第53駅 特急! 未調査領域の探索 その3 ~未調査領域4カ所~

~小国群~


 再びバルツァー帝国が小国群へ向けて南進してきた。

 今度は侵攻計画を練り直し、救援に来るはずのスタッキーニ王国軍すら振り回してやろうと息巻いていた。

 具体的には、軍を分散させ時間差で攻撃を開始し、連絡系統や指揮系統を混乱させる腹積もりであった。


 だが、その目論見ははかなくも崩れ去ることとなる。


「なんだコイツら!? 取り乱した様子がないぞ!」


「マズい、このままではやられる!!」


「もうダメだ、逃げるぞー!!」


 救援に来たスタッキーニ王国軍は一切混乱した様子を見せることなく、逆に兵力を分散し戦力が低下したバルツァー帝国軍の部隊を各個撃破していったのだ。

 なぜそのような事が可能になったかというと――。


「入電。二時方向に敵影発見と報告」


「一時方向へ進軍した部隊の内、後方にいる部隊を向かわせろ」


「十時方向にも敵部隊発見!」


「それなら――」


 実は、少し前からスタッキーニ王国は、リットリナが開発した通信機と戦闘指令車を借り受けていた。

 これにより、人や伝書鳩を介さずリアルタイムで戦況を把握。そのまま分析し、司令官が指示を出す。

 一連の動きがシームレスになったことでバルツァー帝国軍の攪乱作戦がほとんど通じず、逆に各個撃破出来たのだった。


 今回の侵攻も、バルツァー帝国は失敗してしまった。




~トシノリside~


 今日からまた、特急で未調査領域の探索に行く。

 ちなみに、今回で調査を一旦終了する予定。なぜなら、南部大陸の聖樹の領域をあらかた訪れたことになるから。

 後は、サバンナ以南の領域を残すのみとなる。


 最初に訪れたのは、セントラルシティから北に進み二つ目の領域、ターキーウッズの西。

 ここはまだ訪れたことがない聖樹の領域なんだ。


「丘陵地帯の領域なんですね」


「そうだね。それと特徴的なのは……」


 四足歩行の動物がわんさかいる。


「あいつらはなー、やせてるヤツとモコモコしてるヤツの二種類がいるのだー!」


「そうみたいだね、エディ。僕がいた世界では、やせている方は『リャマ』、モコモコしている方は『アルパカ』って呼ばれていたけど」


 どっちも同じリャマ科の動物だけどね。


「どのような動物なのですか?」


「高地に住んでいる動物だよ。この領域、丘陵地帯にしては高めだしね。アンに興味がある話だと、リャマは荷物の運搬、アルパカは毛が取れるね」


「では、馬と羊の代わりになるのですね」


「ある程度はね。ちなみにアルパカの毛は羊よりも細いから、繊細で高級品とされているんだ」


 それを聞いた瞬間、アンは何か考えていた。きっと、他国へのアルパカの毛の売り出し方を考えているんだろう。


 ちなみに、この領域は『アルパカヒル』と名付けた。『アルパカの丘』という意味。

 なお『リャマヒル』にしなかったのは、単純に語感良かった方を採用しただけだからね。



 次にやって来たのは、アルパカヒルの西の領域。海岸沿いの領域になる。


「海岸としては普通ですね」


「もしかしたら、海の方に特徴があるのかも。先行調査でも海の生物までは詳しく調べていないし……。エディ、何か知ってる?」


「う~ん……。海のいきものはあんまり知らないのだ……」


 であるなら、実際に調べた方がいい。

 僕達は連れてきた冒険者達にも協力して貰い、釣りを敢行した。


 しばらくして釣果をを確認した。一番連れていたのは――。


「フィルさんが一番連れているようですね」


「ありがとうございます、王女様。フィールドワークで馴れていましたので……」


 学者と兼業で冒険者をやっているフィルさんだった。


「ですが、見慣れない魚介類です。少なくとも北部大陸の海で捕れたという報告はありませんでした」


「いや、僕は本で見覚えがある。この魚はメルルーサ、このエビはブラックタイガー……」


 総じて、前の世界で中南米原産とされる魚介類だった。

 後の本格的な漁業調査でわかったけど、タコも捕れることが判明した。


「もしかしたら、漁場として活用できる領域かも知れない。この領域は『フィッシングポート』と名付けよう」


 『漁港』っていう意味だね。




 次は、東に転進。ターキーウッズまで戻り、さらに東に行きバッファローポンドへ。

 そこから東に進むと、巨大な河口がある領域に辿り着いた。


「薄々感じていたけど、途中で見た河って、ここに繋がっていたんだね」


「何本も河が合流していましたね。色々な水源からこの河口に注いでいるのでしょうか」


「実は、バッファローポンドの池もこの河口の水源の一つです。あれは一見すると池ですが、地下でこの河口の上流と繋がっています」


 トムの説明に驚いてしまった。まさか、あの巨大な池にそんな秘密があるとは……。


「エディ、あんまり魚についてくわしくないけど、金色にキラキラした魚を見た覚えがあるのだー!」


「そうなんですか!? トシノリさん、エディさん、すぐ調査しましょう!」


 『金色の魚』にそそられたのか、アンが妙に興奮して釣りに向かってしまった。

 まぁ、釣りをしてみるのは前情報を見て想定していたことだし、やってみることにした。


 それに、金色の魚、もしかしたら僕が知っている魚かも知れないんだよね……。


 しばらく釣りをしてみると、この河口の魚の特徴がある程度掴めてきた。


「この河口、熱帯魚が生息しているみたいだね」


「熱帯魚? それは何でしょうか?」


「その名の通り、熱帯に住む魚だよ。キレイで見応えがある魚が多いから、観賞魚として一般的だったね。でも、原産地では食用になる種もあるね」


 釣果を確認してみると、グッピー、ネオンテトラ、エンゼルフィッシュといった観賞魚、アロワナのような大型魚、ティラピアといった食用魚が確認できた。


「トシノリー! 小さいけど強そうな魚が釣れたのだー!!」


「ピラニアだね。見た目通り肉食の魚で、興奮すると水しぶきが上がるくらい群れで暴れ回る。けど基本的に臆病な魚で、人間や大型動物は襲わないんだ。食用にも観賞用にもなるし、歯は散髪用の刃物になるくらい鋭い」


「陛下。北部大陸では見たことがない巨大な魚が釣れましたが」


「すごいね、フィルさん! ピラルクだよ! 僕のいた世界では世界最大級の淡水魚で、巨大な水槽で飼う人もいたんだ。原産地では食用にもなっているらしいけど、特別な日のお祝い用って扱いらしいよ」


 そしてついに、金色の魚が現れた。


「トシノリさん! 釣れましたよ、金色の魚!」


「やったじゃん、アン! それにその魚、僕の予想通りドラドだよ!」


 ドラド。全身黄金という派手な見た目で有名な魚。原産地ではドラドを使った料理もあるらしい。

 ……それにしても、ドラドはゲームフィッシュとしてターゲットになるくらい引きが強い魚なのに、よくアン一人で釣り上げられたよね……。

 もしかして、アンって意外と力が強いのかな?


 一通り調査が終わると、僕はこの領域を『トロピカルリバーマウス』と名付けた。

 熱帯魚『トロピカルフィッシュ』と河口『リバーマウス』を掛け合わせた名前。『フィッシュ』を省いたのは、まぁ語感をよくしたから、ね。




 最後にやって来たのは、ターキーウッズまで戻ってクロスタウンまで北上。そこから西に向かい、コチニールウィルダネスを通過。南部大陸の北西端の領域に到達した。


「ここって……」


「似てますね……」


「左右反対だけどなー」


 そう、似ている……というか左右対称なんだ。ここから見て真東の端にあるカームベイと。

 港として良好な地形で、しかもトム曰く、


「こちらも、魔物が比較的少ない、安全に外海へ航行できるルートがあります」


 とのこと。

 つまり、今までは東側からしか海路が繋がっていなかったが、これからは西側からも繋がることになる。


「この領域は『ウエストベイ』という名前にしよう」


 カームベイの真西にあるから、こう名付けた。


 というわけで、これをもってグラニット王国のサバンナ以北の領域は全て調査完了した。後はブルネルさんを中心に、移住・開発計画を立ててくれることだろう。


 ただこのウエストベイ、ある事情ですぐ使うことになるとは思ってもみなかったけど……。


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