第65駅 トレビシック王国奪還、及びそのインパクト ~ターンブル~

~キャロリン・バルツァーside~


「トレビシック王国が奪還された?」


 バルツァー帝国の首都、ノイロイター。その宮殿の執務室で、皇帝キャロリン・バルツァーはトレビシック王国が奪還されたと報告を受けた。


「はい。それによって国王ジョセフ・スチーブンソンと帝国軍から出向していたリヒャルダ・ローゼンが戦死。前国王夫妻の遺児であるアン・トレビシック王女が今回の奪還戦に加担しており、このままトレビシック王国の国王に即位する予定であると」


「……それにしてもおかしいわね。前に聞いた話では、リヒャルダはかなり優れた軍人という評価だったはず。敗戦が濃厚になった時点で援軍を要請してもおかしく無いんじゃないかしら?」


「それについては、わかりません。ただ、トレビシック王国からやって来る船がいなくなった時期がありましたので、もしかしたら援軍を要請する書状が敵に奪われたか、出せる状況ではなかったのかもしれません」


 事実は、側近が言ったことにかなり近い。

 リヒャルダは援軍要請の書状を一度は出したが、海上封鎖していたグラニット王国の外輪船に鹵獲されてしまった。

 その後も書状を出そうとしたものの、海上封鎖が厳しく出すに出せない状態だったのだ。


「もっとも、書状が届いていたとしても戦況を変えられたかどうかはわかりません」


「そうね。南の方で手一杯だし」


 そもそもトシノリ達がトレビシック王国奪還に踏み切ったのは、スタッキーニ王国を中心とした連合軍がバルツァー帝国南部の領土に攻撃を仕掛けようとしていたため、帝国軍の戦力を分散させる目的で行った事だった。


 実際は、そんな事をしなくても大丈夫だった。

 そもそもバルツァー帝国が領土を広げた理由は、搾取するため。搾取した富を、元からバルツァー帝国の土地に住んでいる民衆に分配するためだった。

 そのため、併合した土地に住む人々から恨まれており、常に反乱の危険が潜んでいる。それに対応するため少なくない軍勢を張り付かせておく必要があるため、無理に軍隊を動かせない状態なのだ。


「ま、いいんじゃない? あの国からは取れるだけ取ったし、スチーブンソンも国王をやりたいって言ってたから認めただけだし。

 むしろ、新しい作物の種になったと思えばそっちの方が得ね。収穫の時が待ち遠しくなるわ」


「左様でございますか」


「それよりも、南の方が心配だわ。あそこは始めから生かさず殺さずで、継続して搾り取る予定の土地だから。南が陥落すれば大赤字になってしまう。

 現地の部隊に伝えておきなさい。『帝国臣民の生活は、あなたたちの肩にかかっている。心して敵を撃退しなさい』とね」


 『承知しました』と答え、側近はキャロリンの執務室を辞した。




~トシノリside~


「この度はトレビシック王国奪還の成功、おめでとうござします、アン王女殿下」


「ありがとうございます。ですが、この場は私の両親を弔う場。お祝いの言葉は別の機会にしていただけると……」


「これは、失礼しました」


 トレビシック王国の首都・ターンブル。この街の神殿で、アンの両親である前国王夫妻の葬儀が行われる。

 前に僕が提案した『木像を使った葬儀』を実行したんだ、アンは。

 また、バルツァー帝国の侵略や奪還戦で犠牲になった人達を弔う意味合いもある。


 時刻は間もなく葬儀が始まるという時間。神殿内の遺族控え室で、僕達はスタッキーニ王国からやってきた使者と会っていた。

 トレビシック王国奪還のお祝いと、この葬儀に参加するためだった。


「スエノブ皇国とメイデン共和国からの手紙も持って参りました。これらの国々は距離的にトレビシック王国へ来るのが難しいですからね。……しかし、内容は国の奪還の祝いなので、後でお渡しするとしましょう」


「お気遣い、恐れ入ります。……ところで、そちらの戦線の状態はどうなのですか?」


「今のところ順調です。バルツァー帝国軍は、思ったよりも動きにくい軍隊のようで」


 使者が話したところに寄ると、バルツァー帝国が侵略した土地は搾取の対象となるため、常に反乱のリスクが付き纏う。

 そのため、軍を支配領域に張り付かせておく必要があるそうなんだけど、これが仇となっているらしい。

 なんせ、軍が離れたら即反乱を起こされてしまうからね。隣に配置されている軍隊が苦戦していても、反乱を恐れて救援に行けないらしい。


 ちなみに、この状態はスタッキーニ王国、スエノブ皇国、メイデン共和国の連合軍がバルツァー帝国へ侵攻したために露呈したらしい。

 バルツァー帝国は今まで侵攻する側であったため、帝国自信もこの弱点に気付いていなかったみたい。


「現在、帝国に侵攻された地点まで進出し、その後講話を行う予定です。そこで帝国が二度と侵攻・侵略を行わないよう確約させる予定です」


「なるほど。ですが、交渉が決裂した場合は……?」


「さらに軍を進めるしかないでしょう。ですが、そうなると軍事行動は困難さが極端に上昇します。帝国は搾取した富を民衆にバラ撒いていますからね。帝国に対する忠誠心が段違いですし、軍も自由に動けますから」


「そうですか。そうならないためにも、講話が上手くいくといいですね……」


 そうこう話していると時間になったので、僕達は会場へ移動、葬儀が始まった。




「では、私はグラニット王国へ戻ります」


「留守中はお任せください、王女殿下」


 葬儀を終え、トレビシック王国の権力掌握や復興に関わる諸々の仕事が終わると、僕達はグラニット王国へ戻ることになった。

 定期的にやって来る外輪船を使ってブルネルさんとは情報のやりとりをしていたけど、詳しく口頭で伝えたい。

 それに、南部大陸のサバンナ以南探索に取りかかりたいしね。


 トレビシック王国に取り寄せた量産型魔力鉄道は、引き続きそのままトレビシック王国内で運用していくことになっている。今回の戦争で魔力鉄道の持つ力が示されたから、バルツァー帝国への防衛力という点でも必要だと判断されたから。

 それと、外輪船の一部もトレビシック王国に譲渡されることになった。主に軍船として海軍力の強化に繋げる予定。


 そうそう。重要な事なんだけど、アンの王位への即位は見送ることになった。

 葬儀の後すぐに即位というのは喪に服するという点で抵抗感があるし、葬儀と戴冠式とでは雰囲気がガラッと変わってしまう。

 激しすぎる雰囲気の変化は多くの人達が付いていけないという結論になったため、しばらくアンの即位を見送ることになった。


「グラニット国王陛下、王女殿下のこと、よろしくお願いします」


「うん。わかった」


「エディさん。戦闘中のご活躍の数々、非常に助かりました」


「あんなの、わりとカンタンな獲物だったのだー!」


「では皆さん、無事にグラニット王国へお帰りになられること、心より祈っております。しばらくしたら、またこの国へお越しください。お気をつけて」


 こうして、トレビシック王国での冒険は一旦幕を閉じ、グラニット号は南へ進路を向けた。


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