第38駅 量産型魔力鉄道 ~クロスタウン~
「出来た、ついに出来たんだよ!」
今日は、リットリナさんに工房へ呼ばれていた。直接声がかかったわけじゃ無くて、ブルネルさん経由だけど。
とにかくすぐに来て欲しいということだったので工房に来てみたら、いきなりそう叫ばれてしまった。
「出来たって言うと……もしかして?」
「そう。魔力鉄道の量産さ!」
ずっと前から進めていた魔力鉄道の量産計画。
なかなか進んでいなかったけど、僕のスキルレベルが上がったことで入手した二両目の魔力鉄道『ボールドウィン号』のおかげで、計画がかなり進んだ。ボールドウィン号をリットリナさんに貸し与えて好きに見分してもらったからね。
その努力の結晶が今日、僕達の目の前にお目見えするってワケだね。
「では、こちらへどうぞ」
案内されたのは、リットリナさんの工房の隣に建っている建物。『鉄道棟』と呼んでいるらしい。
その名の通り、鉄道に関する発明をするための建物なんだそう。まぁ、鉄道は大きいから、別棟で作業するのも当然か。
そこには、二編成の鉄道が置かれていた
一つは、僕が研究用に貸したボールドウィン号と車両全種類。
そしてもう一つが――。
「この列車が?」
「ああ。量産試作一号だよ」
グラニット号やボールドウィン号を一回り小さくした、全身黒の汽車。真鍮製の部品だけが異様に浮き出ているように見えるこの機関車こそ、完成した量産型魔力鉄道の試作機らしい。
「とりあえず完成にこぎ着けたけど、まだまだオリジナルの魔力鉄道にはほど遠いね。馬力が小さくて五両程度しか牽引出来ないし、空を飛べなければ海も走れない」
「最後の二つはともかく、十分スゴいよ」
「あの、少しよろしいでしょうか?」
ここでアンが声をかけた。何か質問があるみたい。
「量産や整備のしやすさはどうなのでしょうか? さすがにそこまでリットリナさんお一人で行うわけにはいかないでしょう?」
「大丈夫だよ。仕組み自体は一度見れば魔道具師なら誰でも作れるものだし、パーツも鍛冶師なら作れなくも無い。ただ、大きいからチームで作って貰うしか無いけど、そこはブルネルさん達の協力があればなんとかなると思う。
整備もマニュアル化出来ているから、ある程度場数を踏んでくれれば誰でも出来る。それからは教育体制も整うだろうから、さらにブラッシュアップ出来るだろう」
機関車を一通り見終わると、次は客車や貨車の見学に移った。
「まずは、客車から」
リットリナさんが試作した客車は、僕のスキルにある一般客車を参考にしたらしい。シートの取り付け方が似ている。
ただ、まだ繊維が貴重な関係なのか、クッションは付けられていなかった。
「基本的に、備品やパーツのほとんどは魔法を使わないから、職人仕事中心だったよ。ワタシが担当したのは、設計と照明だね。まぁ、照明は魔道具としてはありふれた物だから、車両に会わせて改良するくらいだったかな。
あと、ワタシがやったのは――」
そして案内されたのは、トイレだった。
ただ、僕のスキルで出している客車のトイレとは何かが違う。
「なにかトイレに詰まっていますね」
「このニオイは……木かー?」
「惜しいね。おがくずを入れているんだ」
リットリナさんの説明によると、用を足した後にクランクを回すと、おがくずが攪拌され悪臭を出さずに分解されるらしい。
そして、何ヶ月かに一回おがくずを入れ替えれば良いとか。
で、これに似たトイレを僕は知っている。
「もしかして、バイオトイレとかコンポストトイレとか言われているもの?」
「おや、もしかして国王陛下がいた世界に存在したトイレなのかい?」
「聞いたことがあるだけだけど。水が使えないところに設置されているって聞いたことがある」
「そうだったのか。この世界ではワタシが発明した物だが、あんまり注目されなかったね。水源に問題を抱えている土地を治めている一部の貴族が注目してくれた位だったけど」
実のところ、バイオトイレは水分過多になると分解能力が落ちる。そのため水分を蒸発させる必要があるほか、排泄物を分解する微生物を活性化させるため加熱は必須。
その加熱機構を組み込む必要があるため、ある種の魔道具になってしまうのだそう。
魔道具になったトイレは高いし、経済力がある人は水洗トイレを選ぶ。
そういった事情があり、バイオトイレはこの世界では微妙な立ち位置になってしまったため、あまり注目されなかったらしい。
「でも、車両用トイレを作るのに役立ったかな。さすがに狭い車両にトイレの排水機能を組み込む技術は無いし、手洗い場を設置するのが精々だったよ」
「いやいや、十分スゴいよ」
魔道鉄道の機関車を短期間で作ってしまったのも驚きだけど、実用的な客車、しかも高性能なトイレを搭載したものを作ってしまった。
改めて、リットリナさんの高度な技術に驚かされてしまった。
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