第35駅 二両目の機関車と東の国 ~クロスタウン・ウリッセ~
「おお! 確かにこれは、魔道鉄道の機関車だね」
現在、僕達はリットリナさんの工房にやって来ている。
魔力鉄道のレベルが上がったことにより二両目の機関車を手に入れたので、より有効活用しようとリットリナさんの所に持ってきたんだ。
機関車に客車や貨物車をくっつけてグラニット号とは別に走らせることも可能だけど、一編成増えただけだと焼け石に水だし。
だからリットリナさんに預けて好きなだけ解析してもらい、人の手による魔力鉄道の開発を進めて貰った方がいい。
ちなみに、グラニット号は緑主体の色をしていたけど、今回手に入れた機関車は赤主体だった。それ以外はグラニット号と同じで、同型機と言っても差し支えない。
名前は『ボールドウィン号』。アメリカの古い車両メーカー『ボールドウィン・ロコモーティブ社』にちなんだ。
「では、ボールドウィン号をよろしく」
「承った。これがいつでも見られるとなれば、一気に魔力鉄道の開発が進むね。となると、適当なところでジョシアに発破かけとかないと。本格的な開業が迫っているわけだし……。
ところで、陛下達は明日からスタッキーニだっけ?」
「まあね。定期的な交易と、新しく到着した亡命者の引き取りにね」
ウリッセに到着すると、王宮からの使者が早速話しかけてきた。なんでも、スタッキーニ国王が会いたがっているらしい。
何かあるのかと思いながら用意された馬車に乗り、王宮へ向かった。そして案内された会議室へ通されると、スタッキーニ国王がすでに着席していた。
「実は、皆さんに紹介したい方々がいまして」
スタッキーニ国王が紹介したのは、紋付き袴に刀を差した武士風の男性と、中華風の服を着た男性だった。
「初めまして。某はスエノブ皇国の外務奉行、藤田 重太郎と申します」
「私は、メイデン共和国外交部長官、トウと言います。以後、お見知りおきを」
武士風の男性は藤田 重太郎、中華服を着た男性はトウと言うらしい。
年齢はそれぞれ四十歳と四十五歳らしい。
ところで、二人の国なんだけど、スエノブ皇国は以前アンから聞いたことがある。確か、江戸時代の日本っぽい感じの、北部大陸東端にある島国だったはず。
でも、もう一つの国は聞いたことがなかった。
「アン、メイデン共和国って?」
「スエノブ皇国の南に位置している島国です。元々、北部大陸東部に『ショウセン帝国』という巨大な国があったのですが、ショウセン帝国内の政治闘争に負けて逃れた人々が興した国らしいです。
ですが、数十年前にバルツァー帝国の侵攻を受けてショウセン帝国は消滅。その時に一部の人々がメイデン共和国へ亡命したそうです。なので、現在では唯一ショウセン帝国の文化を受け継ぐ国になったようです」
なるほど。ざっとだけど話を聞く限り、相当苦労をした国らしい。
「ちなみに、スエノブ皇国の『外務奉行』とメイデン共和国の『外交部長官』というのは、外務・外交関係のトップの事です。他国では『外務大臣』とか『外務卿』などと呼ばれている人と同じような立場ですね」
なんとこの二人、日本では外務大臣に相当する超重要人物らしい。
「重要な立場にあるお二人が、国王とはいえ生まれたての、それこそ海の物とも山の物ともわからない国の人間である僕にどのようなご用件でしょうか?」
「実は、グラニット王国と交流を持ちたいと思いまして」
交流? まぁ、それ自体は悪い物だとは思わないけど……。
「トシノリさん。こういう外交の場では、最低限理由をお聞きするべきです。何でも無い要求に見えて、裏でとんでもない事を考えている場合もありますから」
「――そうだね、アン。では、理由を教えて貰ってもいいですか?」
アンから助言を貰った。言われて見れば、アンの言った通りの事が起こるかも知れない。
ホント、アンにはこういう場面で色々助けてもらってるな。
「まず、某はスエノブ皇国の外交を担っている関係上、外国の情報を収集する役目も担っておりまする。集められた情報の中に、グラニット王国に関する情報もありました」
「私は、今の地位に就く前から藤田殿と面識がありまして、国を超えた盟友と言っても過言ではありません。なので藤田殿からグラニット王国の情報をもたらされると同時に持ちかけられたのです。『一緒にグラニット王国と交流を持たないか』と」
藤田さんとトウさんの説明に続き、スタッキーニ国王の解説が入る。
「バルツァー帝国に目をつけられないため、グラニット王国の事はあまり大々的に報じていませんが、交易や移住を行い、魔力鉄道という珍しい乗り物で乗り付けていますからね。いつかはバレます。まぁ、いくら情報を秘匿したところで結局バレるので、時間稼ぎにしかなりませんが……。
ですが、稼いだ時間をどう使うかが大事だと思うのです。現在、侵略したトレビシック王国の占領政策にかかりきりになっているのでしばらく軍事行動を起こさないと思われますが、時間の問題でしょう。
なので各国は、バルツァー帝国から身を守る準備に必死なのです。スエノブ皇国とメイデン共和国の今回の提案は、対バルツァー帝国対策の一環なのです」
なるほど。つまりグラニット王国と友好を暖めておいて、バルツァー帝国に攻められたときに助けて貰おうと。最悪、グラニット王国の地政学上バルツァー帝国が攻めるにはかなり時間がかかるので、自国が占領された時の亡命先として受け入れて貰おうとしていると。
なんとなく両国の思惑が見えたので、アンに目配せをする。
「そうですね……今は味方を増やすべきだと思います。他国にあまり知られていないというのも大きいと思いますけど……。どこでもいいから交流をしようというのはやり過ぎかとも思いますけど、やはり味方を増やす時期ではあると思います」
「そう。確かに、バルツァー帝国のことを考えると、損ではないよね。わかりました。我がグラニット王国は、スエノブ皇国とメイデン共和国と交流を行いましょう」
「おお、ありがとうございます!」
トウさんの感謝の言葉が述べられると同時に、藤田さんがとんでもない発言をした。
「その、出来ればで良いのですが……某達を、御国へ連れて行っては下さいませぬか? 一度、この目で見てみたいのです」
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