第56駅 カニンガム防衛戦 ~カニンガム~

~ジョセフ・スチーブンソンside~


 トレビシック王国首都・ターンブル、王宮内。

 ある程度片付けられたものの、まだ戦場の傷跡が残る王宮の一室で、ある二人の人間が話し込んでいた。


「カニンガムが何者かに占領されただと!? それは真か!?」


 報告を受けて驚愕しているこの中年男性の名は、『ジョセフ・スチーブンソン』。スチーブンソン公爵家当主だった人物で、現在はバルツァー帝国からトレビシック王国国王であると認められている。

 その実体は、傀儡の王だ。


「残念ながら、事実です国王陛下」


 国王に報告を行っているのは、バルツァー帝国より派遣されている女性将校の『リヒャルダ・ローゼン』。二十五歳と若い軍人だ。

 その任務は、表向きトレビシック王国の政策・軍務アドバイザーとしてトレビシック王国を支援することだが、実体は監視だ。

 事実、現在のトレビシック王国軍の全てを指揮できる権限を彼女が有している。


 傀儡の王とその監視役という関係の二人だが、奇妙なことにそのような暗い関係であることを一切感じさせない。

 というのも、二人とも出世欲が強く、しかもお互いに協力すればさらに高みを目指せる立場だからだ。

 そのため、同族嫌悪を全く起こさず、むしろ積極的に協力体制を敷いて帝国からの評価を高めようとしている。


 一言で言えば、共犯者に近い関係だった。


「現場はかなり混乱しているようで、詳細な情報を手に入れるのに苦労している状況です。真偽不明ながら、謎の兵器や行方不明とされているアン王女の姿が目撃された、とも」


「それが事実なら、願ってもないチャンスだな」


 アンの存在は、ジョセフやリヒャルダにとって懸念材料の一つだった。

 なぜなら、前国王の実子であるアンは王位継承順位が一位であり、ジョセフが王位に就いている正当性が危うくなる。

 現在でもバルツァー帝国によって王位が簒奪されたとしてレジスタンスが活動しているのに、アンが現れれば取り返しのつかない事態になるのは明白であり、自分たちの身が危うくなる。


 だから、さっさと捕まえるか殺してしまいたいのだ。


「まぁ、真偽不明の情報に頭を悩ませても仕方が無いでしょう。少なくともカニンガムが占領されたのは事実ですし、それに対応して取り返しに行くだけです」


「そうだな。あまり時間をかけすぎると敵の防衛準備が整ってしまう。早めの対処を望む」


「お任せ下さい」




~トシノリside~


「船が着いたぞー!」


「資材と武器は外壁へ運べ!」


「食料、その他物資は指定された貯蔵施設へ!」


 現在、このカニンガムには大量の物資が船で運び込まれている。

 実は、トレビシック王国へ向かうことが決まった当初から、カニンガムを電撃的に制圧し拠点にすることが決まっていた。

 なので、僕達が出発してからすぐ補給船を連続して出港させる手はずになっていた。


 さらに、船そのものにも秘密があった。


「こんな船を造るなんて、リットリナさんはすごいですね」


「そうだね。すさまじい執念というか……」


 実は、船はリットリナさんが設計した新機軸の船だった。

 そもそも、魔力鉄道は僕がスキルで出したグラニット号かボールドウィン号でなければ、海の上を走行することは出来ない。

 トム曰く、僕が死ぬまでにとっかかりが見つかるかどうかなので、実用化はまず不可能という見立てだった。


 だけど、それであきらめるリットリナさんではなかった。

 列車を使った海上輸送が不可能ならば、列車にこだわらなければ良いと。


 具体的にどうしたかというと、既存の船に魔力鉄道の研究で培ったレイラインから魔力を受け取る技術と、魔力鉄道の車輪を応用したパーツを搭載させた。


 その結果、前の世界で言うところの『外輪船』が出来上がった。

 船の左右、もしくは後方に『外輪』という水車のようなパーツを動かして水をかき、推進力を得るタイプの船だね。


「一応帆船としての機能を残してあるから、レイラインに限らずどこの海でも航行出来るらしいけど、レイラインの上を通るのなら外輪だけで十分みたいだね」


「おかげで、風向きを気にせず航海出来ますしね。このペースで物資を運び続ければ素早く防御態勢を整えられますし、敵も驚くのではないでしょうか」


 そうならいいね、とこの時は返事をしたけど、実際はアンの言った通りになった。




「な、なんだ、あの兵器は!」


「弓どころか、魔法よりも射程が長いぞ!」


「後方に着弾した! 救助に向かえ!!」


 結論から言うと、こちら側の圧勝だった。

 まず、敵の攻撃態勢が整う前に配備した大砲で砲撃。浮き足立ったところで、近づいてきた敵を銃で射撃。

 後は、大砲で敵後方にいる輸送隊や指揮官を狙いつつ、打って出て追撃。こうして敵軍は総崩れになり、カニンガムの防衛は成功。トレビシック王国奪還の拠点とすることに成功した。


「勝ってよかったのだー!」


「まあね。作戦と言うにはシンプル過ぎる気もするけど……」


「ですが、勝利は勝利です。こちら側の損害は軽微ですから、誇っていい勝利と言えますね」


 防衛戦の成功にホッとしていると、マークさんがこれからのことについて相談してきた。


「これで、カニンガムにおける我々の地位は確かな物になりました。補給線もしっかり機能しています。それで、次のステップに進もうと思うのですが、よろしいでしょうか?」


「そうですね。私も、トレビシック王国は取り返せるなら取り返したいですし……。トシノリさんとエディさんはどう思います?」


「そうだね。僕も、行けるところまで行ってみたいかな。バルツァー帝国はいずれなんとかしないといけないだろうし……」


「このままの勢いで、アンのふるさとを取り返してやるのだ-!!」


 全員の意思の統一が確認できたところで、マークさんが次の目標を告げた。


「ありがとうございます。次の目標ですが、ワトソンバックの奪還を狙おうかと思います」


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