第54駅 トレビシック王国奪還作戦 ~セントラルシティ・カニンガム間~

「我々はバルツァー帝国に向かいます。攻めに転じるつもりです」


 今日、スタッキーニ国王がセントラルシティにやって来た。

 魔力鉄道を始めとした装備提供のお礼として国王自ら戦況の報告に来た、という話だったんだけど……なぜかこういう言葉が出ていた。


(おそらく、今後の展望を話し合うのが本題なのかも知れません)


(そうなの、アン?)


(はい。難しい話になりそうな場合、比較的簡単な話題や目的を口実に席を設けるのは、政治の世界ではよくあることですから)


 ということは、無理難題を押しつけられる可能性もあるって事?

 僕達の疑念を知ってか知らずか、スタッキーニ国王の話は止まらない。


「攻めるからには攻められる可能性もある、そういうリスクを背負うということをバルツァー帝国にも知って貰わなくては。しかし、我々も完全に全面衝突するのは避けたい。双方タダでは済まないし、自軍の損害を少なくするよう努めるのは兵法の常識です。

 そこで、メイデン共和国とスエノブ皇国に協力を要請しました。警戒態勢から少しちょっかいを出す程度に行動してくれないかと」


「敵戦力を分散させるんですね。それで、返事はどうなったんですか?」


「了承をいただけました。両国とも、よほどバルツァー帝国の事が腹に据えかねていたのか、自国の安全保障の観点からバルツァー帝国に釘を刺すべきと考えたのか……。

 とまぁそのようなご協力をいただけたので、ここは一つグラニット王国にも一層の協力をいただけないかと……」


「メイデン共和国やスエノブ皇国は東側ですから、僕達に西側を攻めて欲しいんですか?」


「さすが、お察しが良い。ですが、真西というわけではありません。狙っていただきたいのは――トレビシック王国です」

 その言葉が出た瞬間、アンの表情が険しくなった。


「トレビシック王国はバルツァー帝国の侵攻を受け、傀儡政権が樹立したとの報告が入っています。ですが、その統治は始まったばかりでまだ不安定な状態。プレッシャーをかけるだけにしろ本気で取り返しに行くにしろ、建国したてのグラニット王国の攻撃目標としては絶好であると判断しています」


「……アンの事情につけ込んで発言しているわけではないんですね?」


「そのようなつもりは毛頭ありません。ただ、考慮しているとすれば兵士の方々でしょうか。グラニット王国の人々はトレビシック王国から亡命してきた人々ですので、トレビシック王国に乗り込むとなれば士気は高くなるかと」


 スタッキーニ国王の意図は大体わかった。ただ、僕一人で決められる案件でもないことは確かだった。

 かなり気が引けるけど、僕はこう言うしかなかった。


「どうする、アン?」


「私は――」




 後日、僕達はウエストベイから海上に出て北上、トレビシック王国を目指していた。


「本当に良かったの、アン?」


「はい。この前スタッキーニ国王が言っていたことに矛盾することはありませんし、それにトレビシック王国の情報が入りづらくなっていますから」


 実は最近、トレビシック王国の亡命者の数が落ち着いてきたらしく、グラニット王国への移住希望者が減りつつあった。

 それは同時に、トレビシック王国の最新情報が入ってこなくなりつつあることを意味していた。


 だから、アンはトレビシック王国の現状が知りたくなったんじゃないかな?

 しかもスタッキーニ王国を始め、バルツァー帝国へ複数の国が多方面から攻めようとしている。

 トレビシック王国に乗り込み、現状を知るには絶好の機会なんだ。


「それで、どうやって乗り込むんだー? むずかしい戦いなんだろー?」


「そこは安心してください、エディさん。これからトレビシック王国西部の港街、『カニンガム』を目指し、そこから上陸するつもりです」


 アンが言うには、カニンガムは大陸がある方角とは反対方向にあるため外敵の標的になりにくく、開かれた商用港として運用されていたらしい。

 逆に言えば守りが薄く、攻めやすい土地ということだった。


「外国の人の出入りが激しいため、住民の管理が難しいようです。なのでゲリラとして潜伏している人達も多いそうです」


「そこに僕達が攻め込めば、もしかしたら一緒に蜂起してくれるかもしれない、と。勝算はあるんだね」


「よーし、大暴れしてやるのだー!!」


 そして数日後、カニンガムの港が見えた。


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