第63駅 バニスター奪還戦 ~バニスター~

~ジョセフ・スチーブンソンside~


 命からがらターンブルを脱出したジョセフとリヒャルダは、バニスターにたどり着き籠城していた。


「……これからどうするのかね、リヒャルダ君」


「本国へ援軍要請の書状を送りました。援軍が来れば形勢逆転の目もあります。……もっとも、それまで我々が持ちこたえられれば、の話ですが」


「持ちこたえてみせるさ。バニスターの壁はターンブルとは比較にならんからな」


 ジョセフの言っていることは事実だった。

 軍港都市であり大陸に近い場所にあるバニスターは、防衛力を高い水準に保つため、歴代国王が頻繁に設備更新を行っていた。

 それは城壁も例外では無く、分厚く、丈夫で、魔法による強化が行いやすくなっている。


 連れてきた魔法使いを総動員すれば、ターンブルの城壁を打ち破ったあの大砲でさえ、このバニスターの壁を破壊するのは難しくなる。


「そしてもう一つ。万が一に備え、陛下には囮になっていただきます」


「囮? なぜ余がそのようなことを?」


「敵が勝てば、その首魁が陛下の前に現れるでしょう。それが最後のチャンスです。陛下の周辺に暗殺部隊を潜ませておき、敵の首魁が現れた時点で首をはねます。もっとも、そうなる前に援軍が来ればよいのですが……」


「そういうことか。なら、余とて腹を括らねばな。ところで、リヒャルダはどうするのだね? 本国に撤退する選択肢もあるだろう」


 普通に考えれば、リヒャルダはさっさとこの男を見捨て、バルツァー帝国に引き上げる選択も出来る。

 だが、リヒャルダはそれをしなかった。


「確かに、陛下のおっしゃる事も出来なくはありません。しかしそうなった場合、あたくしは更迭され、一生飼い殺しにされるのは目に見えております。そんなのあたくしには耐えられません」


「そうか。余であれば、利用価値なしと断じられ帝国に処刑されるか、病死に見せかけて暗殺されるだろうな。――思い返せば、この国を盗るのに自分の命を懸けることが無かった。今が、命の懸け時か」


 そしてジョセフはリヒャルダに、こう告げた。


「リヒャルダ、我が共犯者よ。ここまで来たら一蓮托生だ。最後の時まであがいてみせるぞ!」


「お供いたします、ジョセフ殿下」


 こうして、トレビシック王国を巡る最後の戦いの幕が開けようとしていた。




「……やっぱり壊れないね」


「歴代の国王が更新し続けた壁ですからね。お父様もその命令を下したこともありますし。下手な鋼鉄よりも堅いんです。まぁ、かすり傷が付いたこと自体が驚きですが」


 現在、僕達は軍港都市バニスターの城壁をいくつかの魔力鉄道で囲み、ターンブル奪還戦の時のように列車砲を発車し続けている。

 しかし、さすがは軍港都市の城壁というべきか、浅くかすり傷が付くくらいで破壊とはほど遠い状態だった。


 ただ、ここまでは想定内。バニスターの防御設備が常に更新されているのは聞いていたし、今までの攻略法が通用するとは思っていなかった。

 もっとも、バルツァー帝国は数の力でゴリ押ししたらしいけど。だから、バルツァー帝国が一番損害を被ったのはバニスター戦だったらしい。


 さて、僕達はバルツァー帝国のように数の力は無い。だから、別のアプリローチを盗る必要があった。

 海上封鎖は複数の外輪戦を使って行っているけど、なんと拿捕した船からバルツァー帝国からやってきた監視役の将校、リヒャルダ・ローゼンがバルツァー帝国へ援軍を要請する書状が見つかった。

 おそらく、敵は拿捕等によって手紙が届かなくなる可能性を考え、複数の書状を送っていると思われる。


 だから、悠長に持久戦を行うことは出来ない。素早く攻略を行う必要があった。

 実はその攻略の糸口となる物をリットリナさんが発明していて、それを送ってきていた。


「マークさん、例のプランの発動を」


「了解しました。総員、パラシュート作戦を開始するぞ」


 すると、列車砲の近辺で騒がしくなり、しばらくすると準備完了の報告が入った。


「パラシュート弾、撃て!」


 ドォーーーーン!! ドォーーーーン!! ドォーーーーン!! ドォーーーーン!!


 もやは聞き慣れた列車砲の発射音。その直後、『ブオオオオォォォーーーー!!』という強風のような轟音が響き渡った。


 実は、さっきマークさんが言っていた『パラシュート弾』とは文字通りパラシュートを装着した爆発性の弾。これを射角高めに撃つことで、弾の滞空時間を大幅に引き延ばすことが出来る。

 さらに、風魔法のスキルを持つ兵士達にハンディ扇風機のような魔道具を持たせている。

 これもリットリナさんが発明した魔道具で、風魔法を増幅させる装置らしい。この装置を使って発射されたパラシュート弾を吹き飛ばし、城壁の中へ侵入させた。


 当然、敵は撃ち落とそうとするけど、あの弾は非常に妨害に強く、落下時の衝突でしか爆発しないようになっていた。どういう仕組みかは『リットリナさんのみぞ知る』のだと思う。


 弾は続々と城壁のさらに奥へと侵入。城壁内部のあちこちで爆発を起こした。

 そして、僕達が狙っていたそのときが来た。


「敵兵士、城門を開け脱出してきました!」


「よし。まずは抵抗する敵兵を掃討後、城壁内部へと侵入する!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る