第46駅 南方侵攻の舞台裏とグラニット王国帰還 ~ノイロイター及びセントラルシティ~

~キャロリン・バルツァーside~


 話はタロコでの会談の数週間前に遡る。


「最近、スタッキーニ王国から新種の香辛料が輸入されているそうね」


 豪華絢爛な執務室で、少女が目の前の人物に声をかけた。

 この十二歳ほどの少女こそ、この部屋の主にしてバルツァー帝国の皇帝、キャロリン・バルツァーその人であった。


 なぜ十二歳の少女が大国の皇帝を務めているかというと、彼女の母親の存在がある。

 彼女の母親は貧しい農村の出身だったが、生まれ持った才能と血反吐を吐くような努力、そしてありとあらゆる手段を用いて帝室の侍女に採用された。

 そこからさらに努力や策略を重ね、なんと当時の皇帝の妾となった。


 皇帝の娘、つまりキャロリンを出産すると、今度はキャロリンの地位向上に全神経を注ぎ始めた。

 あらゆる策謀を使い、何人もいる次期皇帝候補を蹴落とし続け、なんとキャロリンを次期皇帝の地位に付けることに成功した。


 ところが、数年前に前皇帝が死去し、キャロリンが皇帝として即位して間もなく、キャロリンの母親は流行病で亡くなってしまう。

 当然、年端もいかない皇帝の後見人を誰にするかで揉め、最悪帝国が分裂してしまうことも予想された。


 だが、その予想を良い意味で裏切った。

 キャロリンは母親の教育が良かったのか、帝国の権力を完全掌握。リーダーシップを取り始め、見事に帝国をまとめ上げた。

 そして前皇帝が縮小していた拡大路線を復活させ、現在に至っている。


「はい。そのようです。商人達の話では南部大陸に新しく興った国から輸入された物だとか……」


「まぁ、話半分に聞きましょう。さすがに魔境とも言われる南部大陸に国を作ったなんて、どうしても信じられないし……」


 バルツァー帝国は、独自の情報網を持っている。そうでなければ、今まで様々な国を征服するなんて不可能だ。

 もっとも、スタッキーニ王国だけは情報収集に難儀しているらしい。あそこは古くから人の出入りが激しく、それ故に諜報員が入り放題だった。

 だが、スパイ天国だった環境で鍛え上げられたためか、現在はかなり正確に他国の諜報員を見分け、高度な防諜術を保有しているからだ。


 そういうわけでスタッキーニ王国の情報は商人を利用して収拾していること、さらに南部大陸に対するイメージから、南部大陸の国の事はどうしても信じ難かったのだ。


「いずれにしろ、スタッキーニ王国が新種の香辛料で莫大な利益を得ていることは間違いないわ。それに、この間占領したスタッキーニ王国から社会保障費を得られたけど、占領直後の収入はもう期待できないし……」


 実は、キャロリンは国民を手厚く保護しようと様々な施策を打ち出しているのだが、どうがんばっても税収を遙かに上回ってしまっている。それに、キャロリンには増税には忌避感があった。

 そこで、他国を侵略して財産を奪い取り、社会保障費に充てようとした。これが、キャロリンが拡大路線を掲げた理由だった。


 占領した国は、財産を奪えるだけ奪って帰国し、また再興して財産が増えた頃をもう一度狙う方法と、傀儡政権を作って上納金を納めさせる方法のどちらかが取られている。

 スタッキーニ王国は後者だ。占領した当初は色々と溜め込んでいた財産を奪ったためかなり儲かったが、これからは傀儡政権からの上納金のみになる。当然、バルツァー帝国に入るお金は少なくなる。


 だから、新たなターゲットを定める必要があった。


「そういうわけだから、南方へ軍を出します。すぐに軍部へ伝えなさい」


「承知致しました」


 これが、バルツァー帝国の南方進出の舞台裏である。




~トシノリside~


「――っていうのが、タロコでの会談の中身かな」


 セントラルシティへ戻ってきた僕達は、仮設宮殿で会談内容をブルネルさんに話していた。


「なるほど。大体わかりました。我々が提供できる部分について話がまとまったのですね」


「そうだね。僕達がいない間、そっちはどうだったの?」


「鉄道を教わる留学生の受け入れ準備は全て整いました。そして魔力鉄道の量産も順調。もちろん、他国へ提供する分も確保してあります」


 タロコ会談の前に、僕達は自分たちにできる事をあらかじめ考えておき、僕達がメイデン共和国へ言っている間に準備を整えておくようブルネルさんに頼んでおいた。

 その準備が全て終わっていて、僕達も会談で自分たちの役割をほぼ事前の考え通りのものを務めることになった。

 だから、後は実行に移すだけという状態になっている。


「それとですね、量産魔道鉄道が出来たことで陛下のお力が無くとも未踏領域の調査が出来るようになりました。まぁ、駅を作っていただかなくてはなりませんし、南部大陸の動植物は陛下がよくご存じな場合が多いので、冒険者のみに派遣は事前調査という位置づけになってしまいますが……」


「まぁ、そうだろうね」


「実は、すでに冒険者に調査させた領域があるのです。なので国王陛下にはその領域の最終確認と駅の設置をお願いしたいのです。調査資料と採取したサンプルをお渡ししますから」


「わかったよ。すぐにでも――あ、ちょっと待って」


 すぐに出発の準備に取りかかろうとしたその時、僕はあることに気が付いた。


「レベルが上がって新しい車両が使えるようになってる。確認したいから少し出発を遅らせても良いかな?」


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