第69駅 豪華鉄道の旅・その2 ~カフェマウンテン・コールマウンテン間~
翌朝、目が覚めると二人の拘束が緩んでいた。多分、熟睡しているからじゃないかな。
……まぁ、手が変なところに突っ込まれていることには目をつぶっておこう。嫌というわけではないし。
洗面台を開け、手を洗い、歯を磨いて顔を洗う。
そうしている間、エディが目覚めた。
「おはようなのだ~……」
「おはよう、エディ。起こしちゃった?」
「べつにいいのだ~。朝ごはんは?」
「えーっと……あと三十分くらいで来るかな」
「わかったのだ~。ほら、アン、早く起きないと朝ごはんが来ちゃうのだ~!」
実は、朝が一番弱いのはアンだったりする。逆に早起きなのはエディ。
今日は僕が早く目覚めたけど、大抵僕が目を覚ますとエディはすでに着替えている事が多い。
で、エディとアンが洗面を終え、全員着替え終わるとドアがノックされた。
「おはようございます。朝食をお持ちしました。リビング用のお部屋の扉を開けていただいていいですか?」
「うん、わかった」
ベッドを作っていない部屋に移動し、トム・コンシェルジュを招き入れる。
トム・コンシェルジュは、テーブルに持ってきた大きめのお盆に乗せた朝食を置いた。
「ごゆっくりどうぞ。皆様が朝食を召し上がっている間、ベッドを収納いたします」
「うん。ありがとう」
トムは隣の部屋に移動すると、早速ベッドを片付け始めたみたい。
その間、僕達は朝食をゆっくりと取る。
「なんか、しゅるいが少ないなー」
「パン類と果物類、それに飲み物ですか。コンチネンタル・ブレックファストという形式の朝食ですね」
さすがはアン。食事に関してはかなり知識を持っている。
コンチネンタル・ブレックファストとは、卵料理やスープのように、本格的に火を通す必要が無い料理で構成された朝食の事。
火を使うとしても、パンを温めたりお湯を沸かしたりする程度に留まっている。
さて、出されたメニューを見てみると、パンの盛り合わせが大皿に乗り、グラス状の容器にフレッシュフルーツの盛り合わせが三つ。これが主なメニュー。
他に付け合わせとしてバター、ジャム瓶が三種。
飲み物は、ジュースがグラスに注がれている他、空のカップが三つあった。
「これ、水筒なのかー?」
「スキットルというタイプの水筒ですね。二本ありますけど、中は――コーヒーと紅茶ですね」
アンの言うとおり、スキットルが二本用意されており、コーヒーと紅茶が入っていた。
よく見ると角砂糖と少量のミルクがセットになっていて、好きな方をカップに注いで好みで砂糖とミルクを入れる形式みたい。
朝食は総じて、シンプルながらクオリティが高く、シェフの腕が見事に現れている料理だと言えた。
朝食後、コールマウンテンが近くなってきたので、今回の旅に付いてきている調査団や開拓団のリーダー達と食堂で打ち合わせ。
それが終わると、お昼近くになったのでそのまま昼食になった。
「お待たせしました。本日の昼食です」
「薄焼きのパンと……具材のセットですか?」
「ちょっとトウモロコシの匂いがするのだー」
運ばれてきたのは、円形の薄焼きパンと何種類かの具材。それにソース類のセット。
「へぇ、タコスセットか。ようやく食べられるんだ」
「トシノリさん、この料理を知っているんですか?」
「うん。この『トルティーヤ』っていうトウモロコシで作ったパンに色々具材やソースを包んで食べる料理なんだ」
ちなみに、『タコス』は複数形であって、単数形は『タコ』って言うんだよね。
「ん? トウモロコシで作ったパン? トシノリー、なんか前にそんなこと言ってなかったかー?」
「言ったよ。アンが合流してすぐくらいの時に。その時は石灰が無くて作れなかったけど」
「ありましたね、そんなこと。ということは、今は石灰を入手する目処が立ったんですか?」
「うん。フィッシングポートの海岸や沿岸で食用の貝が発見されてさ、その貝殻を焼いて粉末にして作れるようになったんだ」
実は、トルティーヤを作るには一度トウモロコシを石灰水で処理しなければならない。処理したトウモロコシをすりつぶし、生地にして焼いた物がトウモロコシなんだ。
で、石灰水を作れるようになったとき、僕は時間がある時にちょくちょく料理人達と一緒にトルティーヤ作りに挑戦していた。
一定の成果を収めることに成功したので、後は料理人個人に任せておいたんだけど、トム・シェフも作れるようになっていたみたい。
それで、タコスの評判はというと。
「パンとぜんぜんちがってて、これはこれでおいしいのだー!」
「具材やソースを自由に変えられるのですね。簡単だけど料理人のセンスが問われる。これは流行る気がします」
とのこと。
そして昼食が終わる頃、列車は無事にコールマウンテン駅に到着した。
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