第44駅 メイデン共和国へ ~カームベイ・プユマ間~

 シュガーフィールドの探索から戻ってきて少ししたある日。仮設宮殿に住んでいる僕達の所へブルネルさんがやって来た。


「陛下。スタッキーニ王国のウリッセから戻ってきた列車が、このような物を運んできました」


 ブルネルさんが渡したのは、手紙だった。しかもスタッキーニ国王からの親書。

 この手紙を見たアンが一言。


「封筒の封蝋は、間違いなくスタッキーニ王家の物ですね。偽物の可能性はなさそうです」


「わかった。とにかく、内容を読んでみよう」


 封筒から手紙を取り出すと、衝撃的な事が書かれていた。

 なんと、バルツァー帝国が南――つまりスタッキーニ王国方面へ向けて軍を動かそうとしている兆しが確認されたらしい。

 この動きに備え、スタッキーニ王国、スエノブ皇国、メイデン共和国、そしてグラニット王国の四カ国で会談を行うつもりらしい。

 そのため、メイデン共和国の首都・タロコに来て欲しいらしい。


「……なんでメイデン共和国に?」


「島国だからですね。警備やスパイ対策がしやすいんです。スエノブ皇国も島国ですけど、そこそこ大きいので大陸の都市とあまり警備のしやすさに変わりは無いんです」


 アンから解説が入った。やっぱりこういった事に強いね、アンは。


 というわけで、僕達はすぐに準備を整え、メイデン共和国へ向かった。




「あの、最初はびっくりしましたけど、もう大分馴れちゃいましたね」


「話には聞いていたけどね。けど、こう何日も見ていると馴れると言うより……」


「ヒマなのだー」


 現在、僕達はメイデン共和国に向かい海上を走行している。

 グラニット号はレイラインさえ繋がっていれば水上でも走れるため、カームベイから海上に出て、メイデン共和国の南部を目指すルートを取ったんだ。


 最初は海の上を走れることに驚き、みんなずっと窓に張り付いていたんだけど、何日かすると飽きてきた。

 陸上であれば地域によって植生や魔物が違っていたりして面白いんだけど、海の事は余りわからない。

 というのも、船であれば風を感じたりできるから微妙な違いがわかるんだろうけど、列車は船ほど風を感じる構造では無いので、よくわからない。

 海の中を覗ければ少しは違ったんだろうけど、そんな物はない。


 というわけで、海上生活に飽き始めてから、僕は新しい事を始めた。

 グラニット王国全土に移民を開始した影響で、色々な物品を安定して生産出来るようになった。スパイスもその一つ。

 そういうわけで、手に入れた潤沢なスパイスを使って、カレーの調合をやっていた。

 色々試してみて、その日の夕飯に僕が作ったカレーが出る、というシステムになっている。


「今日はどんなカレーにするのだー?」


「ドライカレーにするつもり。挽肉を使った、水分が少ないカレーだよ」


 ドライカレーっていうとチャーハンスタイルと水分が少ないキーマカレーっぽい物の二種類があるんだけど、今回作るのは後者の方。


「では、私達もお手伝いしますね。ちょっとでも何かやっていないと、気が紛れそうにないので……」


 この日の夕食のドライカレーは、少なくとも食べられるものであったとだけ言っておく。

 ただ、スパイスの調合に課題があるのか、今ひとつだった。もうちょっと研究が必要そう。




『大変長らくお待たせしました。間もなく、メイデン共和国・プユマに到着致します』


 カームベイを出発してから五日ほど。トムの放送を聞いて窓から進行方向に目を向けると、大きな島が見えてきた。

 やがてその島が近づいてくると、大きな港湾都市ということがわかってきた。


 港の桟橋に隣接するように停車し、僕達は一端列車から降りた。

 そこには、見知った人物が出迎えてくれていた。


「お久しぶりです、グラニット国王陛下。メイデン共和国へようこそ」


「お元気そうで何よりです、トウさん」


 出迎えてくれたのは、メイデン共和国外交部長官のトウさんだった。


「長旅お疲れ様です。ここから首都プユマまで、私が案内を仰せつかりました。まずは長旅の疲れを癒やし、明朝出発というプランでいかがでしょうか?」


「そうですね。僕達も初めて訪れた国なので、少し見回ってみたいですし」


 というわけで、この日はプユマで一泊することになった。


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