第66駅 グラニット王国帰還、ラグジュアリーな旅の可能性 ~セントラルシティ~

 セントラルシティに帰ってきた僕達は、早速王宮でブルネルさんと面会。トレビシック王国で起こった事や行った事について報告していた。


「――なるほど。手紙で連絡していた事と相違ないようですね」


 報告しについては、こまめに手紙で送っていたこともあって再確認に近かった。

 報告が終わると、アンがブルネルさんに聞いた。


「ところで、トレビシック王国を奪還した後のこちらの反応はどうなのでしょう?」


「心の底から喜んでいる者が大半です。ただ、トレビシック王国への帰還を希望している者は少数に留まっています」


 意外だった。てっきり、トレビシック王国を取り戻したら、みんな帰りたいんじゃないかと思っていた。


「すでにこの国で生活基盤が成り立っていますからね。それに、交易で高く売れる品物を多く生産していますし、魔力鉄道もこの国の基盤ですから職員の待遇はいいですしね。

 今トレビシック王国に帰るとそれらの生活基盤を捨てることになりますし、戦乱で土地が荒らされていたり帰る家を壊されていたりする可能性がありますから、ゼロどころかマイナスからのスタートになってしまいます」


 意外とドライなんだ。

 ただ、完全に縁を切るつもりは無いらしく、何らかの支援を考えている人が多いらしい。


「私の方で注目しているのは、陛下が新しく獲得した施設と車両、確か『鉄道隊駐在所』と『車掌車』でしたか? それらが興味深いですね」


「興味深い?」


「はい。『鉄道隊』とは、どうやら一種の軍のようですね。そうなると、ある課題が解決するのです」


 僕としては鉄道隊は警察に近いかなって思ってたけど、ブルネルさんの言うようにこの世界の人からすれば軍に近いのかもしれない。

 前にアンから聞いたことがあるけど、この世界では軍が治安維持の仕事をしているらしいし。

 それに、装備を見れば軍と言えなくも無い。


「まず、この国に軍は存在しません。なのでグラニット王国に来る前に軍務経験があったとしても軍人にはなれません。大体、冒険者か魔力鉄道の職員になっている場合が多いようです」


 実は、グラニット王国は軍を作っていない。

 トレビシック王国奪還戦を戦っていた時は、グラニット王国から連れてきた人でも『兵』とか『指揮官』とか軍隊っぽい役割を与えて動いてもらったし、僕もそういう役割で呼んでいたけど、実際は軍人じゃ無い。

 ただ軍務経験がある冒険者ってだけなんだ。


「その中で冒険者になった者ですが、冒険者の雰囲気に合わない人がいるようです。それも少なくない人数らしいです」


 確かに。僕も聞いたことがあるけど、冒険者は『自由』を何よりも重要視する空気らしい。

 ただ自由が行き過ぎて、人によっては『無秩序』に写ることもあるんだとか。そういう人にとっては、冒険者を続けていくのは苦痛だと思う。


「そういう者達にとっても鉄道隊は魅力的な組織に移るでしょうし、トレビシック王国の奪還がなった今、グラニット王国とトレビシック王国を行き来する船の自衛や警護を半永久的に行うことは必須。

 ですので、早いうちに鉄道隊の正式な組織化と人員募集をかけるべきかと」


「そうだね。早めに対応することにしよう」


 ブルネルさんの言うことも最もだけど、加えて言うなら鉄道内で起こる犯罪に対処できる体制を早く構築した方がいい。

 人々が魔力鉄道に馴れていけば、必ず鉄道内の犯罪は起こるだろうから。




 翌日、僕達はセントラルシティ駅の王族専用ホームにいた。

 実は、グラニット王国に帰ってから僕のスキルレベルが七十になった。それで新しい車両を使えるようになったので、それをお披露目するためにホームに来ている。


「それじゃあ、召喚!」


 現れたのは、重厚な茶色に、窓の高さの部分をクリーム色で塗装された車体。

 どこか高級感を漂わせる車体だった。


 内開き式の扉を開けデッキに乗車、さらにデッキの扉を開き客室に入った。

 そこには、扉が五つあった。


「なんだか、コンパートメント車に似ていますね」


「そうかも。どうもコンパートメント車を改造したような構造なんだよね」


 近くの扉に入る。そこには、コンパートメント車にあるものと似たようなソファが『一台』。

 しかし、触ってみると使われている布やクッションがより高級な事がわかる。


 そしてソファの向かいだけど、ここにはソファはない。代わりに、ボトルと飲料用コップのホルダーが縦に三カ所、扉側に並んでいる。窓側には謎のクローゼット、しかも上半分だけ開くようになっている。

 ボトルホルダーとクローゼットの間には、謎の扉が。


 それと、窓から小さいテーブルが伸びていて、その下に正方形の小型スツールがあった。


「とりあえず、クローゼットを開けてみますね」


 アンがクローゼットを開けてみると、そこには蛇口と洗面台が。蛇口は、水とお湯が両方出せるらしい。

 クローゼットの壁や扉の内側には鏡、タオル、うがい用コップ(ガラス製)、歯ブラシ、ヘアブラシといった洗面用品が所狭しと納められていた。

 しかも鏡に至っては、クローゼットの上から下まで埋められるほど大きいタイプと、丸くて小さい、可動式の細かいところを見る事が出来るタイプの二種類が用意されている。


「かなり充実した洗面ですね。下半分が開けないのは、水道設備が入っているためですか」


「この扉を開けてみるのだー!」


 エディが謎の扉を開けた。

 そこにはなんと、この部屋を鏡映しにしたかのような部屋が!


「コネクティングルームですね。二部屋を同じグループで使う時などに使用する部屋です。一室しか使わないときは、扉を閉めて施錠するだけでいいですし。高級ホテルなどで見かける部屋ですけど、まさか鉄道車両でお見かけするなんて……」


 アンは王族出身だけあって、ホテルの部屋の構造をそれなりに知っているらしい。

 ちなみに、この車両のうち四部屋はコネクティングルームで、残り一部屋は独立した部屋だった。


 デッキ部分は、寝台車と同じく後方にトイレ、前方にシャワールームがあった。

 ただ、中身はコンパートメント車に近い。トイレは床が凝ったタイル絵になっていた。

 シャワールームは、カードを使わず使い放題(お湯の残量を示すメーターっぽいのはあったけど)。壁や床は無機質な金属ではなく、脱衣所はマホガニー製の高級な木、シャワー室はタイル、しかも床も壁もタイル絵になっていた。

 ついでに、脱衣室には洗面台も設置されていた。


「あの、トシノリさん。この車両は一体……?」


「『レトロ・スイートカー』。古き良き高級な寝台車なんだって」


 前の世界でネットを見たことがあるんだけど、今でもヨーロッパで走っているクラシックな高級寝台車がレトロ・スイートカーみたいな客車の内装だった。シャワーは無かったけど。

 そういった昔、戦前に活躍した高級寝台車を意識した車両が、レトロ・スイートカーなんだ。


 だけど、アン達の感想はちょっと違うみたい。


「なんか、キョーレツな違和感があるのだー」


「そうですね。トシノリさんの世界では『古き良き』デザインなんでしょうけど、私達はそう感じられないというか……。魔力鉄道の存在が知られたばかりですので……」


「あー、そうだね。でも、スキルの説明だとそう書かれてるし……。とにかく、『スイート』の名前の通り寝台車よりも高級な車両だから、これからの旅はもっと豪華で快適になると思うよ」


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