第37駅 海に面した聖樹の領域 ~カームベイ~

 藤田さんとトウさんをスタッキーニ王国まで送り届け、そこからクロスタウンへ帰ってきた日のこと。

 ブルネルさんから依頼があった。


「海辺の地域を調査していただけませんか?」


 突然、そんなことを言われてしまった。


「せっかくスエノブ皇国とメイデン共和国と縁を結べそうですので、この二カ国と直接行き来できる港が欲しいと思いまして」


「ちょっと待って下さい。南部大陸の海がどういうものなのか、ご存じのはずですよね?」


 声を上げたのは、アンだった。どうも南部大陸の海について何か知っているらしいけど……。


「南部大陸の海は、獰猛な魔物の巣窟なんですよ!?」


 この南部大陸、危険なのは陸地だけでは無かったらしい。海も負けず劣らずヤバい環境らしく、だからこそ容易に人が近づけなかった。

 つまり海路を切り開くのはかなり無謀なこと、とアンは言いたいらしい。


「ええ、存じています。ですが、いつまでも船を出せない、というわけでは無いでしょう。トシノリ様の登場によって南部大陸の開発が出来た事と同じように、いつか海の方も通行出来るようになるかも知れません。

 そのための投資であれば、決して無駄にはならないかと」


「えーっと……ちょっといいかー?」


 ブルネルさんとアンの口論に発展しそうになったとき、エディが口を開いた。


「海のことなんだけどなー? ママに聞いたことがあるんだけど、危ないのは沖より遠いところで、浜辺に近いところはそんなに危なくないらしいのだー」


「つまり、近海で漁業をすることは不可能では無いと?」


「それと、北の方だとあんまり魔物がうろつかない場所があるらしいのだー。それを辿っていけば、うまく魔物から逃げることも出来るらしいのだー!」


 エディの情報提供により、アンも港の建設に意義を見出したらしく、それ以上反対しなかった。

 そういうわけで、北東部の海岸の調査へ向かうことになった。




 クロスタウンからハニーガーデンを経由し、そのまま東へ。

 辿り着いたのは、海に面した土地にある、聖樹の領域だった。


「それでは冒険者の皆さん、調査をお願いします」


『うっす!』


 領域内の探索を一緒に連れてきた冒険者達に任せつつ、僕達も調査を開始した。

 アンによれば『海岸線を見たい』ということだったので、さっそく海岸を調査することにした。


「大きく緩やかに弧を描いていますね。かなりの数の船を受け入れられそうです。それに、砂浜では無く岩場なんですね」


「それだと何かいいことがあるの?」


「はい。工事が簡単に済みます。砂浜よりも地盤がしっかりしている可能性が高いので。それに、海面から少し高さがありますね。このままの高さで桟橋を取り付ければ、すぐにでも港として使えそうです」


 総じて、港として理想的な環境らしい。


「ここはなー、あんまり海が荒れないのだー。静かな場所なのだー」


「そうなんだ。じゃあ、この領域は『カームベイ』にしようかな」


 『静かな湾』って意味だね。

 こうしてある程度の調査を終えた僕達は、聖樹の麓まで戻って駅を呼び出した。

 後は冒険者達の帰りを待つだけなんだけど……ここでトムが、ある重大な発言をぶちかました。


「これで、海へ列車を走らせる足がかりが出来ましたね」


「海へ列車を走らせる? 海の上を列車が通れるの?」


「はい。グラニット号とボールドウィン号だけですけど。レイラインの上であれば、海の上でも空でも走れますよ。陸上の方が効率が良いのですが……。

まぁ、あのリットリナさん――でしたか? あの人であれば再現が出来そうですけど、死ぬまでにとっかかりが見つかるかどうかですね」


 なんと、この魔道鉄道、レイラインが繋がってさえいれば海の上でも空でも走れるらしい。

 あまりの衝撃的な話にフリーズしてしまったけど、アンがいち早く立ち直った。


「ま、まぁ、私達だけでもメイデン共和国やスエノブ皇国に行ける事がわかりましたから、あとは機会を待つだけですね。ところでトムさん。どうしてこの一帯の海だけ穏やかなんですか?」


「レイラインの深度が浅く、力が強いからですね。なので魔物が嫌がりやすい環境なんです。これは北西側の海岸も同様のことが言えます」


 その後、数日間調査を終えた僕達は、その情報をブルネルさんに届けた。

 これから港の開発計画を立て、人員や資材の目処が立ったら着工するらしい。


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