うまで子作りは待ってほしいとお願いしていた。

 その『体制』というのが、医療車の獲得だったわけで。


「確かに、約束はしたけど……」


 そう言いながら、僕はブルネルさんに目線を移した。


「歓迎したいですね。お話を聞く限り、トシノリ陛下がお子様を設ける可能性はまだ低いでしょう。ですが、お子様を作るという意思を行動で示すことが肝心なのです

 この国は、トシノリ陛下一代で築いた国です。ですが、それだけにちょっとしたことで不安定になってしまいます。跡継ぎ問題はその最たる例ですね。

 その跡継ぎ問題を解決する意図があるというだけで、国民は皆安心するのです。

 ちなみに、この問題はアン王女しか王位継承者がいないトレビシック王国でも同じ事が言えるので、両国の安定のためにも定期的に行っていただきたいです」


 ブルネルさんからも後押しを受けてしまった。

 これはもう、覚悟を決めるしかないね。


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