第26駅 移民と開拓支援 ~ウリッセ~
「トレビシック王国の難民をグラニット王国に移住させようとしていますね、トレビシック国王陛下?」
「おや、お気づきになられましたか。与えられた状況で相手の意図していることを見抜けるとは、政治家として頭がいいですね、グラニット国王陛下?」
頭がいいと言われたけど、ちょっと信じられない。今まで、頭の良さを褒められたことがなかったし、実感がないんだよね。
「ええ、まぁ、その通りです。我が国は難民や流民が集まって建国された国でして、かくいう私の先祖も元々は流民のリーダーだった人物で、他国の王家や帝室のように神秘に満ちていたりだとか、華やかな英雄譚もありません。
少し話が脱線しましたが、まぁそういう歴史があるので、難民や流民を拒むことが出来ないのです。ですがお恥ずかしい話、建国して数百年も経つと人を受け入れるキャパシティが減ってきていまして……。これ以上人が増え続けると、有形無形のあらゆる資源が不足し、国が潰れかねないのです」
「だから、我々グラニット王国に難民を受け入れろと?」
「おっしゃるとおりです。ですが、現時点ではあなた方にもメリットがあるはずです。いくら精霊に建国を宣誓したとしても、たった三人だけでは国として実体ある存在になるのは難しい。それに、我々と交易を行う以上、商品の生産は必須でしょう?」
「トシノリさん、トレビシック国王陛下の言うとおりです。やはり国として名実ともに成り立たせるには、まとまった人口が必要です。それに、ブルネルさんをこの場に呼んだと言うことは、トレビシック王国出身者を中心にグラニット王国へ移住するおつもりでしょう。
私とトシノリさんは婚約関係にありますから、ある程度は人心掌握もしやすいですし、統治も容易かと」
アンは、スタッキーニ国王の提案には賛成らしい。
エディは……ダメだ、ついて行けてない感じ。『セイジの事はわからない』と言っているだけある。
ここで、当事者であるブルネルさんが口を開いた。
「自分は、南部大陸に放り出されてしまったアン王女をグラニット国王陛下がお救い下さったのを聞き、感謝しております。それにアン王女と婚約されていると聞いていますので……誠心誠意お仕えするのが道理かと。共に行く者達にも、よく言い聞かせます」
うん。ここまで言うんだったら、ちょっと拒否しにくいよね。それに、スタッキーニ国王の提案も魅力的だし。
「わかりました。グラニット王国国王として、トレビシック王国の難民を受け入れましょう」
「ありがとうございます。早速ですが、移住日程の調整や手順の打ち合わせを――」
というわけで、そのまま移住の打ち合わせに突入しちゃったんだよね。
それから三日後。
ウリッセの南門の外では、移住希望者を迎えるため僕達が準備をしていた。
ちなみに、南門外には旅客駅『ウリッセ駅』と貨物駅『ウリッセ貨物駅』が並んで設置されている。
車両編成は、まずコンパートメント車を八両。コンパートメント一室当たりの定員は四人で、それが一両当たり五室。つまり二十人乗せられる。
それが八両なので、合計一六〇人が定員。トレビシック王国の亡命者は百人に満たないので、余裕を持って乗せられる。若干人数が増えたり大荷物を持っていても難なく乗車できると思う。
それにベッドに変形出来るから、数日がかりの日程でも心配ないはず。
コンパートメント車の後には販売車。十両目は後で説明するとして、十一両目以降は貨物車と家畜車で占められていた。
実はスタッキーニ国王から、グラニット王国への開拓支援として色々物資を貰った。
建物が出来るまで使う野営用具や農耕機具、さらには今のところ南部大陸では見かけていない小麦、ニワトリ、牛、馬も少数ながら貰った。
これらの支援物資を運ぶため、車両の後半は貨物車と家畜車になっていた。
ちなみに、グラニット号の車両編成の限界は二十両。これ以上はレベルが上がろうがどうやっても増やせないし、仮に無理矢理繋げたとしても馬力不足で動かなくなるらしい。
――とまぁ移住用に編成し直したグラニット号だけど、ここからが本題。
実はウリッセへ移動した時に経験値を大量に獲得したらしく、スキルがレベル四十になって新たな車両が使えるようになった。
その車両が九両目に連結されているんだけど――。
「おお、二階建てなのだー!」
「今まで見たことない構造の車両ですね」
色は橙色と赤のツートンカラー。そしてエディが言ったように二階建て。
一等客車と同じように乗降用の扉は自動扉で、デッキと客室を隔てる扉はパネルにタッチすると開く仕組みだった。
中に入ると、廊下と階段が三カ所。
階段は一カ所で上下に繋がっていた。つまり廊下は車両の一階と二階の中間にあって、この階段で一階や二階に行けるようになっている。
とりあえず適当な階段を上ってみた。すると、左右に扉が。
右の扉に入ってみると、そこには窓際にシングルベッドが一台。反対側にカウンタータイプの机があり、一番奥の突き当たりには洗面台と鏡があった。
空いている壁のスペースには、ハンガーとフックが設置されている。
――うん。どこかで見たことあると思ったら、東京と出雲を繋いでいる日本唯一の夜行列車の一番豪華な部屋、『シングルデラックス』に似ている。
「おー。広いし洗面台も付いているのにベッドは一つだけ。ゼイタクなのだー!!」
「あ、ベッドと机の上に何か置いてありますよ」
確認してみると、ベッドの上には薄めのバスローブ、机の上にはアメニティを納めた袋が。
中はスリッパ、アイマスク、歯磨きセット、櫛、お風呂セットなど。
「ん? このカードは何でしょう?」
「どれどれ……あー、なんとなくわかった。後で使える場所を探してみよう」
このカードの事は脇に置いておいて、他の部屋も調べてみた。
結果、どの部屋も同じ構造だった。つまり階段一カ所当たり一・二階で各二部屋、合わせて四部屋。それが三カ所あるので十二部屋用意されている。
デッキを探索してみると、後部デッキは一等客車と同じトイレがあった。
そして前方デッキには――。
「あった。カードを使う部屋だね」
そこは靴を脱いで入る施設だった。
床は凹凸を付けたステンレスの床(暖房は効いている)。壁には固定式の金属カゴとドライヤー、そしてドライヤーを収納するホルダー。
そしてカードを挿入する機械があった。
さらにこの施設、扉が奥に設置してあった。
中を覗くと……。
「これって、もしかして……」
「シャワーなのだー!!」
そう。駅の仮眠室の奥で何度も見た、シャワー室だった。
ただ駅のシャワー室と違うのは、回転ハンドルではなくスイッチでシャワーのオン・オフを操作することと、謎のディスプレイがあることだった。
「さっきのカードは『シャワーカード』って言って、脱衣所の機械に差し込んで使用するんだ。あのカードで六分はお湯を出せて、このディスプレイに残り時間が表示されるみたいだね」
「なるほど……。ですが、シャワーの時間が足りそうにない時はどうしたらいいのでしょうか?」
「それは、もしかしたら……」
再びデッキを探索すると、シャワーカードを売る販売機が見つかった。値段は一枚三三〇アウルム。
「トシノリー。外が騒がしくなってきたのだー」
「ブルネルさん達が来たのかな? ちょっと行ってみようか」
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