第73駅 駅のホテル ~セントラルシティ~

 僕達がキナの樹皮を持ち帰って以降、マラリアの流行は落ち着きを見せつつある。

 まぁ、完全に撲滅するのは難しくても、確実な治療手段を手に入れただけで状況はかなり違ってくる。

 その他にも、引き続きマラリアを媒介する蚊の対策を継続していけば、この世界の人達にとって謎の怖い病気では無くなるはず。


 マラリアについて語るのはこのくらいにしといて、サバンナ以南の探索を進めていたら僕のスキルレベルが七十五になった。

 それによって新たな施設と車両が使えるようになったので、そのお披露目をするんだ。


「……だけど、なんでこんな朝はやいのだー?」


「確かに……。もっと後の時間でもよろしかったのでは?」


「駅をまるごと改装するらしいからね。今の状況だと、鉄道の営業前にやらないと色々と迷惑がかかる」


 魔力鉄道は、すでにグラニット王国に住む人々にとって生活に欠かせないインフラになってしまっている。

 そんな状態で、ほんの少しとは言え駅が改装で使えなくなると、生活に支障が出てしまう。

 だから、営業前の早朝に行う必要があるんだ。


「じゃあ早速始めよう。『ステーションホテル』!!」


 僕がスキルを使うと、駅舎が三階建てになった。時計の部分が少しせり上がっている。


「おお、おっきくなったのだー!」


「側面に新しい入り口がありますね。ひさしに何か書いてあります」


 新しくできた入り口は、駅舎と同じくレンガで作られたひさしが設けられていて、そこには『CENTRAL STATION HOTEL』と凝った字体で書かれていた。

 いや、書かれているというよりは、装飾用の文字タイルが貼り付けられているみたい。


「駅付きのホテルっていう事ですか!?」


「そうだよ。僕のいた世界でもあんまり例が無いし、ほとんど駅の近所にホテルが建っていることが多かったけど、駅の中にホテルがある場合もあるんだ。有名なホテルもいくつかあるよ」


 代表的なのが東京駅にあるステーションホテルじゃないかな。

 あそこは名実共にクラシックホテルだし、サービス内容や宿泊費を考えると、一度は泊まってみたいあこがれのホテルの一つだと思う。


「それじゃあ、中を見てみようか」


 最初に目に飛び込んできたのが、ホテルとしては当たり前だけどロビーラウンジ。

 床、壁共に大理石で出来ていて、非日常的な高級感があふれる。

 ちなみに、ロビーのカウンターにいたのは――。


「あれ、コンシェルジュが二人? ここにもいたんだ」


「左様でございます。ステーションホテルの業務は、基本的に我々トム・コンシェルジュが担当しております。他のトム・スタッフズと同様、トシノリ様が雇った人間によって人数は増減しますが」


 やっぱり、販売車のトム・クラークと同じシステムなんだ。


「ホテルの中を見てみたいんだけど、いいかな?」


「もちろんです。スキルで出現させた施設や車両のオーナーはトシノリ様ですので。もっとも、ここはホテルですので、他のお客様がいらっしゃらなければ、ですが」


 今はお客さんを受け入れる前だし、大丈夫だと思う。


「それでは、ご案内します。まずはこちらにお乗りください」


 まず案内されたのは、ロビーの一角にあるエレベーターだった。


「エレベーター? そういえば、この世界に来てから初めて見た気がする……」


「トシノリさん、これは?」


「エレベーターっていって、建物の階を上がったり降りたりする設備だよ」


「へー。べんりそうなのだー」


 アンとエディにエレベーターの説明をした。

 そうこうしているうちに、エレベーターは三階に到着。


「当ホテルは、駅舎の中で開業しています。ですので、ホテルとしての設備のほとんどは二階と三階に集中しています。一階にあるのはロビーラウンジくらいです」


 それはそうだ。一階には普通に駅としての機能、ホームとか改札なんかがあるんだから。


「共用スペースとしまして、ロビーラウンジの他にレストラン、カフェラウンジ、バー、スパ・エステサロン、トレーニングルーム、それと狭いですが宴会場が三部屋ございます。

 どの設備も宿泊しなくても使えますが、宿泊客の方がお得になるシステムとなっております」


 まぁ、ホテルなんだから宿泊客を優遇するよね、普通。


「お部屋ですがシングル、ダブルといったオーソドックスなお部屋の他に寝室を上階に配したメゾネットがございます。

 スイートルームも多様なお部屋をご用意しており、基本的なスイート、メゾネットタイプの構造を取り入れたメゾネットスイート、そしてこれからご覧いただくキングダムスイートがございます。

 また、宿泊者様共通のクリーニングサービスがございます。お洋服を無料でクリーニング致します」


 そして、僕達は駅舎の中央部分に到着。トム・コンシャルジュに扉を開けてもらうと……。


「これは……」


「温かみがありますが輝いて見えますね……」


「天井が高い……。部屋も広い……!」


 そこには、壁も床も天井もイエローゴールドをメインに配色された、それこそアンが言うように温かみと輝きが両立した空間が広がっていた。

 そして天井が高く、シャンデリアが吊されている。


「それでは、ごゆっくりご見学ください」


 部屋を見て回ると、まず玄関からすぐの場所にあるリビング、そしてベッドルームがあった。さらに、スイートルームの象徴でもあるミーティングルームも完備。

 リビングにはバーカウンターが設置されており、そこにコーヒーメーカーやケトルが置かれている。

 戸棚を開けるとお酒のセットとティーセット、それと冷蔵庫の中にはソフトドリンクが。

 ちなみに、お酒とソフトドリンクは有料だけど、スイート以上に泊まれば宿泊料に含まれるので飲み放題になるらしい。


 水回りは、風呂トイレ別。風呂は洗面所の奥にあり、シャワーブースが湯船とアクリルの壁で区切られている。

 トイレはウォシュレット付き。


「グラニット王国中の駅にホテルを建てれば、旅も少し楽になるかな」


 列車の中で寝るのは好きだけど、何日も揺られながら寝るのはちょっと疲れる。事実、前の世界であった高級クルーズトレインも、二泊以上のコースの時は車中泊とホテル泊を交互にするスケジュールを組んでいた。

 僕達もホテル泊を手に入れたことで、そういう疲れにくいスケジュールを組むことも可能になったんだ。


「外国の要人の宿泊先としても最適ですね。このような設備を持つホテル、世界中探してもありませんよ」


「おとまりするのが楽しみなのだー! トシノリー、いつかとまってみたいのだー!!」


「じゃあ、今度探索したときに泊まろうか。コールマウンテン駅をステーションホテルにしてさ」


 そういうわけで、次の探索がちょっとだけ楽しみになった。


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