第41駅 国王の宮殿 ~セントラルシティ及びクロスタウン~

「宮殿を建てる?」


「はい。今のままでは、色々と不都合ですので」


 セントラルシティ開発を指導させてから、僕達は本拠地をセントラルシティに移した。

 開発自体はクロスタウンでの経験があるから大丈夫だけど、ブルネルさんはそれに加えてある提案をしてきた。

 それが、宮殿を建てること。


「現在、陛下、アン様、エディ様のお三方は、主に駅の宿直室を住まいとして使っておられますが――正直、これからの事を考えますと不便な点が多すぎます」


「まあ、確かに」


 魔道鉄道の量産化が始まったことで、本格的な鉄道開業も時間の問題となっている。

 そうなると、宿直室は本来の使用者である鉄道員の人達が使うことになる。間違っても、僕達が独占していい物ではない。

 それに来客対応とかで困ることがあるので、やはり宮殿は必須だと思う。


 ……まあ、藤田さんとトウさんの来訪は運良くなんとかなったということで。


「幸い、宮殿の設計についてはブルーノさんがやってくれると言うことなので、お任せしようかと」


「うん。それで良いんじゃ無いかな」


 魔道具師のリットリナさんの幼馴染で、一緒にグラニット王国へ移住した建築士のブルーノさん。

 開拓では主に建築関連で実力を発揮しており、その方面では非常に頼りになる人という評価を得ている。


「建物の設計は良いとして、庭は?」


 宮殿は国の顔として見られる事もあるので、なるべく庭も綺麗に整えておきたいところ。

 ただ、今のグラニット王国に庭師っていたかな……?


「ご安心を。最近、ピッタリの人材が移住してきましたから」




~ブラックside~


 遡ること数日前、トシノリ達がウリッセへ交易と難民・移民を迎えに行ったときのこと。

 この時、ウリッセ駅で一人の男がグラニット号に乗り込んでいた。


 男の名は『ブラック』。トレビシック王国で庭師をしていた人物である。


「グラニット王国……。南部大陸に興った国、か……」


 実は彼、トレビシック王国では非常に名の知れた庭師だった。

 その技術はさることながら、特筆すべきは『風景式庭園』を開発したこと。

 風景式庭園とは、自然界の光景を再現するように設計された庭のことで、ブラックは自ら発明したこの庭園様式を武器に、多数の富豪や貴族らの顧客を獲得していた。


 彼は、セールストークとして『あなたの屋敷には、可能性(ポッシビリティ)がある』と口癖のように言っていたため、『ポッシビリティ』というあだ名……というか二つ名で呼ばれていた。


 そんな庭師として大成功を収めたブラックだったが、バルツァー帝国のトレビシック王国侵攻により、妻子と共に国外脱出。辿り着いたスタッキーニ王国ウリッセでグラニット王国の事を聞きつけ、単身移住しようと考えた。

 ただ、妻子をウリッセに置いてくのはブラックが非情だからでは無く、どんな危険やリスクがあるかわからない土地に連れて行くのがはばかられたため。生活の基盤が整い次第、妻子も呼び寄せるつもりだった。


 魔力鉄道はブラックにとって目新しく、珍しい物を見るようにキョロキョロとしていたが、隣のコンパートメントに乗り込んでいた冒険者風の男性に声をかけられた。


「よお。あんた、この魔力鉄道に乗れてラッキーだったな」


「ラッキー? それはどういう……」


「お前、この魔力鉄道がグラニット国王のスキルで呼び出している物だってのは知ってるか?」


 それは、ブラックも事前に知っていた。というか、スキルと言われた方が納得してしまうほどの存在だというのは周知の事実だ。


「だが最近、魔力鉄道を人間の手で開発しちまったらしい。もちろん、その魔力鉄道はまだまだ発展途上で、スキル由来の魔力鉄道よりも数段劣る物だ。

 で、その人間製魔力鉄道を、ウリッセとの往復によこすつもりらしい」


「まあ、当然と言えば当然だな」


 これがスキル由来となれば、必ずグラニット王国の国王が乗っているはず。

 だが、頻繁に国を空ける国王なんて聞いたことが無いし、なるべく国を離れないようにするのは当然の判断だと考えられる。


「とにかく、こんな数世代先と言えるような乗り物に乗れる機会は、この先そうそうなさそうだからな。そんな乗り物に乗れてラッキーだって事だ」




 北部大陸と南部大陸を繋ぐ地峡を越えると、南部大陸独特の自然環境が窓から見えた。


「これは……すごい……」


 今まで見たことない光景に、ブラックは見入られると共に興味を示した。

 そして、すでに新しい庭の設計アイディアが頭の中で構築されていた。


 クロスタウンの駅に着き、どうにかして南部大陸での仕事を受ける方法を思案していた頃、ある人物からお呼びがかかった。

 その人物こそ、ブルネルであった。


「著名な庭師であるブラックさん、ですね?」


「ええ、まあ、はい」


「実は、この国の本来の首都であるセントラルシティの開拓にようやく着手できるようになりましてね。この機会に、国王陛下の王宮を建築する計画を立てているのですよ。

 そこで、あなたに王宮の庭の設計を依頼したいと思いまして」


 この話は、ブラックにとって渡りに船だった。

 ブラックは、零からやり直すつもりでコツコツと仕事を受注するつもりだったのだが、いきなり国王陛下の案件がやって来たのだ。


「謹んでお受けさせていただきます」


 こうして、グラニット王国での最初の仕事は、思っていたよりもかなりの大型案件となった。


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