第64駅 暗殺未遂 ~バニスター~

 数時間後、バニスター全域の掌握とスチーブンソン公爵、及びリヒャルダ・ローゼンの確保の報告が入った。

 やはり城壁を越えて破壊する兵器を想定していなかった――というか見たことが無かった影響なのか、パラシュート弾の砲撃で城壁内部は大混乱。突入後は大した苦労も無く戦闘を進めたらしい。


 僕達はバニスター中央にある砦に入った。

 ここは敵が司令部に使用していた砦で、ここの広間にスチーブンソン公爵とリヒャルダが詰めていて指示を出していたらしい。

 そして今もその広間にスチーブンソン公爵らが拘束されているそうなので、僕達は直接情報を聞き出すべく広間へ訪れた。


 広間に入るといくつもの銃口を向けられながら椅子に座っている二人の男女が、

 この二人が、トレビシック公爵とリヒャルダらしい。

 なお椅子に座らされているだけで、縄で縛るなどの拘束はされていない。妙な動きをすれば兵士が撃ち殺すと言い含められているそう。


「これはこれは、アン王女ではないか。壮健そうで何より」


「お久しぶりですね、トレビシック公爵。ですが王族、それも王位継承順位が第一位であるこの私に対して、態度が大きすぎるのでは無いですか?」


「余は国王になったのでな。『公爵』ではなく『国王』と呼び給え」


「僭称でしょう? 少なくとも、あなたを正式な国王と認めることはありません。そんなことより、なぜバルツァー帝国を引き込む真似をしたのです?」


 アンとスチーブンソン公爵が言い合っている最中、僕はエディのことが気になっていた。

 さっきから空気の匂いを嗅いだりウロウロしていたりと、落ち着きが無いんだ。


「どうしたの、エディ? 何かあった?」


「なんか、この部屋の感じがヘンなのだ……」


 そして再びウロウロすることしばし。

 エディが突然目をカッと見開いたかと思うと、窓の脇に束ねられていた巨大なカーテンの上部に飛びかかった!


「見つけたのだ!」


「しまった、うわっ!?」


 なんと、エディが飛びかかった先には、黒ずくめの人間がいた。

 そしてエディはその人間を反対側の壁に投げ飛ばすと、そこには別の黒ずくめの人間が落ちてきた。


「どうするのだね、リヒャルダ君!? 暗殺部隊がバレてしまったぞ!」


「仕方がありません。総員、戦闘用意! なんとしてでも、そこのガキ三人を殺せ!!」


 暗殺部隊だって!? このタイミングを見越して、あらかじめ広間に潜ませていたんだ!!

 そしてリヒャルダの命令で、広間のあちこちから出てきた黒ずくめの人達。そのまま僕達を襲おうとしたけど、周りの兵士達のおかげで食い止められている。


 そしてスチーブンソン公爵とリヒャルダの方向を向いたとき、僕は危険な場面を目撃してしまった。

 突然の暗殺部隊の登場に浮ついたのか、二人の見張り役の兵士達の銃口が別の所を向いていた。


「何してるの、早く銃口を戻して!」


「もう遅い! アン王女だけでも始末する!」


「余も手にかけてくれよう。光栄に思うがいい!!」


 スチーブンソン公爵とリヒャルダは袖口に暗殺用ナイフを忍ばせていたようで、それをアンに向かって突き出した!


「危ない、アン!!」


 そのときだった。


 パァン!! パァン!!


 銃声が二つ。気付けば、スチーブンソン公爵とリヒャルダが頭部から血を流して倒れていた。

 その目の前には、煙を吹き出した拳銃を構えているアンの姿が。


「念のために拳銃を持ってきていて正解でした。射撃訓練を受けていたのも功を奏しましたね」


 そしてアンは拳銃を天井に向け、二回発砲し注意を向けた。


「皆さん、スチーブンソン公爵とリヒャルダ・ローゼンは死亡しました! 武器を捨て、おとなしく投稿してください!!」


 仕えるべき主君が死んだからか、意外にも暗殺者達はアンの言葉に応じていた。

 ここに、ターンブル奪還戦は終結を迎えた。


「トシノリさん、エディさん、ご心配をおかけしました」


「アンがぶじで、何よりなのだー!」


「僕も同感。ところで、結局スチーブンソン公爵がアンの両親を裏切った理由って何だったの?」


「すごく単純な事ですよ」


 アンは一息つくと、さらに続けた。


「あの人は出世欲が強かったんです。目の前に出世の可能性が転がっていれば、簡単に飛び付くほどに。今回は国王へ出世できる可能性が転がっていたから、後先考えずに飛び付いた。ただそれだけです」

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