第67駅 サバンナ地帯縦断 ~サバンナ地帯・コールマウンテン間~

 セントラルシティから南のカフェマウンテンに移動した。ここが、北側からサバンナ地帯に侵入できるレイラインがつながっているんだよね。

 カフェマウンテンに到着したら、サバンナ地帯を縦断する準備を整えた。それはもう念入りに。


 そして、とうとうサバンナ地帯に突入したんだけど……。


「十時の方向から魔物確認! 魔法を撃ってきます!」


「火力を集中させろ! 魔法を撃たせるな!!」


「トム、機関車から攻撃してくれる? 援護が必要なんだ!」


 サバンナ地帯に足を踏み入れてから、休む暇が無かったし激しい戦闘になった。トレビシック王国奪還戦の方がマシだったんじゃないかって思ってしまう。

 魔物が非常に強力で、例えば角をミサイルのように発車しまくるサイ型の『ミサイルライノ』、雷魔法を操るトムソンガゼル型の『サンダーガゼル』、植物魔法でツタを操り武器も作るゾウ型の『ヴァインエレファント』など。

 草食性も肉食性も関係なく、バンバン魔法を撃って襲ってくる好戦的な魔物ばかりだった。


 幸いなことに、魔物の範疇を超えることはないので、本体がレイラインの中に入ってくることはない。例外がたまにいるけど。


 まぁとにかく、四六時中魔物の魔法攻撃にさらされているため、せっかくの新車両を満喫することも出来ず、発足したての鉄道隊員と共に戦闘車両に籠もり、身の安全を守ると共に機関車を操作するトムと連絡を取り、援護を要請している。


 こんな状態がサバンナを突破するまで続くかと思われたけど、思わぬところで救いがやって来た。


「報告! 謎のトラの集団が、魔物を足止めしているようです!」


 作戦司令室の画面を見ると、確かに複数のトラが魔物に襲いかかっている。

 その様子を見て様子が変わった人がいた。エディだった。


「ちょっと止めてほしいのだ!」


「え、う、うん」


 エディに突然頼まれて困惑したけど、とりあえずトムに連絡を取って列車を止めてもらった。

 列車が止まるやいなや、エディは車両の外に飛び出した。


「あ、ちょっと待って!」


「トシノリさん、追いかけましょう!」


 僕とアンもエディの後を追った。

 ちなみに、鉄道隊の人達に確認を取ってもらったところ、すでにトラ達は全ての魔物を仕留めており、そしてなぜか魔物が寄って来なくなったらしい。


「おー。みんなひさしぶりなのだー!!」


 急いでエディの後を追った僕とアンが見たものは――トラと親しげに話しているエディの姿だった。


「えーっと……その子達は、エディの知り合い?」


「そーなのだー! この子たちはママのこども、エディのきょうだいなのだー!!」


 エディは北部大陸のどこかから転移魔法で捨てられた子供なので、このトラは実の兄弟では無く、兄弟のように育ったというのが適切だと思う。

 そういう関係性のためなのか、しっかりとエディとの絆が見て取れた。


「ああ、この子達が聖獣の子供達ですか」


「知ってるの、トム?」


 トムがいつの間にかこっちに来た。どうもこのトラ達について知っているらしい。


「噂で聞いたことがありました。確かエディさんが聖獣に育てられてから数年後の事でしょうか。妊娠率が低いと言われる聖獣に子供が生まれたと」


 そんなに最近の事だったんだ。

 言われてみれば、このトラ達は子供と大人の中間のような体格をしている。


「この子達は『ホーリータイガー』。聖獣の因子を持つ魔物です」


「魔物なんだ」


「魔物と言っても、ほぼ聖獣。ギリギリ魔物にカテゴライズされている存在と言えるでしょうか。性格も温厚ですし、エディさんのようにとは行かずとも意思疎通がある程度可能。加えて、レイラインや聖樹の領域内に長期間滞在できます」


 確かに、ほとんど聖獣と言っても差し支えないかも。


「また、聖獣の因子は子孫に代々受け継がれます。そして子孫のうち誰かが、次の聖獣になるのです」


 聖獣って、そうやって生まれるんだ。

 ただトムが付け加えた所によると、聖獣が生まれる仕組みは色々あるらしく、聖獣の因子に関わる生まれ方はその一つらしい。


 トムからホーリータイガーについて説明を受けていると、アンが食堂車から水牛の肉を持ってきた。


「助けてもらったお礼にと思いまして」


「すっごくよろこんでるのだー!」


 ガツガツと水牛の肉を食べているホーリータイガー達を見ていると、僕はあるアイディアを思いついた。


「エディ。この子達に、サバンナ地帯のレイラインから魔物を追い払うよう頼めないかな? お礼に肉とかあげるから」


「ちょっと話してみるのだ」


 しばらくエディとホーリータイガーの間で会話していた。しばらくして、話がまとまったようで。


「月に水牛五頭ぶんと、あとなにかつけ足ししてほしいってー。こいつら、実はざっしょく性なのだー」


「やけに具体的だね……。それに雑食性なんだ……」


 意外な姿にいろんな意味で驚きつつも、その条件を了承した。

 後に、ホーリータイガーを戦力の中心に、さらに彼らの支援を行う人材で構成された、サバンナ地帯のレイラインの守備を任務とする鉄道隊の部隊の一つ『ターガーユニット』が生まれるきっかけになるんだけど、それはまた別のお話。


「ところで、この子達のお父さんって誰?」


「トラの魔物なのだー。ママは、発情期になるとオスのトラの魔物をボコボコにして、ムリヤリ交尾していたのだー。まぁ、こどもができたのはこの子たちだけだけどなー。エディがしっているのは、だけど」


 聖獣の繁殖方法の真実に、めちゃめちゃ強烈な衝撃を受けた。アンなんて顔が引きつっているし、あんな顔見たことないよ……。




 その後、無事にサバンナ地帯を縦断。最初の聖樹の領域に到着した。

 で、この領域には何があるのかというと――。


「何もないね」


「山らしいのはわかりますけど」


「石ばっかりなのだー」


 そこは、山の山頂に聖樹がポツンと生えているだけで、後は岩や石が散乱しているだけの、殺風景な土地だった。


 何も無い土地をどうしようかと頭を悩ませていると、付いてきていた鉄道隊の隊長から報告があった。


「陛下。実は部下の中に『鉱石探査』を持っている者がおり、鉱石の種類や埋蔵状況を知ることが出来るのですが――どうやら、石炭が埋蔵されているようです」


「石炭、ですか」


 これを聞いたアンは、微妙な表情をした。


「トシノリさんがいた世界では事情が異なるでしょうけど、この世界は魔道具がありますので……」


「ああ、そっか」


 この世界、魔道具にカテゴライズされる機械類は魔力で動かす。基本的に使用者の魔力を注入するか、魔物から取れる魔石をはめ込んで必要な魔力を確保する。魔力鉄道とかリットリナさんが発明した外輪船は例外ね。

 そういうわけで、エネルギー源としての石炭の需要は無いんだ。

 一般的な使い道としては、火をおこして熱源にするか、金属精錬に使うかしかないらしい。


「金属を産出する鉱山でもあれば、まだ使い道はあると思いますが……」


「今後に期待だね。まぁ使い道が無くてもサバンナ地帯より南の地域の玄関口になるわけだから、開発しない理由は無いけど」


 とりあえず、この領域と駅の名前を『コールマウンテン』と名付けた。『石炭の山』という意味。

 今回はサバンナ縦断を達成できるかが主な目的だったので、詳しい調査はまた次の機会にしよう。


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