第59駅 次なる奪還の準備期間 ~ワトソンバック~
~ジョセフ・スチーブンソンside~
「ワトソンバックが奪われただと!?」
ジョセフは報告を耳にすると、驚愕の声を上げた。
「残念ながら事実です、陛下。ですがカニンガム、ワトソンバックが奪われる可能性が高いことは織り込み済みです」
「――――そうだったな。あの二つの都市は防御が薄かったのだったな」
リヒャルダの言葉にジョセフはいくらかの冷静さを取り戻したようだった。
「これからが本番です。ここターンブルとバニスターは、都市の性質から防御が厚い都市。当然、敵側も知っているでしょう」
「ああ。国のあちこちに潜伏している連中が侵略者に協力しているはずだし、アン王女がいるかもしれないのだからな」
「その通りです。なので、敵も入念な準備をしてくるでしょう。逆に言えば我々にも時間ができたと言うこと。今のうちに失った兵力の立て直しと、迎撃の準備を進めましょう」
「そうだな。リヒャルダに任せる」
~トシノリside~
「列車が来たぞー!」
「食料は向こうへ、武器はあっちへ」
「資材はそっちに回してくれ!」
現在、ワトソンバックの広場に『ワトソンバック駅』を設置し、カニンガムから魔力鉄道で物資を搬入している。
ワトソンバックは流通の拠点と言うだけあり、大通りは列車を同時に何本も走らせることができる広さがあるのはありがたかった。
ただ、街中なので駅は橋上駅舎、貨物駅は設置が難しく、ホームをいくつか増設して貨物専用ホームを作って対応している。
「それにしても、船で列車が運搬できたんですね」
「まぁ、鉄道輸送に向いた船だったからね」
アンの質問に答えた。
実は、リットリナさんが開発した外輪船は鉄道車両の海上輸送に向いていたりする。
そもそも外輪船は外輪の設置場所によって二種類に大別されていて、後ろについている『スタンホイーラー』と左右についている『サイドホイーラー』がある。
このうちサイドホイーラーは船の後ろに何も設置する必要が無いことから船尾にスペースを作りやすく、全長方向に広い空間を確保しやすい。
こういった性質から、前世ではかつて鉄道連絡船として使われていたらしい。
『鉄道連絡船』とは、海や川を挟んで鉄道を通したい場合、船に車両ごと収容して向こう岸まで運ぶ船のこと。
実際に船に線路を設置し。車両を自走させて乗船・下船させていたらしい。
まぁこの世界の場合、線路は魔力で作られるので船の中に線路を敷く必要は無く、ただ車両を固定できる装置があればいいんだけどね。
「ここにおられましたか、陛下」
「マークさん。どうしたの?」
資材が搬入されてくる様子を視察していると、マークさんがやってきた。どうも僕を探していたらしい。
「実は、妙な物が搬入されてきたようでして。少し見ていただければと」
「妙な物?」
とりあえずそれを見に、貨物用ホームへ向かった。
そこには、魔力鉄道の機関車に牽引された、四つの『ある物』があった。
さらにこの『ある物』についてリットリナさんが詳細な資料をまとめていたらしく、それに目を通しながら確認した。
「これは――アン、目の前の実物と資料を見て、どう思う?」
「そうですね――」
しばらく考えると、アンは答えを出した。
「おそらく、ターンブル、ひょっとしたら軍港バニスターの厚い城壁や防御設備をたやすく打ち破ることも可能かと」
「なるほど。マークさん、すまないけど、これらを使用したターンブル攻略作戦を練ってもらえるかな?」
「承知しました。必ずターンブルを奪還できる策を考えて見せましょう」
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