第27駅 南部大陸への移民列車 ~ウリッセ・クロスタウン間~
「国王陛下!」
「ブルネルさん。後ろにいる人達が……」
「はい。移住をするトレビシック王国の亡命者達です」
ブルネルさんに率いられ、移住希望者達がホームにやって来た。
ほとんどがトレビシック王国からの亡命者と聞いていたけど、確かにその通りだと思った。荷物が最低限で、服は汚れている。そしてスタッキーニ王国で苦労したのか、みんな顔にクマができているほど疲れているようだった。
でも、目だけは違った。どこか希望を見出しているような目。
祖国の王女であるアンがいる新天地に、希望を見出しているんだと思う。
「それじゃあブルネルさん。この人達を早速乗車させて」
「かしこまりました。それと、陛下に面会したいという方が……」
ブルネルさんが声をかけると、姿を現したのは――。
「本日はお見送りに伺いました、グラニット国王陛下」
「スタッキーニ国王陛下、いらっしゃったんですね」
スタッキーニ国王だった。
本人は見送りに来たと言っていたけど、気になる点がちらほら。
「わざわざ見送りに来て貰わなくてもよかったのに。僕達は、また何度も伺うんですよ?」
「そうですね。しかし、初回というのは何事も大事な物です。今後はあまりここまで姿を見せることはないでしょうが」
南部大陸とスタッキーニ王国を行き来できるのはグラニット号のみなので、今後も僕がスタッキーニ王国を度々訪れることになっていた。交易を行うためと、今後続々と流れてくるトレビシック王国の亡命者を引き取るためだった。
今後、何回も僕はスタッキーニ王国を訪れることになるので、わざわざ国王自ら見送りに来る必要があるのか? と思ってしまった。
ただまぁ、本人は『初回だから』って言っているし、口ぶりから重要な場合は見送りに来るらしいので、ウソは言っていないと思う。
後でアンやブルネルさんに意見を聞いてみよう。
「それでは、無事に帰国出来ることを祈っております。――それにしても、この魔道鉄道でしたか。我が国にも欲しいものですね」
「基礎的な部分はがんばれば実現できるそうですけど……精霊のトムが言っていたことですからね。精霊の感覚で言っていますから、人間にしてみればどれくらいかかるか……。
……おっと、そろそろ出発ですね。それでは、お見送りありがとうございました。またお会いしましょう」
僕が客車に乗り込むと、グラニット号は汽笛を鳴らし、ゆっくりと南方へ向けて動き始めた。
「――なるほど。現在判明している領域のあらましはわかりました」
列車内の僕の部屋で、ブルネルさんを交え四人で打ち合わせを行っていた。
なお部屋は、寝台客車の一室を使っている。
「僕としては、最初にクロスタウンに入植して、ある程度馴れてきたら別の領域に行くっていう計画を考えていたんだけど」
「そうですね。特に陛下が都と宣言されたセントラルシティへは早めに入植したい所です。都が最も発展しているべきですから」
確かにブルネルさんの言うとおりなんだけど、前の世界でも首都より経済的に発展していたり有名な都市は結構たくさんある。
アメリカは首都ワシントンD.C.よりニューヨークの方が知名度があるし、オーストラリアはキャンベラが首都だけどシドニーの方が有名だった。
とりあえず開拓計画の詳細はブルネルさんが考えておくと言うことだったので、内政の話はこれで一旦終わり。
話題は、スタッキーニ国王へと話が移った。
きっかけは、アンの一言だった。
「それにしても、噂に聞いていたとおり政治家として一流でしたね、スタッキーニ国王陛下は」
「ああ。確かに交渉は上手かったと思うけど……」
「それもそうですけど、私が最も注目したのは政治的バランス感覚です。私達と適度に距離を置こうとしていました」
距離を置こうとしていた? 言われてもピンとこないな……。
「そう? むしろ積極的に僕達と仲良くしたい感じだったけど……」
「いえ、スタッキーニ王家の事情を少し知っていれば、中途半端です。実はスタッキーニ国王には私達と同じ年頃の王女がいらっしゃっていて、婚約者もまだ決まっていないそうです。もしスタッキーニ国王がもっと私達との仲を深めたい、もっと言えば南部大陸の産物利権を獲得したいと考えれば、その王女をトシノリさんと結婚させるくらいしていたはずですから」
初耳だった。まさか僕と同じくらいの王女がいたなんて……。
でも、アンの言うとおり、少し考えればスタッキーニ国王の僕達への仲の深め方は中途半端と言わざるを得ない。
それが意味するところは……。
「バルツァー帝国への配慮?」
「十中八九そうですね。もしバルツァー帝国から侵略されて窮地に立たされても、血縁関係を気付いていなければいつでも切り捨てられますから。それと南部大陸産物の利権も、地政学的に十分得られると判断したのでしょう。
なにせ、南部大陸の産品は魔力鉄道を使って輸送する以上、絶対にスタッキーニ王国、しかも国王のお膝元であるウリッセを通らなければなりませんから。輸入量の調整や他国への転売も容易ですからね」
スタッキーニ国王――考えれば考えるほど、油断ならない人物だと思ってしまう。
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