第45駅 タロコ会談 ~タロコ~

 会談が始まったのは、僕達がタロコに到着してから三日後の事だった。

 メイデン共和国の中枢である、中華風宮殿のような建物『タロコ宮殿』の大会議室で四国会談が始まった。


 最初に会談開催を宣言したのは、メイデン共和国元首のショウザン代表。四十代の女性だった。


「皆様、遠路はるばる当国へお越しいただき、ありがとうございます。本会談は、スタッキーニ王国国王、アルベルト・スタッキーニ陛下より要請されました。ではスタッキーニ陛下、よろしくお願いします」


「ありがとうございます、ショウザン代表。では改めまして、スタッキーニ王国で国王を務めています、アルベルト・スタッキーニです。お集まりいただいたのは、事前にお伝えしたとおり、バルツァー帝国の動きに関してです。

 最近、我がスタッキーニ王国とバルツァー帝国の間にある緩衝地域へ、バルツァー帝国が侵攻しようとする動きを見せております。そのことについて協議したいのです」


「ちょっとよろしいかな?」


 手を挙げて発言の許可を求めたのは、大柄で豪華な和服を着た、五十代くらいの男性。

 この人物は、スエノブ皇国で政治を取り仕切っている最高権力者、堤 貞次朗将軍らしい。


「儂らもバルツァー帝国の動きは気になっておってな、独自に情報網を展開しておるのよ。それによると、どうやらバルツァー帝国は陸の戦いに重きを置いており、海の戦いはあまり重視しておらんらしい。だから、スエノブ皇国とメイデン共和国の海上戦力を動かせば、バルツァー帝国に対し圧力をかけられるだろう。

 ……まぁ、この会談に参加している者の中には、儂の意見をよく思わん者もおるだろうが……」


 堤将軍が視線を動かした。その先にいたのは、僕と一緒に会談に参加しているアンだった。


「いえ、お心遣いに感謝します、堤将軍。祖国トレビシック王国は島国で、バルツァー帝国は船で侵攻してきました。しかし、トレビシック王国と大陸とはあまり離れておらず、数の力で押されてしまえば為す術もありませんから。むしろ、トレビシック王国海軍の力は国民の海上脱出に本領を発揮したほどなので……」


「そうか。強いな、王女は」


 その後、様々な意見が出たけど、とりあえずスエノブ皇国とメイデン共和国で海軍を使った圧迫作戦にまとまった。

 問題は、スタッキーニ王国、そして僕達グラニット王国の役割と、最も懸念すべき陸上戦力に対してどうするかだけど……。


「それについて、僕から提案があります」


「提案ですか。ぜひ、お聞かせ下さい」


 ショウザン代表に促され、僕はこう発言した。


「すでに我が国では、量産型の魔力鉄道の生産を開始しています。この生産された魔力鉄道を、対バルツァー帝国用に提供するつもりです」


 これは、今回の会談が舞い込んだ時点でアンとブルネルさんに相談の上、決めたことだった。

 現在のグラニット王国の住民は、大半が侵略されたトレビシック王国の人達。だから、バルツァー帝国への恐ろしさは身にしみている。

 そういった事情もあって、どんな手段を使ってでもバルツァー帝国の侵略を阻止するという意思があった。


 それに、バルツァー帝国という大国を相手にするには、それなりに国力が必要。対バルツァー帝国を示している国にバルツァー帝国と対峙できるだけの国力を付けて貰うためにも、起爆剤として魔力鉄道の提供は必要不可欠、という結論に至った。


「魔力鉄道の真価は、陸上における圧倒的な輸送力です。馬車などと比べても搭載容量、速度共に比較になり無いほど強力です」


「それはつまり、大勢の兵や大量の武具、兵糧を迅速に戦場まで運べる、ということかな?」


「戦においてはその通りです、堤将軍」


 さすがはスエノブ皇国の武家の棟梁だけある。スエノブ皇国は前の世界の江戸時代に似た統治システムらしく、将軍家は武士の身分の最上位という事になっているらしい。


「平時においては、その輸送力で人や物を動かし、経済に大きく寄与します。ですが、レイライン以外の場所を走ることは出来ないという欠点がありますが……」


「それについては大した問題では無いでしょう。この世界、基本的にレイラインの上に街や村、街道が敷かれていますから」


 スタッキーニ国王の言葉を要約すれば、レイラインを辿ればほぼ全ての人里を網羅できるから、あまり心配は無い、という事だった。

 つまり、重要施設もレイライン上にあるわけで、戦いが起きるとすればまず間違いなくレイライン近辺になるはず、ということでもあった。


「とりあえず喫緊に必要となるのはスタッキーニ王国ですから、まずはそちらを優先的に。もちろん魔力鉄道の動かし方や運用方法を知って貰う必要があるので、しばらく我が国で教育を受けていただく必要があるのですが――これは現在、急いで受け入れ体勢を整えているところです。

 なお教育についてですが、スタッキーニ王国だけでなくメイデン共和国、スエノブ皇国の二カ国からも人員を受け入れるつもりです。いずれは魔力鉄道を導入して貰いたいと思っていますので」


 僕の発言を終えたところで、三カ国の首脳達は連れてきた側近達としばらく小声で相談していた。

 そして相談が終わると、異口同音にこう言った。


『異議無し』


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