第49駅 農業用魔道具と屋敷の完成 ~フルーツタウン・セントラルシティ~

 パームビーチから帰る途中、フルーツタウンで途中下車した。

 なんでもリットリナさんがフルーツタウンにいるらしく、僕達に見て貰いたい物があるんだとか。


 フルーツタウンの駅を降り、指定された場所に向かうと――。


「おーい! こっちこっちー!!」


「リットリナさん、そばにある物は一体……?」


 リットリナさんは、様々なサイズや形の機械に囲まれていた。


「農作業に使う魔道具さ。フルーツタウンは果物の栽培を行っている場所だから、ちょっとカスタマイズが必要でね。実際に農家の人に意見を聞いて、実地で改良している。あとメンテナンスもついでにやっている所だね」


「なんかその言い方だと、元々の仕様の魔道具はすでに使われているように聞こえるんだけど……」


「その通り。すでにオリジナル仕様のものはグレインハイランドの穀物栽培で実用化されているよ」


 そういえば、グレインハイランドを通ったときにちょっとだけ見たような……。

 前の世界の耕耘機とかに似ていて、つい気にしなかったけど、よく考えてみればこの世界に農業用の機械なんて生まれていなかったような……。


「これらの魔道具も、リットリナさんが魔道鉄道から発想を得たのですか?」


「一部だけだけどね、王女様。実は、設計のほとんどはスタッキーニ王国にいる時に完成していたのさ」


「そうなのですか!? ですが、スタッキーニ王国ではそのような魔道具、お見かけしたことがありませんが……」


 これら農業用魔道具は、農作業の手間を大幅に省くことが可能なはず。だからスタッキーニ王国が買い上げたり、何らかの便宜を図っても良さそうだと思うんだけど……。


「それね。スタッキーニ王国の事情が絡んでくるのさ。ほら、スタッキーニ王国って常に人が流れてくる国じゃん? だから、常に人が余り気味なわけ。

 そんな国に、仕事の人手を減らす魔道具なんて出してごらんよ。たちまち失業者であふれかえってしまう」


 あー、なるほど。それなら、見向きもされないどころか排斥されてもおかしくない。


「ま、それに気付いたのは後でマリーノに指摘されたからなんだけどね。でも、グラニット王国なら必要とされる。まだまだ人が足りないからね」


 確かに。南部大陸を丸ごと治めているグラニット王国は、移民を受け入れてはいるけどまだまだ面積に対して人が足りない。むしろこれから移住可能な範囲がどんどん広がっていくから、さらに人が足りなくなることは明白。

 そう考えると、農作業用魔道具は必要かも知れない。


「むしろ、無いと状況が悪くなるかも。いくら聖樹の領域の効果で作物が早く育つとは言え、手作業だけだと食料をまかなえなくなるかも……」


「そっか、そういう考えもあるのか。なら、国王陛下の悩みのタネを減らすためにも、がんばって魔道具開発に勤しむとしようか」




 セントラルシティに帰ると、駅の正面に巨大な壁と門、その中にそびえ立つヴィクトリア様式の建物が。

 僕達が住む予定の宮殿だった。


「お帰りなさい、皆さん。宮殿が完成したのでご案内をします」


「あ、もう完成したんだ」


 ブルーノさんが駅まで迎えに来てくれたと思ったら、もう宮殿が完成していたらしい。

 外側がほとんど出来ていたのは見ればわかるから知っていたけど、内部まではわからないからね。


「では、参りましょう」


 この宮殿は五階建てになっていて、ヴィクトリア様式の特徴である尖塔部分は六階まである。内部デザインはアール・ヌーヴォーになっていて、僕のスキルで出した車両や駅に使われているデザインをかなり反映している。

 基本的に僕達の住居と政務を行う空間が宮殿内にまとめられていて、一階から三階は政務を行う公共空間、四階以上が僕達王族の住居となっている。


 その分別はトイレにも現れていて、三階以下はいくつも便器や個室が収められた公共施設っぽい作りになっていて、四階以上は部屋ごとに一台取り付けている構造になっている。


「照明や水回りなどはリットリナ謹製の魔道具になっています。特にトイレの温水洗浄機能、冷蔵庫、空調設備は自信作と言っていました」


「そうなんだ。それと、なんかそれ以上にすごそうな魔道具があるんだけど……」


 洗濯物を洗う洗濯室にはドラム式洗濯機がたくさん置いてあったし、シャワーとかもあった。

 駅の仮眠室にあった物を参考にしたんだな。


 いろいろ見て回り、最後に五階中心部にある僕達の寝室に入った。


「すごいな、これは……」


「この国を象徴するようなデザインですね」


「みはらしもサイコーなのだー!!」


 広さはもとより、設置された家具のデザインがこれまた秀逸だった。

 家具の足は車輪をイメージしているし、天蓋付ベッドの柱は煙突、クローゼットには線路をモチーフにした彫刻が彫られている。それに、壁に飾られている絵はどれも鉄道や駅を描いていた。

 アンの言ったとおり、鉄道で成り立った国らしく、鉄道のデザインをこれでもかと詰め込んでいた。


「庭の方はもう少しかかるそうです。なので、今ご覧になっている庭はまだ作りかけですね」


「これが作りかけ!?」


 なんかもう絵になりそうなくらいキレイになっているけど……。

 でも、色々新しい花や木を見つけてきたし、まだまだ未完成なんだろうね。


「ところで、ベッドが一台しか無いみたいだけど……」


「三人でも寝られるよう、キングサイズのベッドにしました。まだお体が大きくなりますので、それも織り込み済みです。いずれご結婚なさるとお聞きしましたので」


「……そう」


 そのことは僕もわかっていたけど、面と向かって言われるとちょっと恥ずかしい……。



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