第72駅 火の海の領域・薬の領域 ~ユーカリバシン及びキニーネテラス~

 スタッキーニ王国への支援や蚊対策の商品の輸入について詳しいことはブルネルさんに任せ、僕達は急いでグラニット号に乗車、薬を求めて南を目指した。

 その際、リットリナさんから『念のため』と言われいくつか魔道具を受け取ったんだけど、使う機会あるのかな……?


 それから数日かけてカフェマウンテン、サバンナ地帯、コールマウンテンを抜け、さらに南に進んだ。

 そしてコールマウンテンの南に位置する聖樹の領域に到着した時、目にしたのは――。


「燃えてる……」


 一面火の海になっている、盆地の姿だった。

 火の海の中で、ただ一つ平然とたたずんでいる巨木――聖樹が、異様に存在感を出している。


「あー。ここ、よく火事になってるのだー」


「そうなんですか!?」


「そうだぞー。ママの話だと、ここの木は火がついてもカワがすぐはがれるから、ぜんぜん大丈夫なんだってー。しかも、火事にはんのうして芽をだすしゅるいもあるらしいのだー」


「不思議な木ですね」


 エディとアンの会話、それとかろうじて燃えなかった木を見て、この領域に生えている木の種類がわかった。


「ユーカリが密生しているんだ!」


「ユーカリって……この領域に生えている木ですか?」


「そうだよ。ユーカリは『テルペン』っていう揮発性の可燃性物質をたくさん出すから、感想した気候だと火事がよく起こりやすいんだ」


 加えて、この領域は盆地で風通しが悪い。だから余計に火が付きやすいんじゃないかな。


「実はユーカリの葉から取れる精油は薬として利用できるんだ。あと、ユーカリは地下水を吸い上げる力が強くて成長が早い。だからきちんと植林すれば製紙材料としても適しているそうだよ」


「利用価値がある木なんですね。ところでこの状況、どうしましょう?」


「リットリナさんの魔道具を使おう。確かこういう時に使える物があったはず」


 この領域を通らなければ、目的地に到達できない。だから早く火を消し止め無くちゃいけない。

 そしてその対策になりそうな物を、リットリナさんから渡されていた。


 早速随行していた鉄道隊員の人達が、大きな杭のような物を持って車外に出た。

 そして杭を地面に打ち付け、魔法を使える鉄道隊員の人が杭を持ちながら魔法を発動する。

 するとなんと、領域の中心に位置している聖樹から、大量の水が噴射された!


「あの魔道具、南部大陸のレイラインを介して聖樹に接続して、聖樹を一時的な魔力増幅装置にするものらしいよ。聖樹を中心に大規模な魔法を発動させて、都市防衛に役立てるんだって」


「そうなんですね。聖樹への影響はどうなんでしょうか」


「付加はほとんどかからないみたい。そもそも、今の技術だと聖樹に大きな負荷をかけること自体が不可能だとか」


 まぁ、それが出来たとしてもやらないだろうけどね。グラニット王国は、聖樹が命綱ともいえる状態だから。


「きれーだなー。もっとおひさまが強かったら、にじができていたと思うのだー」


「そうだね。あ、そろそろ火が消えそうだよ」


 予想よりも早く鎮火出来た。

 鎮火した後、すぐに聖樹の麓へ移動。駅を設置する。


 名前は『ユーカリバシン』。ユーカリ盆地って意味で名付けた。




 ユーカリバシンに駅を設置し、少し休憩してから東に向かった。

 領域に到着すると、そこは海岸沿いの丘陵が連続して存在している地形だった。こういうの、確か『段丘』って言うんだっけ。


 聖樹の根元にグラニット号を停車させ、駅を設置。そのまま領域内の探索に向かう。

 で、この領域に生えている木なんだけど――。


「うん、間違いないね。この領域に生えてる木、全部キナだよ」


「ということは……」


「さがしてる薬なんだなー!」


 そう。マラリアの流行を打開するために探していた薬は、このキナという木に含まれている。


「樹皮の中に含まれているんだ。そのマラリアに効く成分の事を『キニーネ』って言う」


「じゃあ、樹皮を採取して持ち帰ればいいんですね」


「そう。帰ったらキニーネを抽出して患者に投与する」


「よーし、がんばってカワをとるのだー!!」


 その後、一日がかりで樹皮を集め、すぐにセントラルシティへ向けて出発した。

 ちなみに、この領域の名前はキニーネの段丘という意味で『キニーネテラス』と命名した。


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