第42駅 セントラルシティ開発計画 ~セントラルシティ~
「――というような感じで宮殿を建てていこうと思うのですが」
現在、僕達はブルーノさんから宮殿の設計について説明を受けている。
ブルーノさんはイメージスケッチと間取り図を見せながら、僕達にプレゼンしていた。
「もしかして、この宮殿は駅から着想を得たのですか?」
「さすがです、アン王女。駅が大きくなったと聞かされて見に行ってみたら、背筋に衝撃が走りましてね。これからの建築はこれだ! と直感してしまいました。それに、魔力鉄道で興った国ですから、シンボルとしても最適かと」
やっぱり、この宮殿は駅から着想を得た、ヴィクトリア様式だった。アンはそれに気が付いたみたい。
「照明や水回り関係の他、いくつかの魔道具系設備はリットリナが作成すると言っています。魔力鉄道の設備から得られた知見で魔道具がかなり高機能化していますから、期待して良いと思いますよ」
宮殿の設計が決まった次の日、今度は庭師のブラックさんという人が庭の設計について説明しにやって来た。
「お初にお目にかかります。庭師のブラックと申します」
「ブラックと言うと――もしかして、あのポッシビリティ・ブラックですか!?」
「はい。世間からはそうあだ名されていると知っていましたが、まさか王女殿下のお耳にも入っているとは。恐悦至極にございます」
どうやら、アンは知っている人らしいけど……。
「トレビシック王国では有名な庭師の方です、トシノリさん。お仕事の依頼を受けるときに、『あなたの屋敷には可能性(ポッシビリティ)がある』と口癖のようにセールストークを行う事から付いたあだ名らしいです。
あと、風景式庭園の考案者として有名です」
「風景式庭園?」
「自然界を模した、風景画のような庭の事です。それまでトレビシック王国やバルツァー帝国は噴水を作る、幾何学的に花壇を配置する、生け垣を迷路にする、木はトピアリーとして刈り込むといった、とにかく人工的に成形することが至上だと見なされていたんです。
ところが、ブラックさんが風景式庭園を発表したことでトレビシック王国周辺に激震が走ったんです。『こんな美しい庭、見たことがない!』って。
実は、トレビシック王家も所持しているいくつかの城と屋敷の庭を風景式庭園に変えようという話があったのですが、お仕事を依頼する前にバルツァー帝国の侵攻が始まってしまって……」
「それは初耳です、王女殿下。しかし王家の方々まで私の事を評価していただいていたとは、至極光栄でございます。それでは、失ってしまった仕事の分まで、張り切らなければなりませんね」
するとブラックさんは、カバンから紙の束を取り出した。どうやら庭の造園に関する資料らしい。
「これは……」
「ジャングルっぽいのだー!」
エディの言うとおり、ジャングルの中の湖のようなスケッチが描かれていた。
「いかがでしょう。実は南部大陸の光景を車窓から初めて見てインスピレーションを受けまして、この国にふさわしい庭を考えておりました。
そして先日、ブルーノ氏から宮殿のイメージスケッチと設計図を見せていただき、この宮殿の可能性(ポッシビリティ)を最大限発揮するよう庭園を設計致しました」
「なるほど。でも、懸念点が一つ」
確かにアンの説明通り、ブラックさんの庭師としての非凡な才能はよくわかった。設計図やイメージスケッチから十分すぎるほど感じられる。
だけどやっぱり、北部大陸から来たばかりの人なんだ。南部大陸の植生について知らないことが多い。
「このイメージスケッチを見ると、バナナを多く使っているでしょ? 実は、バナナって一年で枯れるんだよね」
「い、一年で!?」
驚きの声を上げたのはアンだった。ブラックさんは目を見開いて静かに驚いている。エディは……そんなに驚いていない。すぐ枯れてしまうことが経験上わかっているんだと思う。
「実は、バナナって木みたいに見えるけど、実は草なんだ。だから年に一回しか収穫できないし、一年で枯れる。年に一回は新しく植え替えないといけない」
「庭の手入れに手間がかかる、というわけですね。ですがご安心を。私のジョブ能力を使えば、そこまで手間ではありませんから。まぁ、庭園の保守契約を結んでいただければの話ですが……」
ここで、僕はアンを見た。こういうお金が絡む場合、アンの判断がかなり適切だから。
「必要経費だと思います。宮殿には他国からのお客様もいらっしゃるので、威厳とその国の特色が必要です。建物にも、庭にも。バナナはグラニット王国の特産品で、非常にわかりやすい特徴的な形をしていますから、保守契約を結んででも庭に植えるべきでしょう」
「わかった。じゃあ、保守契約を結ぼう」
「ありがとうございます」
こうして、庭の設計と保守契約が完了した。
後は、実際に建てるだけになった。
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