第57駅 新施設と新車両 ~カニンガム~

 次の目標はワトソンバックの奪還に決まったんだけど、実はトレビシック王国までの移動と戦闘によって僕のスキルレベルが六十五に上がった。

 その結果、新しい施設と車両が使えるようになったんだ。


 そういうわけで、カニンガム港近くに設置した駅『カニンガム駅』に移動した。

 実は、カニンガム港はかなり拡張性を意識した設計になっていて、比較的土地を使う地平駅舎と貨物駅を併設してもまだ余裕があるほど広い空き地があった。

 人や荷物の出入りも考慮して、ここに駅を建てさせて貰ったんだ。


「今回追加されたのは、『鉄道隊』に関する物だよ」


「鉄道隊って、何なのだー?」


「スキルの説明によれば、鉄道内の治安を維持し、時に侵略者から鉄道を守る組織、だって」


「鉄道専門の軍と治安維持組織、ということでしょうか?」


 アンの感想が一番近いと思う。


 前の世界では、かつて鉄道会社が自前の警察を持っていて鉄道内のパトロールや事件の捜査をしていたらしい。現在は全て警察の管轄になったけど。

 そして軍事に関して言うと、今よりも鉄道の影響力が強かった時代、鉄道を扱う部隊が存在していたらしい。


 どうも『鉄道隊』というのは、鉄道内の警察兼軍隊という存在、というのが僕の見立て。


「ここだよ」


 到着した場所には、ガラスの引き戸があった。

 中に入ると受付カウンターがあり、その奥には事務作業を行うための机がいくつか置かれていた。

 さながら、前の世界にあった交番を大きくしたような感じ。


「奥に扉がありますね」


「はいってみるのだー!」


 奥に進むと、いくつかの部屋に分かれていた。

 まず仮眠ができる休憩スペース、そして銃器などが保管してある武器庫、そして犯罪者を留めておく拘留施設。


「あの、ここって一体……」


「『鉄道隊駐在所』だよ」


 『鉄道隊駐在所』。駅に設置される、鉄道隊の活動拠点となる施設。

 まぁ、このスペースだけでは警察がやるような治安維持活動しか出来ないかも知れないけど、今後鉄道を広めていく上では必要な施設だろう。


「もう一つの方も見てみようか」


 次に訪れたのは、ホームに停車してあるグラニット号。

 この最後尾に、新しく使えるようになった車両がある。


「まっくろなのだー」


「車体は他の車両の半分なんですね。この車両は?」


「『車掌車』って言うんだって。文字通り車掌――運転手の補助をしたり安全管理をしたりする人なんだけど――その人が勤務する車両だよ」


 前の世界ではあまり見かけなくなってしまったけど、昔は貨物車に必ず編成されていたらしい。


「ただ、スペックを見てみるとどうも車掌のための車両だけじゃなさそうなんだよね」


「……どういう意味でしょうか?」


「見てみればわかるよ」


 というわけで車掌車に乗り込み、車内を見てみた。

 まず最後尾には、計器類や緊急ブレーキ、通信・放送設備、ちょっとした書き仕事ができる机がある部屋があった。

 後方が広く見渡せるように、視界が確保されている。


「ここが、車掌が実際に勤務する『車掌室』」


 車掌室の隣にはトイレ。さらに隣には二段ベッドが一台置かれている部屋があった。


「ここが『仮眠室』。夜通し運行するときに交代で仮眠を取る部屋だね」


「ここまでは、車掌が勤務するための車両として理解できますが……」


「この先が問題なんだよ」


 仮眠室までで車両の半分。残りのもう半分が、ネーミングと設置されている部屋との違和感の元凶なんだよね。

 隣の部屋の扉の前にたどり着くと、僕はカギを取り出した。


「この部屋、外からカギを開けないと入れないんだよね」


 部屋の中は、非常に殺風景。壁際にベンチが二台あり、小さい流しがついている。

 さらに壁が無く、用を足しているところが丸見えになってしまうトイレがあり、この部屋の異彩さを際立たせている。

 極めつけに、窓は非常に小さく鉄格子がはめられていた。


「なんというか……牢獄という感じがしますね」


「その通り。ここは列車内で犯罪を犯した人を捕まえておく『拘置室』。最寄りの駅に到着したら、そこの鉄道隊に引き渡す前提で設計されているから、かなり簡素な作りなんだよ」


 そして僕たちは車掌車の最前部、最後の部屋に入った。

 ここは車掌車の中で一番広く作られており、中は椅子とテーブル、装備品を保管しておくロッカー、銃器を壁に掛けておく設備があった。


「ここは『鉄道隊員待機室』。列車に乗り込んだ鉄道隊員が待機している部屋だね。最大五人まで収容できる」


「先程の拘置室といい、この部屋といい、まるで――」


「駅にあったちゅうざいしょ? みたいなのだー」


 そう。アンとエディが言ったとおり、この車掌車は車掌業務を行うだけでなく、鉄道隊員が乗り込んで列車内の治安維持を行う機能も持たされている。

 だから、『車掌車』の名前だけではない機能の多さに最初は混乱してしまう。


「まぁ、これから列車を運用していけば犯罪とかトラブルが起こるだろうし、それの対策手段を手に入れられたのは幸いじゃないかな?」


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