第75駅 因縁のコウモリ ~コールマウンテン・ユーカリバシン間~

 現在、僕達はコールマウンテンに滞在していた。

 グラニット王国にとってキニーネの供給が国家存亡に関わる生命線であることが判明したので、キニーネの生産を行うための開拓資材や人員を送り込むんだ。

 ただ、キニーネテラスの中継地点であるユーカリバシンもある程度整備しておかなくてはならないので、そちらにも開拓の足がかりを作ることになる。


 今はコールマウンテンで本格的な休息と装備の点検を行っているところ。


「はい。これでコールマウンテン駅にステーションホテルが出来たよ」


「コールマウンテンはサバンナ地帯の南北を結ぶ重要地点ですから。ステーションホテルを設置して駅を大型化するのは必須ですね」


 アンのアドバイスに従ってコールマウンテン駅にステーションホテルを作ったんだけど、一つ発見したことがある。

 ひさしに書かれているホテルの名前が、セントラルシティのものと違った。

 こちらのステーションホテルは『COAL MOUNTAIN STATION HOTEL』となっている。どうやら『STATION HOTEL』の前の名前は、それぞれの駅の名前になるみたい。


「ん? あれは……エディのきょうだい?」


 ふと目を駅舎から外すと、そこにはエディのきょうだいであるトラが何頭書いた。

 どうもエディと何か話しているみたい。


「トシノリー! たいへんなのだー!!」


「大変って、何が?」


「ママを殺したまものをみたって!!」


 衝撃的な情報だった。

 エディのママは、トラの聖獣。強い魔物が揃っている南部大陸の中でもズバ抜けて高い戦闘力を持っていた存在だった。

 その聖獣を殺した、ヤバい魔物が近くにいる。南部大陸のどこかにまだ生きているとは思っていたけど、レイラインの近くで見つかるなんて……。


「とにかく、警戒しながら移動しよう。それしかない」


 南部大陸には、未だにマラリアに苦しんでいる人達がいる。その人達のためにも、この計画を中止するわけにはいかないんだ。




 次の日。僕達はコールマウンテンからユーカリバシンへ向かう途中だった。

 エディのきょうだい達が知らせてくれた事もあり、僕、アン、エディは客車におらず、戦闘車両で鉄道隊員に守られながら、警戒態勢で旅を続けていた。


「……トシノリ、まずいのだ!!」


「まずいって、何が!?」


「ヤツがくるのだ!!」


 次の瞬間、バキバキバキッ!! という音と共に、周囲の木がなぎ倒された。

 ――いや、なぎ倒されたと言うより、砕かれたと言った方が正しいかもしれない。


 そして、窓の外。かなり遠い位置に何か見える。しかもかなり大きい。


「あれは……コウモリ!?」


「あの大きさ、ドラゴンと同じかそれ以上です!」


 さらに、次の瞬間。


「キキキイイイイィィィィ!!」


 あのコウモリの鳴き声が聞こえたと思うと、窓ガラスがピシッ、ピシッという音と共にヒビが生じ、大きくなり――。


「危ない!!」


 パリイイイィィィィン!! という派手で大きな音と一緒に、ガラスが割れた。

 幸い、僕の声に全員が気付いたため、窓から離れたり伏せたりして身を守れた。


「機関銃用意! 魔物を撃ち落とせ!!」


 今回付いてきた鉄道隊長の命令で戦闘車両の機関銃を出し、迎撃を開始する。

 だが不思議なことに、弾の軌道はコウモリの魔物に当たるコースのはずなのに、全くダメージを与えられている気配がない。


『申し訳ありません、皆さん。これ以上の運行は不可能です。コールマウンテンに引き返します』


 機関車にいるトムからの通信に、誰も異論を唱えなかった。誰もが、引き返すことが現在の状況の最適解だと理解していた。

 機関車は、幅が広いレイラインの上でUターンし、コールタウンへの帰路を急いだ。




 コールタウンに戻ると、そのままあの魔物について話し合いが始まった。


「あのコウモリ型の魔物は『レゾナンスバット』と言います」


「どういう魔物なの、トム?」


「音波を武器にしています。音波を発して標的に対し共振を起こし、破壊します」


 だから『レゾナンス』――『共振』の名前が付いているんだ。それに周囲の木が木っ端微塵になったり列車のガラスが割れたのも、音波による共振のせいだった。

 あと、機関銃の弾が当たらなかったのも、おそらくこの能力のせい。銃弾が共振によって破壊されたんだと思う。


「レゾナンスバットは学習能力が高く、標的と共振を起こす音波を探し当てることが出来ます。時間をかければ、相手の頭蓋骨すら破壊できるのです」


「ママもそれにやられたのだー」


 つまり、時間をかければかけるほど、こちらが不利になると。

 聖獣を殺すことも出来る技。その脅威度は極めて高い。


「さらに、音波を調整する技術を応用し、魔力波を調整できます。その能力でレイラインや聖樹から発せられる魔力をある程度相殺し、レイラインや領域に侵入できます」


「まずいじゃないですか! コールタウンもいつ襲われるかわかりません!!」


 アンの言うとおり、領域内に築かれた街も危なくなってくる。

 もしかしたらサバンナ地帯を越え、サバンナ以北の街も襲われる危険性が出てきた。


 ――さて、こうなってくると現状手も足も出ない。今持っている武器ですら、レゾナンスバットに届く前に破壊されてしまう。

 魔法も効くかどうかわからない。レイラインや聖樹の魔力を相殺できる能力がある以上、魔法も減衰か無効にされる可能性がある。


 でも、手をこまねいているとたちまち街が破壊され、人が殺されてしまう。


 考えた末――僕はある人に連絡を取ることにした。


「駅の通信機を使う。セントラルシティのある人に連絡を取って相談してみる」


「相談って……どなたにですか?」


「リットリナさん。現状では打つ手立てが無いんだったら、新しい武器を作るしか無いんじゃないかな」


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