第33駅 ある冒険者の新領域調査 ~クロスタウン・ナッツガーデン~
~フェルside~
二十台の男性が、クロスタウン駅にやって来ていた。
彼の名はフェル。冒険者だ。
フェルは少し変わった経歴を持った冒険者だった。
実家はトレビシック王国で代々学者を輩出してきた家系で、フェルもいずれは学者になるのだろうと思っていた。
ところが、授けられたスキルは『レンジャー』。様々なサバイバル技術を習得するスキルだった。
普通の人であれば、学者に関係なさそうだからと別の未知を探ろうとする。だがフェルは違った。
フェルは卓越したサバイバル技術とそれに付随する生物知識を駆使し、フィールドワークを中心とする学者になったのだ。
一応冒険者ギルドにも登録したが、これはフィールドワークをする上で冒険者ギルドに所属していた方が色々と便利だからに過ぎない。
ところが、バルツァー帝国のトレビシック王国侵攻で学問どころではなくなり、亡命。スタッキーニ王国を経由し、トレビシック王国の亡命民が多く移住しているグラニット王国へ辿り着いた。
その矢先、グラニット王国国王であるトシノリが未踏領域への探索に参加する冒険者を募集。フェルの経歴を知っていたグラニット王国冒険者ギルド長のエドワードからの推挙もあり、フェルは未踏領域の探索へ参加することになった。
「みなさん、おそろいですね。では、列車への乗車をお願いします」
乗車を促したのは、トシノリだった。
フェルを始め集まった冒険者達は、スタッキーニ王国で魔道鉄道に乗車する際にその姿を見ているので今更驚きはしない。まだ馴れてはいないが。
意識は、これから行く領域探索の事を考えていた。
目的地は、クロスタウンから南へ進んで二つ目の領域、グレインハイランドを東に進む。
当然、一日以上の旅程になるため、寝台にもなるコンパートメント車での移動となる(トシノリ達は寝台車に乗車)。
しかも、人数が少数ということもあり一人一室あてがわれている。
しかし、さすがに一日中一人で過ごすのは辛いし、暇になる。
そこで他の冒険者と交流や情報交換を行うのだが、その場所は列車の廊下、デッキ、そして販売車だった。
フィルも昼食を買いに販売車を訪れた際、同乗した冒険者と会話をしていた。
「まぁ、ギルド長から言われていたけど、とにかく領域に入ってから窓の外をよく見るのが大事なんだそうだ。領域の中心、聖樹の近くで停車して駅を建てるのが決まりらしいからな。とにかく視覚からの事前情報が重要だと」
「なるほど。道理だな」
「そういうあんたは、これから行く領域について何か予測はあんのかい? 知ってるぜ。トレビシック王国で、学者やりながら冒険者やってるって有名だぜ?」
「確かにそうだが、いくら学者でも無理がある。事前情報が何もない状態で予想なんて出来るわけない。そういうのは、占い師の領分だ」
ただ、一つ言えることがあるとすれば……とフィルは言う。
「領域間の移動の際にも、たまにで良いから車窓を覗いてみることだ。運が良ければ、いい素材や魔物を見つけられるかもしれない」
翌日、目指していた領域に到着した。
聖樹の近くに列車を止めると、トシノリ達三人が出てきて、駅を作る。トシノリが少しお疲れのような様子だったが……。
駅が出来たら、探索開始。今回は冒険者がいるので、分担して探索する。
夕方近くになり、冒険者達は駅に集合した。各々入手した物品をトシノリに提出する。
「おおー。黄色い花なのだー! 列車からも見えたヤツなのだー!!」
「ヒマワリだね。夏に咲く花で、太陽に向かうように花が動くんだ。それと、種は食べられる」
「面白い花ですね」
その後も、冒険者達が次々と手に入れた品物を見せる。
「カシューナッツ、ペカンナッツ、マカダミアナッツ、ゴマ……。ナッツ類が多いな」
「ほとんど北部大陸では見たことがないナッツ類ですね。北部大陸でナッツというと、アーモンドやクルミ、ピスタチオなどが主流ですね。あ、ゴマは北部大陸の東部の国々で栽培されていて、トレビシック王国へは輸入されていましたね」
そしてとうとう、フィルの番になった。
「これを見つけた」
「これは、草――いや、この根は……ピーナッツだ!」
フィルが提出したのは、根にひょうたん状の殻を持った組織をいくつも持った植物、ピーナッツだった。
「根に成るナッツですか。珍しいですね。それにしても、目に付きにくい根の存在に気付くなんて、さすがは学者兼業の冒険者ですね」
「いえ、経験上根に何かあると勘が働いただけなので。それよりも、アン王女に私の名が知られているようで光栄です」
その後の調査で、この領域にはナッツ類が大量に自生しており、ほとんど南部大陸でしか見られない種であったことが判明した。
この特徴により、この領域と駅の名を『ナッツガーデン』と付けられた。
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