第36駅 初の国賓 ~クロスタウン~

 現在、ウリッセからクロスタウンへ帰っているところ。

 帰りの列車には、いつも通りスタッキーニ王国から仕入れた物資、保護したトレビシック王国の亡命者、そしてスタッキーニ王国の移住希望者を若干名乗せている。


 ただ、今回はさらに人数が増えていた。


「トシノリ陛下、この列車という物は最高ですな! 乗り物とは思えないほど寝心地がよい」


「それにシャワーという湯浴み施設があることに驚きましたし、販売車で様々な物が買えるのもいいですね」


 スエノブ皇国の外務奉行・藤田さんと、メイデン皇国外交部長官・トウさん。

 彼らは随行員と共に、グラニット王国を訪問すべく、このグラニット号に乗車している。


 両者ともそれぞれの国の外交畑のトップに立つ人物なので、(どこまで出来るかわからないけど)国賓待遇でもてなしている。

 今のところ、僕、アン、エディ、それと若干名しか乗ったことがない寝台車に乗せているのもその一環だった。


 それともう一つ、今回の訪問で思いがけない恩恵が降ってきた。


 最近食堂車を手に入れたんだけど、グラニット王国は出来たてで人材が不足気味。移住してきた人達は開拓や生活基盤を固めるのに必死で、その他への人材の割り振りは最低限しか行われていない。


 つまり何が言いたいかというと――いないんだよね、料理人が。


 そういうわけで、せっかく充実した調理器具があるのに、そこを職場にしている人がいない。

 僕がある程度料理が出来るからよく使っているんだけど、家庭料理程度しかできない。

 別に家庭料理が悪いと言うわけではないけど、さすがにそれしか出来ないのは宝の持ち腐れのような気がしてならなかった。


 けど、そんな状態に一時的とはいえ終止符を打ったのが、藤田さんとトウさん――正確には随行員の方だった。


 二人の随行員の中には、なんと料理人がいた。そのため、食材を提供して本格的な料理が料理を食べることが出来た。

 藤田さんの料理人は和食、トウさんの料理人は中華料理をそれぞれ振る舞って貰った。


「すみません。料理人の方の手をお借りしてしまって」


「いや、お気になされずに。むしろ移動中、しかも普段の料理場よりも高度な器具を揃えているので、料理人達は大喜びしておりました」


「我がメイデン王国やスエノブ皇国の本格料理を、移動する景色を見ながら食するのはなんとも言えない風情がありました」


 そういうわけで、クロスタウンへの道中はものすごく快適に過ごしていただいた。




「ほう。ここがクロスタウンか」


「発展途上ながら、期待感が持てますね」


 クロスタウンの駅に降りた藤田さんとトウさんは、そう感想を漏らした。


「まだ出来たてですからね。それと、ここは都ではないんです」


「なんと!? 都では無いですと!?」


「本当はさらに南にある『セントラルシティ』という場所なのですが、まだ手をつけられていません。それにスタッキーニ王国との交易には、ここクロスタウンが便利ですから」


 会話をほどほどに切り上げ、僕達は二人を街中へ案内した。


 開拓途中の様子や南部大陸の特産品などを見たり味わったりして貰った後、ブルネルさんも交え会談。

 結果、今後も交流を持つことで一致。当面はあまり公にしない、半ば密約に近い物だけど、いずれは公表するとのこと。


「いや、なんとも実りの多い会談になりましたな」


「母国へいい報告が出来そうです」


 数日後、二人はスタッキーニ王国への定期連絡列車に乗り、帰路に着いた。


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