第68駅 豪華鉄道の旅 ~カフェマウンテン・コールマウンテン間~
コールマウンテンに駅を設置してから、とりあえずセントラルシティに戻った。
本格的に入植する準備を整えるためと、本格的な調査に備えるためだった。最初にコールマウンテンに来たときは、ざっくりとした調査しかしてなかったし。
調査の準備を整えた後、一度カフェマウンテンに移動。そこで休憩と最終調整を挟み、いよいよコールマウンテンへ出発となる。
そして、この旅が僕の待ち望んでいた物だったんだ。
「トシノリ、なんだかうれしそうなのだー!」
「そうですね。サバンナ地帯を越えて開発できるのがうれしいのでしょうか」
「それもあるけど、一番はレトロ・スイートカーでようやく本格的な旅が出来ることだね」
実は、本格的にレトロ・スイートカーで旅をするのは今回が初めてなんだ。
前回は非常に高い警戒態勢で縦断しなければならなかったため、ほぼ戦闘車両に籠もりきりだった。
エディのきょうだいの協力を取り付けられたおかげでサバンナ地帯の通過の危険性は低くなったけど、帰りは協力を取り付けてすぐだったから、どの程度安全になったかわからなかった。
だから、帰りも結局戦闘車両にほとんど籠もる形になってしまったんだ。
結局、それは杞憂だったと判明したので、こうして本格的にレトロ・スイートカーで旅が出来る事になったんだ。
早速乗車して僕達の部屋に入ると、なんとテーブルにはグラスが三人分とカナッペの盛り合わせが。
カナッペはトマト、水牛のチーズといった南部大陸産の食材を多く使っているようだ。
「失礼します」
「あ、トム……いや、トム・コンシャルジュか」
タイミングよくやってきたのは、トムの分け御霊の一人で宿泊業務を担当する、トム・コンシャルジュだった。
「こちら、ウェルカムドリンクのパイナップルジュースです。カナッペと一緒にご賞味ください」
そう言い、トム・コンシェルジュは抱えていたボトルからテーブルにあるグラスにジュースを注いだ。
ちなみにこのウェルカムドリンク、大人だったらお酒になるらしい。もちろん、この世界準拠の大人なので、おおむね十四~十六歳くらい。
「ありがとう。ところで、このカナッペって誰が作ったの?」
「私と同じトムの分け御霊で、トム・シェフという料理・レストラン業務担当の存在がいます。レトロ・スイートカーの解放で条件を満たしましたので、出現し業務に従事しています」
そんな条件があったんだ。知らなかった。
その後、トム・コンシェルジュは部屋の設備の説明を行った。
洗面台の使い方はもちろん、スイッチ類の説明も。実は照明だけじゃ無く、スタッフ呼び出しのスイッチもあったみたい。
そのスイッチを押すと、扉の外側に付けられたライトが光って、スタッフに用がある事を知らせるようになっているらしい。
「今後の予定をご説明します。午後六時頃にお夕食、その間にベッドメイクをいたします。皆様はコネクティングルームのご使用ですので、一つはそのまま、もう一つのお部屋のみのベッドメイクとなります。
翌午前八時頃にお部屋で朝食、十二時頃に昼食となります。
車両の前方デッキにシャワールーム、後方デッキにお手洗いがございます。シャワーの使用時間に制限は設けておりませんが、水の量に限りがございますので、譲り合ってご利用していただければと思います。
では、また何かありましたらお気軽にお呼び出しください」
そして一礼し、トム・コンシャルジュは去って行った。
その瞬間、列車が汽笛を上げ動き出した。
カナッペとパイナップルジュースは、今まで食べたことがないくらいおいしかった。今グラニット王国でこのレベルの料理を出せる人がいるかいないかっていうくらい。
カナッペとジュースを食べ終わった頃、タイミングよくトム・コンシェルジュが現れ、皿とグラスを片付けていった。
なぜタイミングよく現れたかというと、彼曰く『一流ホテルマンともなると、いつの間にかお客様の気配でお客様の行動がある程度わかる』らしい。
軽食を食べ終わって少し暇になったので、部屋の様子を詳しく観察していく。
レトロ・スイートカーが使えるようになったときに一度見てみたけど、そのときは目立つ調度品に目が行っていて、細かいところまで目を通していなかった。
そういうわけで改めて部屋を細かく観察していると、高級な客車として定められている理由がよくわかった。
壁は寄せ木細工になっていて、よく磨かれているのか光沢が出ている。廊下に出る扉に至っては、グラニット号のロゴが寄せ木細工で描かれていた。
天井にはランプが三つ直線に並んで照明になっているんだけど、ランプシェードはチューリップを模したガラス細工になっている。
洗面台は扉を開けると自動的に明かりが付くんだけど、この洗面台のランプのシェードは小さい睡蓮のガラス細工になっていた。
テーブルランプも繊細な柄が入っている。
そして最後に、テーブルに置いてある花瓶。
一輪挿しの細いシンプルな花瓶なんだけど、シンプルながら高い職人芸で作られているのがよくわかる。
まぁ、職人が作ったんじゃ無くて僕のスキルで出したんだけどね!
夕食の時間。
「コース料理だそうですから、普段着ではなく正装で行きましょう」
というアンの提案により、普段着として使っている作業着では無く、グラニット王国の正装として定められている駅員の服で行くことになった。
ただ、部屋を出る前にちょっとした戦いになった。
というのも、正装するということでアンが洗面台の前で髪を整えようとした。
アン自身の髪はすぐ終わったんだけど、エディの髪を整えようとした時にそれは起きた。
「くしを入れるー? なんかめんどくさいのだー」
「だめですよ、エディさん。正装するのに髪がボサボサではみっともないですよ。……って、あら?」
エディの髪は、かなりの剛毛だった。だから櫛がなかなか入らなかったんだ。
ちなみに、今まで外国の要人と会うといった正装が必要な時は、帽子で誤魔化していた。
まぁ、エディは政治の話にはほとんど入らない――というか入れないので、会談の場であまり注目されず問題にされなかったのも助かった要因だった。
それでエディの髪を解くため、お湯で髪を濡らしたり洗面台に備え付けてあった整髪料を使ったりと色々試してみたけど、最終的に護身用の短剣でようやく髪を整えられた。
「う~、痛いしつかれたのだ~……」
「ですね……。他の方法を考えた方がいいかもしれません……」
「……お疲れ様」
それはそれとして、髪を整えるとき二人は下着姿だった。大切な正装に髪が付いたら大変だからね。
もう一緒の部屋で着替えるくらいは慣れたけど、レトロ・スイートカーの部屋は寝台車の部屋よりも狭い。
だから近くで女の子の下着姿を見ることになってしまい、少し……いや、割と心臓に悪かった。
夕食のメニューは、南部大陸産野菜のサラダ、カボチャスープ、パンと水牛のバター、水牛のフィレステーキ、水牛のチーズ盛り合わせ、そしてデザートとしてチョコレートケーキとコーヒー。
また、いつでもソフトドリンクが頼めた。南部大陸産フルーツのジュースが勢揃いしていた。大人だと酒類も選べるらしい。
総じて、小麦を使った料理以外は南部大陸産の食材で構成されていた。小麦はグラニット王国で生産が始まっているけど、まだ輸入に頼っているところがあるからね。
料理はトム・コンシェルジュが運んでいたけど、最後にトム・シェフが挨拶に来てくれた。長いコック帽をかぶった、これぞシェフという格好だった。
なお、挨拶に来たトム・シェフはトム・シェフのリーダー的立場の存在らしく、他にもトム・シェフが何人もいるらしい。
食事は大満足でおいしかったけど、ちょっとアンの様子が……。
「エディさん、そんなにガツガツ食べるのははしたないですよ」
「でもでも、食った気がしないのだー」
「普段ならそれでかまいませんけど、会食の場ではマナー違反です。それと言葉遣いに気をつけましょうね」
とまぁ、アンのマナー講座が始まってしまったので楽しくおしゃべりしながら食事……とはならなかった。
今は開拓中でマナーどころではないと外国から思われていても、いつかはきちんとしたマナーを求められる日が来る。アンはそういった場で恥をかかないように、こういう失敗してもいい場でマナーを教えているんだと思う。
「そうそう。トシノリさんはマナーがよく出来ている方だとは思いますが、細かい部分で気になる点がいくつかありました。追々直していきましょうね」
……いつかその矛先が、僕に向くんだろうなぁ。
夕食の後は、シャワーの時間。なんだけど……。
「なんで一緒にいるの?」
「乱入するだけでは芸が無いと思いまして」
「アンの考えがおもしろそうだから、いっしょにやることにしたのだ~!」
アンとエディは時々僕の入浴中に入ってくることがあるんだけど、今回は趣向を変えて最初から一緒に入る、ということらしい。
「最初から入るのですから、ぬがしっこしましょう! こういう時でないと出来ませんし」
「え、えーと……それは……」
「もしかして、はずかしいのかー? なら、エディがぬがしてやるのだー!!」
「あ、私もご一緒します!」
こうして僕は、アンとエディに脱がされ、『お返しだから』と強弁され二人の服を脱がした。
シャワー中ももちろん洗いっこ。もちろん二人は僕の感情を刺激しまくる。
そして流れるように子供が作れるかどうかのチェック。やっぱりまだまだ薄いし少ないみたいだけど、徐々に濃く多くなってるみたい。
身体の成長によるものだと思うけど、時々やってるチェックで鍛えられた結果だとしたら、ちょっと複雑……。
複雑と言えば、やっぱり二人と一緒にシャワーを浴びるのは恥ずかしかったけど、でも嫌じゃ無いんだよね……。
シャワーの後に部屋に戻る。
コネクティングルームを使っているので、一つは昼間のまま。もう一つが――。
「あ、ベッドが出来てる」
ソファが変形し、二段ベッドになっていた。上等なのはマットレス、シーツだけで無く、ハシゴまで高級な布とクッションで包まれている。
そして、コンパートメント車の寝台と違うのは、枕が専用の物になっていること!
コンパートメント車はソファのヘッドレストと兼用だったけど、レトロ・スイートカーの枕はベッド専用になっていた。しかも柔らかいし、すぐに安眠できそう。
ベッドの上には畳まれたバスローブと――。
「チョコレート、ですか?」
「ナイトチョコレートだね。前の世界では、安眠出来るようにチョコレートがサービスされるそうだよ。高級ホテルだけ、だけど」
というわけで、全員バスローブに着替え、チョコレートを食べて洗面台で歯を磨き、ベッドに入った。
「……なんで三人一緒なの?」
「ベッドが二つしか無いので」
それはわかるんだけど、三人一緒のベッドで寝るのは無理がありすぎるのでは?
いくら僕達の身体が小さいとはいえ、大人一人用のベッドに三人一緒に寝るのは狭いを通り越して身動きが取れない。
「誰か一人だけ別のベッドを使うとなると、角が立つと思いまして」
「とってもかわいそうなのだー。それに、エディたち、これがはじめてじゃないのだー」
確かに。寝台車を使っていたときも、時々こういう事が起きている。
「……わかった。じゃあ、このまま寝よう」
そういうわけで、狭いベッドに三人一緒で寝た。
ただ、眠りに落ちるまで僕の身体をペタペタ触ったり、僕の手に変なところを触らせないでほしかった……。
ま、心底嫌とは思えなかったんだけどね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます