第40駅 続・ファイバーランド探索 ~ファイバーランド~

 新領域探索はまだまだ続く。


「あれはなんでしょう? 剣のような葉が放射状に生えていますが……」


「ああ。多分リュウゼツランの一種かな。ちょっと待ってて」


 あれがリュウゼツラン系の植物で、ここの領域の植生を考えると心当たりが一つ出てくる。

 僕はその植物をじっくり観察した。


「おそらく、サイザルアサだね。マニラアサと同じで、麻っていう名前なのに麻の仲間じゃ無い。さっき言ったとおりリュウゼツランの仲間だよ」


「そのリュウゼツランという植物は聞いたことがありませんが……おそらく、南部大陸特有の植物なんでしょうね」


「そうかもね。で、サイザルアサの繊維は丈夫で、ロープや絨毯、バッグなんかに使われてる。まぁ、水に濡れたら急激に縮むらしいけど」


 一通り探索を終え駅に帰ると、冒険者から報告があった。

 大体が僕達が見つけた物と同じ植物の報告だったけど、一つだけ僕達も見つけられなかった報告があった。


「これを見て下さい。中から綿が出る実です」


 見せられたのは、両手で持てるぐらいの、細長い実だった。すでに乾燥が進んでいる。

 その中には、綿がたくさん詰まっていた。


「これ、もしかしてカポックかな?」


「カポック、ですか?」


「そうだよ、アン。繊維が短くて糸には出来ないけど、軽くて水に浮く。だから救命胴衣とかに使われていたことがあって、僕の世界ではカポックがそのまま『救命胴衣』っていう意味の業界用語だったりするんだ」


 その後も報告が色々あったけど、概ねイトバショウ、マニラアサ、サイザルアサ、カポックがこの領域に生息している植物、ということになりそうだった。


 そして、この領域と駅の名前も決めた。


『ファイバーランド』


 繊維の地、という名前で、そのまんまといえばそのまんまだった。




「繊維が見つかったのですか。お見事です、陛下」


 クロスタウンに到着後、僕達はブルネルさんに調査の結果を伝えた。待ちに待った繊維の発見なんだから、ブルネルさんの喜びようは凄まじかった。

 普段冷静だからあんまり表情が変わらないけど、そんなブルネルさんの表情が変わったんだよね。


「実は、自分の方から陛下へ提案が。グラニット王国への移住者が増えてきましたし、魔道鉄道の量産や運行体勢の構築も順調です。なので、ここで――セントラルシティの本格開発を行おうかと」


「思ったより早いね」


 そもそも、精霊であるトムにグラニット王国の建国を宣言した際、セントラルシティを首都とすることを明言していた。

 グラニット王国へ移民を受け入れた始めた頃、交易相手であり移民や難民の集合場所であるスタッキーニ王国のウリッセに近い事が理由で、クロスタウンへの移住を開始した。

 まぁこれ自体は事情が事情だったからやっていたけど、いつかは首都であるセントラルシティへ本格的に移住と開発をやらなければならないと思っていた。


 ただ、それを実行するのは移住生活がある程度軌道に乗らなければならないので、早くても数年後かと思っていた。

 それが一年もかからずに前倒しされたんだ。


「人数が集まってきましたので。それと聖樹の領域内の作物成長の早さは特筆できることですし、なにより魔道鉄道の量産による交通網の整備に目処が立ったことが大きな要員です。

 また、セントラルシティ開発と平行し、各領域への移住も進めます。それぞれの領域の特色に沿った開発を行うつもりです」


 南部大陸は、どういうわけか領域ごとに特徴がハッキリしている場合が多い。例外なのはクロスタウンとセントラルシティくらいだった。

 なので、各領域の特産――例えばフルーツタウンであればフルーツ各種などの生産を重点的に行う、というわけ。


 現在、クロスタウンでは作物の栽培や畜産をある程度行っているけど、これから人口が増えることを考えると『細々と』と形容されてもおかしくない。

 つまり、各領域の開発は、南部大陸の特産物生産の強化って事になるんだよね。


「わかった。ブルネルさんの言うとおり、他の領域の開発に着手しよう」




 翌日、自分のステータスを確認してみると、レベルが上がっていて新しい施設が使えるようになっていた。

 レベルは五十五に上がっており、『レストラン設置』が使えるようになっていた。なんでも、駅にレストランを設置出来るらしい。


「それじゃあ、レストラン設置!」


 駅を出てからレストランを設置してみた。すると――。


「なんか、おっきくなったのだー?」


「それに、デザイン性が付け加えられたような……」


 今までの駅は、レンガで出来た箱、という無機質な感じだった。

 でもレストランを設置したら、駅舎が少し大きくなり、ちょっと凝った外見になった。

 具体的に言うと、右端に小さい尖塔らしき構造物が出現し、そこに時計がはめ込まれていた。


「あー、もしかして、ヴィクトリア様式を意識しているのかな?」


 ヴィクトリア様式。イギリスのヴィクトリア女王の時代に生まれた建築様式のこと。

 まあ、一口にヴィクトリア様式と言っても色々あるらしいけど、イメージするとすれば夢の国のホテルがそう。あれはヴィクトリア様式で建てられているはずだから。


 ちなみに、ヴィクトリア朝は産業革命が起こった時代で、鉄道が生まれ成長したのもこの時代。だから、ヴィクトリア様式は駅にピッタリの建築だと思う。

 事実、ヴィクトリア様式で建てられた駅は存在する。有名なところで言うと、ロンドンにあるセント・パンクラス駅とか。


 駅の中にあるレストランに入ると、そこは赤と緑を基調とした格式高い雰囲気が漂っていた。

 厨房内も、食堂車とは比べものにならないほど広く充実した設備になっていた。


「カベとテーブルのランプ、火を使ってるのかー?」


「ロウソク……いえ、ガス……燃焼性の気体を使用しているのですね。シャンデリアは魔道具のランプを使っているようですけど、鎖で吊しているんですね」


「食堂車では使いにくい設備だね。そういえば、気付いたことがあるんだけど――」


 このレストラン、トムの分け御霊がいない。

 つまるところ――。


「きちんと人を雇わないといけないって事だね」


「では、そのあたりもブルネルさんに相談してみましょう」


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