第24駅 スタッキーニ国王との会談 ~ウリッセ~

「――というワケです」


「う……ムム……」


 国王専用の馬車に乗せられ、僕達が案内されたのはスタッキーニ王国の王宮。その会議室に通され、スタッキーニ国王と会談していた。

 まぁ会談と言っても、僕達が今まで何をしていたかを説明しただけなんだけど。


 ただ、その説明を聞いたスタッキーニ国王は唸ったままだった。


「あの、どうかなさいましたか?」


「ああ、失礼。あまりにも情報量が多くて、頭を整理するのに時間がかかってしまって……。それで、親に殺され別世界から転移してきた少年に、聖獣と呼ばれる存在に育てられた少女。そして亡国の王女様……。なんとも個性的な面々が集まったことで」


 そして国王は淹れられたハーブティーを一口飲むと、


「それぞれのいきさつについて気になることが多すぎて、後で時間を取ってゆっくりお話したいところですが――南部大陸の詳しい様子も気になりますねぇ。まぁそれも少しずつお聞きしたいところですが、とりあえず先にこの会談の論点を決めてしまいましょうか。――我が国に、何を要求したいのでしょうか?」


「交易の許可を」


 ハッキリと、僕はそう即答した。

 さらに、僕は用意していた箱をスタッキーニ国王に差し出した。


「この箱には、グラニット王国で産出する品物を詰め合わせたものが入っています。どのような物品を輸出するつもりなのか参考にしていただきたいのと、友好とこれからのよりよい関係の証として、差し上げます」


「ふむ、どれどれ……」


 スタッキーニ国王は箱の蓋を開け、中を覗いた。


「うお、ヤッバ……ンン、失礼。一部我が国でも見慣れた物がありますが、ほとんど見たこともない品々ですね。輸出品はこれだけですか?」


 なんか言葉が乱れた気がしたけど、気にしないでおこう。


「今のところは。まだ足を踏み入れていない場所もありますので、今後品目が増える可能性が高いです」


「なるほど。それでもう一度確認なのですが、交易の他に我が国へ求めることは?」


「今のところは、交易だけですね。ですが交易を許可していただいた暁には、駅――乗客や荷物を乗り降りさせる施設を、南門の外に設置する許可をいただきたいです。駅の有無で、客の管理や荷物の積み卸しの効率が違いますから」


「わかりました。非常に魅力的な提案だと思います。ですが、かなり重大な案件ですので、一日時間をいただけませんか?」


 という意見をスタッキーニ国王から貰ったので、僕はアンに目配せした。こういう場に一番強いのはアンだし。

 とりあえず、スタッキーニ国王の意見に従った方がいいという判断になった。


「承知しました。それでは明日、結論を聞かせていただくということで」


「ありがとうございます。我々の方でホテルを用意しましょう。ウリッセで最も高級なホテルのスイートルームをご用意します」




 案内されたホテルは、イタリアンクラシックなデザインで、内装もイタリア風で統一されていた。

 このホテルのスイートルームなんだけど……高級ホテルと言ったスタッキーニ国王の説明は間違いなかったらしい。


 まずホテルの一室であるはずなのにリビングとベッドルームに分かれているし、ちょっとした料理が出来るミニキッチンや様々な飲み物が入ったミニバーもあった。

 ちなみに、ミニバーの飲み物は宿泊費込みらしいので、いくら飲んでもタダ。他の客室では別料金がかかるらしいけど。


 そしてさらに、一般客室がなぜか続き部屋として併設されていた。


「ああ、それは使用人用の部屋ですね」


「使用人用の部屋?」


「はい。このホテルはグレードが最高級ですので、利用する客層は必然的に国内外の王族、貴族、大商人が中心になります。そういった方々は使用人や執事、側近などを伴って旅をされるのが普通ですから」


 アンの説明に納得した。そういえば、この世界は国王や貴族が普通にいる世界なんだった。

 前の世界の旅行とは、違いがあって当然だからね。


 水回りだけど、キッチン、洗面所、浴室には蛇口が付いていたし、トイレ全て水洗式だった。


「民間の施設にも、水道が付いているんだね」


「高級ホテルですからね。水道や下水道は一種の魔道具ですしサイズが大きめなので、それなりの収入を持っている方しか設置出来ません。温度調節機能を持つとなるとなおさらです。

 私はむしろ、魔道鉄道のを見たときにびっくりしましたね。あんな小さい空間に水道や下水の魔道具を積めるんですから」


 どうやら、水道関係は世間的にはまだまだ高嶺の花らしい。


「あ~、ようやく終わったのだー! なぁ、この服、脱いでいいかー?」


「うん、もう着替えていいよ、エディ。――ところでアン。今日のスタッキーニ国王の感触どうだった?」


「好感触だと思います。ですが、国王の決断を躊躇させる要素がいくつか……」


 その点について、一つずつアンが説明した。


「一番悩ませているのは、私達の年齢ですね。十二歳の少年少女だけで国家を運営していけるのかどうか」


「うん。それについては、なんとなくわかるよ」


 アンに以前聞いたけど、この世界は十六歳前後で成人と見なす国が多いらしい。

 成人以下の年齢で王に即位する例も世界中にあるらしいけど、そういう場合は王の代理を立てて政治を行う事になっているらしい。代理の名前は国によって違うそうだけど。

 だから、成人していないのに代理もおらず国を運営していけるのか。スタッキーニ国王の懸念はそれらしい。


「それと国民が私達三人しかいないのも問題です。いくら魔力鉄道の輸送量が優れていても、人工不足による生産能力不足であれば意味ないですから。それについてはまぁ、スタッキーニ国王にも考えがあるように感じられましたけど」


 え、そんなこともわかっちゃったの? スタッキーニ国王はそんなこと一言も言っていないのに。

 驚く僕を他所に、アンは最後の懸念点を説明した。


「あとはまぁ、バルツァー帝国からどう見られるかですね。見たこともない商品の登場とそれによる景気向上によって、スタッキーニ王国の富を狙って動き出すとも限りませんから。

 ただ、まだスタッキーニ王国とバルツァー帝国の間にはいくつか現在も存続している国があるので、動き出すとしても時間はあるでしょう。実際にバルツァー帝国が動き出したときに私達がどう出るかも心配していると思いますが……まぁ、時間的余裕もあるのでそこまで優先して考えてはいないでしょう」


「なるほど……。ところで、今日見せた商品に魅力がないって思われた可能性は?」


「ありませんね。スタッキーニ国王は『料理』のスキルを持っていて、食べ物であれば未知の物であっても食べ方や適した加工方法がわかりますし、どの地域で受け入れられるかも国王の政治センスも駆使すればかなり正確にわかるはずです。

 唯一心配する点があるとすれば、コショウと茶葉でしょうか。スタッキーニ王国でも生産しているので、需要を食い合うと思われるかも知れません。ですが両方ともスタッキーニ王国では北部大陸の需要全てを満たせていませんので、あまり心配していないかも……」


 スタッキーニ国王が料理スキルを持っていることに驚いたけど、まぁ会談はこちらに何か失点があったわけではない、というのがアンの見立てだった。

 後は、スタッキーニ国王が政治的にどう判断するか、なんだね……。


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